傷だらけの私たちの#五感の旅 ーあの日閉じ込めた心の声ー

「……ということなんだけど。もちろん、ダメだよね?」

 その日の夜。
 善は急げということで、早速両親に十五日間の旅のことを打ち明けた。先生も一緒だから、その点は心配いらないとは思った。でも、さすがにそんな大旅行、許してくれるはず——。

「いいわよ〜行ってらっしゃい」

「そうだな。小日向先生も一緒なら安心だ。ぜひいっておいで」

 はい?
 今、二人は何て言った?
 十七歳の娘が、突然旅に出るだなんて突拍子もないことを話して受け入れてくれる親がどこにいる?
 いや、いたのだ。
 他でもない、私の両親。

「いやいや、もっと反対とかしないの?」

 なんか私、二人にそれほど心配されていないのかも……とよく分からない承認欲求のようなものがむくむくと湧き上がり、メンヘラ彼女ばりの質問を手話で表現する。

「だって、青葉の顔に“行きたい”って書いてあるんだもの。だったら背中を押すのが親の役目でしょ? それに、お金のことなら心配しないで。こんな時のために、たんまり貯めておいたから!」

 母がえへんと胸を張って誇らしげに言う。
 こんな時のためにって……進学とか一人暮らしとか、そういう人生の転機のために貯めてくれていたのではないの? 旅行なんて遊びで使うなんてもったいない気が……。
 自分からお願いしておいて、私の心の中の戸惑いを察したのか、今度は父が「あのな」とゆっくりと私の目を見ながら手話で語りかけた。

「父さんたちは、青葉に自分らしく生きてほしいだけなんだ。だから、青葉が自分からやりたいって言ったことを止めたくない」

 今まで聞いたことのなかった父の言葉が、ゆっくりと胸に浸透していく。
 温かい。
 誰かの言葉を温かいと感じたのは、母と父と、それから羽美先生と話す時だけかもしれない。

「ありがとう」

 二人に頭を下げて、大事な通帳を受け取る。
 こんなにもあっさりと事が運ぶとは思っていなかったけれど、両親に感謝しつつ、先生との旅行に、期待に胸を膨らませていた。