***
最終日、同じホテルに泊まっていた私たちは、四人で恩納村のダイビングにチャレンジした。かつて、先生と律さんが二人でやったというダイビングで、私は先生に、晶は律さんに手ほどきをしてもらいながら、海の世界を堪能した。
「やっぱり律はダイビングうまい! 運動神経抜群でいいね」
「そういう羽美こそ、体育で“10”以外とったことないだろ」
「へへん、体育以外でもほぼ全部“10“でした!」
「はは、聞いてないって。でも確かに羽美は優秀だったもんなー」
二人が高校時代の思い出話をしているのを、私はほのぼのとした気持ちで聞いていた。
先生にも、私と同じような高校生だった時間があったのだ。
分かってはいたことだけれど、身に沁みて実感して、なんだか未来の自分の姿を見たような気がした。
「兄貴、すごい自然体だな。やっぱり兄貴の隣にいるのは羽美さんでなくっちゃ」
全身から水を滴らせた晶くんが心底嬉しそうに呟く。
「晶くんって、好きな人のために手話習ってたんでしたっけ」
「え、いきなりなに!?」
羽美先生と律さんが、一瞬にして過去にタイムスリップしたような掛け合いをするのを見守りながら、私は晶くんに気になっていたことを聞いた。
「手話教室に通ってた理由です。前にそんなこと言ってましたよね」
「そ、そうだけどさ……突然ぶっこまないでよ」
健常者である晶くんが手話教室に通っていた理由を、かつて一度だけ聞いたことがある。学校で気になる女の子が、耳の不自由な子だったと言っていた。その人とどうなったのだろうかと興味が湧いて尋ねた。
「ぶっこんだつもりはなかったんですけど。で、その人とどうなったんですか?」
「それは、秘密だよ! 青葉ちゃん、喋れるようになったら結構つっこんでくるのな?」
「ふふ、やっぱり自然体で話せるのっていいですよね。手話でももちろん話せてましたけど、手話では聞きづらいことも聞けちゃいます」
私は舌を出して晶をからかう。もし晶くんがその女の子といま、そういう関係なのだとしたら——私はちょっぴり胸の奥がひりついてしまう。でも、この気持ちはまだ芽吹き始めた小さな子葉みたいなものだから、大切にとっておこうと思った。
「青葉ちゃん、晶くん! 次はアメリカンビレッジに行くよー! 早く早くー!」
ダイビングを終えて着替え終えた羽美先生が、私たちに大きく手を振っている。
すっかりいつもの調子に戻った先生に、私は「はあい!」と明るく返事をした。先生の隣で、律さんがやわらかに微笑んでいる。私の隣では晶くんが、「今行きます!」と威勢よく声を上げた。
潮の香りが、この日の記憶を私の胸の真ん中に閉じ込める。
きっとこの先海に行くたびに、先生と沖縄で旅をしたことを思い出すのだろうな。
先生の隣までたどり着くと、先生は「青葉ちゃん」と私の背中をポンと軽く叩いた。
「この旅から戻ったらさ、詩織ちゃんと梨花ちゃんに、本音を話してみたら?」
「詩織と梨花に……」
二人は私の親友だった人たちだ。でも、中学の一件以来、一度も言葉を交わしていない。
それなのに、どうして今更二人に話ができるだろうか。先生は、私が中学時代に詩織や梨花と何があったのか、知っている。その上で私に、二人と何を話せというのだろう……?
「それは、詩織や梨花と仲直りをしたほうがいいってことですか?」
上滑りした声で、先生に疑問をぶつける。
先生は数度、ぱちぱちと瞬きをしたあと、「ああ、違うよ」と私の疑問を否定してくれた。
「仲直りは無理にしなくてもいいと思ってる。あくまで私の見解だけどね。自分を傷つけた人と、一緒にいるのは辛いでしょ? でもさ、本音は伝えるべきだと思うんだ」
先生は私に、詩織や梨花と無理に元通りにならなくていいと言う。
その言葉に私はとてもほっとさせられて、心がじんと温まった。
先生は通り一辺倒の言葉で私を諭さない。それが、私の“心の声”を尊重してくれているようで、嬉しかったのだ。
「今の青葉ちゃんなら伝えられるよ。押し留めてた本音を。自分の心の声を伝えて、それから前にすすもう。もちろん、青葉ちゃんが二人ともう一度友達になりたいなら、そうすればいい。全部青葉ちゃんの自由だよ」
先生が触れた私の背中から、羽が生えたみたいに心がすっと軽くなる。
詩織や梨花と友達に戻るも戻らないも、私の自由なんだ。
そう思うと、二人に本音を伝えることが怖くなくなった。縁が切れたって、憎まれたっていい。それよりも、私が前に進むために必要なことをしよう。
“青葉って可愛くないくせに、成績がいいからって調子に乗ってる”
“勉強も運動も頑張ってますアピール? うざー”
二人に心の声でそう言われて、「違う」と声に出して否定できなかった過去の自分にさよならするんだ。
「分かりました。私の“心の声”を、二人にぶつけてみます」
私が決意を口にすると、先生は「よおし」と拳をぎゅっと握って空に突き上げた。気合いを入れる時の先生のお決まりのポーズも、すっかり見慣れてしまった。
「そうと決まれば景気付けにアメビレでタコライス食べるよ!」
「ふふ、沖縄らしいですね」
「いや、ビールに合いそうだから」
「そっちですか。まあなんでもいいです。行きましょう」
最後まで羽美先生は、羽美先生らしく、翼を広げて踊るように駆けていく。先生の行く先には、右手を大きく挙げた律さんが「羽美!」と呼ぶ姿がまぶしく映る。
先生は後ろにいる私に手を伸ばす。その手をぎゅっと握りしめて、濡れた髪の毛から水を弾きながら、私は一緒に走って行った。
【8/18 最後の旅が終わりました。#五感の旅で、たくさんの人に出会い、傷つくこともあったけど、今は清々しい気持ちで前を向いています。過去に押し込めた私の“心の声”にもう一度耳を傾けてみよう——そう思える旅でした。一緒に旅をしてくれた先生と、出会ってくれた人たちに最大の感謝を込めて。#五感の旅】
Replying to @aoumi_0802
しほ@shihochan0903
【碧海さん、いろいろあったと思いますが、お疲れ様でした。とっても素敵な旅だと感じました。次回の旅も楽しみにしています】
ARASHI@araaraaaaa
【碧海さんのことを悪く言う人たちもいるけど、そうじゃない、自分のようなファンもいますので! これからも応援しています】
Hiro@hirona0512
【碧海さんの旅の中で出会えて本当に良かったです。私の話を聞いてくれてありがとうございました】
最終日、同じホテルに泊まっていた私たちは、四人で恩納村のダイビングにチャレンジした。かつて、先生と律さんが二人でやったというダイビングで、私は先生に、晶は律さんに手ほどきをしてもらいながら、海の世界を堪能した。
「やっぱり律はダイビングうまい! 運動神経抜群でいいね」
「そういう羽美こそ、体育で“10”以外とったことないだろ」
「へへん、体育以外でもほぼ全部“10“でした!」
「はは、聞いてないって。でも確かに羽美は優秀だったもんなー」
二人が高校時代の思い出話をしているのを、私はほのぼのとした気持ちで聞いていた。
先生にも、私と同じような高校生だった時間があったのだ。
分かってはいたことだけれど、身に沁みて実感して、なんだか未来の自分の姿を見たような気がした。
「兄貴、すごい自然体だな。やっぱり兄貴の隣にいるのは羽美さんでなくっちゃ」
全身から水を滴らせた晶くんが心底嬉しそうに呟く。
「晶くんって、好きな人のために手話習ってたんでしたっけ」
「え、いきなりなに!?」
羽美先生と律さんが、一瞬にして過去にタイムスリップしたような掛け合いをするのを見守りながら、私は晶くんに気になっていたことを聞いた。
「手話教室に通ってた理由です。前にそんなこと言ってましたよね」
「そ、そうだけどさ……突然ぶっこまないでよ」
健常者である晶くんが手話教室に通っていた理由を、かつて一度だけ聞いたことがある。学校で気になる女の子が、耳の不自由な子だったと言っていた。その人とどうなったのだろうかと興味が湧いて尋ねた。
「ぶっこんだつもりはなかったんですけど。で、その人とどうなったんですか?」
「それは、秘密だよ! 青葉ちゃん、喋れるようになったら結構つっこんでくるのな?」
「ふふ、やっぱり自然体で話せるのっていいですよね。手話でももちろん話せてましたけど、手話では聞きづらいことも聞けちゃいます」
私は舌を出して晶をからかう。もし晶くんがその女の子といま、そういう関係なのだとしたら——私はちょっぴり胸の奥がひりついてしまう。でも、この気持ちはまだ芽吹き始めた小さな子葉みたいなものだから、大切にとっておこうと思った。
「青葉ちゃん、晶くん! 次はアメリカンビレッジに行くよー! 早く早くー!」
ダイビングを終えて着替え終えた羽美先生が、私たちに大きく手を振っている。
すっかりいつもの調子に戻った先生に、私は「はあい!」と明るく返事をした。先生の隣で、律さんがやわらかに微笑んでいる。私の隣では晶くんが、「今行きます!」と威勢よく声を上げた。
潮の香りが、この日の記憶を私の胸の真ん中に閉じ込める。
きっとこの先海に行くたびに、先生と沖縄で旅をしたことを思い出すのだろうな。
先生の隣までたどり着くと、先生は「青葉ちゃん」と私の背中をポンと軽く叩いた。
「この旅から戻ったらさ、詩織ちゃんと梨花ちゃんに、本音を話してみたら?」
「詩織と梨花に……」
二人は私の親友だった人たちだ。でも、中学の一件以来、一度も言葉を交わしていない。
それなのに、どうして今更二人に話ができるだろうか。先生は、私が中学時代に詩織や梨花と何があったのか、知っている。その上で私に、二人と何を話せというのだろう……?
「それは、詩織や梨花と仲直りをしたほうがいいってことですか?」
上滑りした声で、先生に疑問をぶつける。
先生は数度、ぱちぱちと瞬きをしたあと、「ああ、違うよ」と私の疑問を否定してくれた。
「仲直りは無理にしなくてもいいと思ってる。あくまで私の見解だけどね。自分を傷つけた人と、一緒にいるのは辛いでしょ? でもさ、本音は伝えるべきだと思うんだ」
先生は私に、詩織や梨花と無理に元通りにならなくていいと言う。
その言葉に私はとてもほっとさせられて、心がじんと温まった。
先生は通り一辺倒の言葉で私を諭さない。それが、私の“心の声”を尊重してくれているようで、嬉しかったのだ。
「今の青葉ちゃんなら伝えられるよ。押し留めてた本音を。自分の心の声を伝えて、それから前にすすもう。もちろん、青葉ちゃんが二人ともう一度友達になりたいなら、そうすればいい。全部青葉ちゃんの自由だよ」
先生が触れた私の背中から、羽が生えたみたいに心がすっと軽くなる。
詩織や梨花と友達に戻るも戻らないも、私の自由なんだ。
そう思うと、二人に本音を伝えることが怖くなくなった。縁が切れたって、憎まれたっていい。それよりも、私が前に進むために必要なことをしよう。
“青葉って可愛くないくせに、成績がいいからって調子に乗ってる”
“勉強も運動も頑張ってますアピール? うざー”
二人に心の声でそう言われて、「違う」と声に出して否定できなかった過去の自分にさよならするんだ。
「分かりました。私の“心の声”を、二人にぶつけてみます」
私が決意を口にすると、先生は「よおし」と拳をぎゅっと握って空に突き上げた。気合いを入れる時の先生のお決まりのポーズも、すっかり見慣れてしまった。
「そうと決まれば景気付けにアメビレでタコライス食べるよ!」
「ふふ、沖縄らしいですね」
「いや、ビールに合いそうだから」
「そっちですか。まあなんでもいいです。行きましょう」
最後まで羽美先生は、羽美先生らしく、翼を広げて踊るように駆けていく。先生の行く先には、右手を大きく挙げた律さんが「羽美!」と呼ぶ姿がまぶしく映る。
先生は後ろにいる私に手を伸ばす。その手をぎゅっと握りしめて、濡れた髪の毛から水を弾きながら、私は一緒に走って行った。
【8/18 最後の旅が終わりました。#五感の旅で、たくさんの人に出会い、傷つくこともあったけど、今は清々しい気持ちで前を向いています。過去に押し込めた私の“心の声”にもう一度耳を傾けてみよう——そう思える旅でした。一緒に旅をしてくれた先生と、出会ってくれた人たちに最大の感謝を込めて。#五感の旅】
Replying to @aoumi_0802
しほ@shihochan0903
【碧海さん、いろいろあったと思いますが、お疲れ様でした。とっても素敵な旅だと感じました。次回の旅も楽しみにしています】
ARASHI@araaraaaaa
【碧海さんのことを悪く言う人たちもいるけど、そうじゃない、自分のようなファンもいますので! これからも応援しています】
Hiro@hirona0512
【碧海さんの旅の中で出会えて本当に良かったです。私の話を聞いてくれてありがとうございました】



