***
その日のうちに、私たちは長崎から福岡へと電車で戻り、夕方の便で福岡空港から那覇空港へと飛んだ。
「まっさか本当に沖縄まで来ちゃうなんてねえ〜。なにこれ、楽しすぎ」
飛行機に乗って沖縄までやったきたことで、先生は迷いが吹っ切れたのか、トワイライトの空に向かって拳を突き上げた。
「西海岸のホテルも予約済みですよ」
「え、まじ!? 本当にあの日のデートを再現してくれてるんだ」
「はい。リアルな再現を追い求めてますので」
「シゴデキじゃん」
先生に褒められて、無意識のうちに、鼻高々な気分に浸る。突然の旅行での飛行機の予約やホテルの予約は確かに大変だったけれど、逆に直前にキャンセルをする観光客がいたので、なんとか二泊三日の旅の予約をすることができた。
夏の夜の沖縄は、思っていたよりもずっと涼しかった。むしろ、東京の街のアスファルトの照り返しのほうがきついぐらいで、夜ということもあり、涼しくて開放的な気分にさせられる。
幸い台風の危機もなさそうだし、この二日間は先生のためにすべて使う予定だ。
「今日はとりあえずホテルに行きましょう。空港からのバスが出てます」
「了解です。ツアーガイドさん、よろしくお願いします」
先生がわざとらしくぺこりと頭を下げるのを見てから、私は事前に予約しておいた沖縄エアポートシャトルというバスに乗り込んだ。泊まる予定のホテルは、「ナビービーチ前」というバス停の近くだ。沖縄本土の西海岸にはリゾートホテルが集まっている。
今日から二日間泊まるのは、西海岸にある有名なチェーンリゾートホテルだ。
価格がリーズナブルで、リゾート気分も味わえる。
さらに、先生が律さんと以前泊まったホテルでもあるらしい。
そんなこととはつゆしらず、先生は「予約ありがとうね」と笑って言ってくれた。
那覇空港からナビービーチ前まで一時間四十分近く揺れていた。車窓から移り行く沖縄の街の景色を眺めていると、全然知らない場所なのに普段からここで生活しているような感覚がして、不思議だった。ホテルに着く頃には二十時を回っていて、身も心もへとへとだ。
「ん〜やっと着いたね! って、今日泊まるの、ここ?」
マップを見ながらホテルの前まで歩いていく私の後をついてきた先生が、現れたホテルの外観を見て目を見開く。
「はい、そうです。ここに二泊します」
「……懐かしい。徹底してるね」
羽美先生が瞳をきゅっと細めて、大きく深呼吸をした。きっと先生の頭の中では今、三年前に律さんとデートをした時のことが思い浮かんでいるのだろう。
「二十四時間営業のカフェラウンジがあるみたいなので、そこで夜ご飯を食べません?」
「うん、賛成。昔来た時も食べた記憶があるわ」
「それなら尚更良かったです。先生と律さんの思い出でも聞かせてください」
羽美先生は律さんとホテルに来た時のことを思い出したのか、ふっと優しく微笑んでホテルの中へと一歩ずつ足を踏み入れて行った。
フロントからとても綺麗で、ずっと旅をしていたはずなのに、本格的に旅行をしているな、という気分にさせられる。チェックインをして荷物を置いたあと、早速カフェラウンジで食事をとることになった。
「ここのピザがめちゃくちゃおいしいんだよ」
「じゃあ、ピザにします」
先生のおすすめにより、『釜焼きピザ』を二枚注文した。二枚と言っても大きすぎることもなく、女性が食べられる量でちょうどよい。私はマリナーらピザを、先生はジェノベーゼピザを頼んでいた。
「律とは、高校一年生の時に出会ったんだよね」
ピザのチーズを伸ばしながら、唐突に先生が律さんとの馴れ初め話を聞かせてくれる。恋バナなんて久しくしていない私は、先生の話が気になってじっと身を乗り出すようにして聞く。
「文化祭の準備で一緒になってさ。話してると明るい気持ちになれる……そんな人だったんだー。でもお母さんがいないぶん家庭のことが忙しくて、家事とか弟の世話とか、苦労してたんだよ」
先生はなんでもないことのように語るが、いざ自分が律さんの立場だったらかなり大変なのではないだろうか。弟の晶くんは律さんより九歳年下で、律さんが高校生の頃はまだ小学校低学年だったことになる。
「それでも、学校では飄々としててさ、勉強も運動もできて、私はずっと憧れてたんだ」
先生が昔を懐かしむようにすっと目を細めて言う。
律さんのことが、本当に大好きだったんだな。
憧れから恋愛をしていた先生の気持ちは、なんとなく理解できる。
私も、先生への憧れを恋だと思っていたから。
私の場合は恋じゃないと気づいたけれど、そのまま恋をしてしまうパターンだってもちろんあるだろう。
「本当に好きだったんですね、律さんのこと」
「うん。今でも好きなんだ——って、生徒の前でこんなこと言うのも恥ずかしいけどねっ」
先生は取り繕ったように、「ささ、食べよ食べよ」とピザをもりもり口に運び出した。一緒に頼んだクラフトビールもガブガブ飲み始めたが、さすがに慌てすぎではないかと心配になる。案の定、先生は途中でむせていた。
明日からの沖縄での二日間が、先生の人生にとって有意義なものになりますように。
そう祈らずにはいられなかった。
その日のうちに、私たちは長崎から福岡へと電車で戻り、夕方の便で福岡空港から那覇空港へと飛んだ。
「まっさか本当に沖縄まで来ちゃうなんてねえ〜。なにこれ、楽しすぎ」
飛行機に乗って沖縄までやったきたことで、先生は迷いが吹っ切れたのか、トワイライトの空に向かって拳を突き上げた。
「西海岸のホテルも予約済みですよ」
「え、まじ!? 本当にあの日のデートを再現してくれてるんだ」
「はい。リアルな再現を追い求めてますので」
「シゴデキじゃん」
先生に褒められて、無意識のうちに、鼻高々な気分に浸る。突然の旅行での飛行機の予約やホテルの予約は確かに大変だったけれど、逆に直前にキャンセルをする観光客がいたので、なんとか二泊三日の旅の予約をすることができた。
夏の夜の沖縄は、思っていたよりもずっと涼しかった。むしろ、東京の街のアスファルトの照り返しのほうがきついぐらいで、夜ということもあり、涼しくて開放的な気分にさせられる。
幸い台風の危機もなさそうだし、この二日間は先生のためにすべて使う予定だ。
「今日はとりあえずホテルに行きましょう。空港からのバスが出てます」
「了解です。ツアーガイドさん、よろしくお願いします」
先生がわざとらしくぺこりと頭を下げるのを見てから、私は事前に予約しておいた沖縄エアポートシャトルというバスに乗り込んだ。泊まる予定のホテルは、「ナビービーチ前」というバス停の近くだ。沖縄本土の西海岸にはリゾートホテルが集まっている。
今日から二日間泊まるのは、西海岸にある有名なチェーンリゾートホテルだ。
価格がリーズナブルで、リゾート気分も味わえる。
さらに、先生が律さんと以前泊まったホテルでもあるらしい。
そんなこととはつゆしらず、先生は「予約ありがとうね」と笑って言ってくれた。
那覇空港からナビービーチ前まで一時間四十分近く揺れていた。車窓から移り行く沖縄の街の景色を眺めていると、全然知らない場所なのに普段からここで生活しているような感覚がして、不思議だった。ホテルに着く頃には二十時を回っていて、身も心もへとへとだ。
「ん〜やっと着いたね! って、今日泊まるの、ここ?」
マップを見ながらホテルの前まで歩いていく私の後をついてきた先生が、現れたホテルの外観を見て目を見開く。
「はい、そうです。ここに二泊します」
「……懐かしい。徹底してるね」
羽美先生が瞳をきゅっと細めて、大きく深呼吸をした。きっと先生の頭の中では今、三年前に律さんとデートをした時のことが思い浮かんでいるのだろう。
「二十四時間営業のカフェラウンジがあるみたいなので、そこで夜ご飯を食べません?」
「うん、賛成。昔来た時も食べた記憶があるわ」
「それなら尚更良かったです。先生と律さんの思い出でも聞かせてください」
羽美先生は律さんとホテルに来た時のことを思い出したのか、ふっと優しく微笑んでホテルの中へと一歩ずつ足を踏み入れて行った。
フロントからとても綺麗で、ずっと旅をしていたはずなのに、本格的に旅行をしているな、という気分にさせられる。チェックインをして荷物を置いたあと、早速カフェラウンジで食事をとることになった。
「ここのピザがめちゃくちゃおいしいんだよ」
「じゃあ、ピザにします」
先生のおすすめにより、『釜焼きピザ』を二枚注文した。二枚と言っても大きすぎることもなく、女性が食べられる量でちょうどよい。私はマリナーらピザを、先生はジェノベーゼピザを頼んでいた。
「律とは、高校一年生の時に出会ったんだよね」
ピザのチーズを伸ばしながら、唐突に先生が律さんとの馴れ初め話を聞かせてくれる。恋バナなんて久しくしていない私は、先生の話が気になってじっと身を乗り出すようにして聞く。
「文化祭の準備で一緒になってさ。話してると明るい気持ちになれる……そんな人だったんだー。でもお母さんがいないぶん家庭のことが忙しくて、家事とか弟の世話とか、苦労してたんだよ」
先生はなんでもないことのように語るが、いざ自分が律さんの立場だったらかなり大変なのではないだろうか。弟の晶くんは律さんより九歳年下で、律さんが高校生の頃はまだ小学校低学年だったことになる。
「それでも、学校では飄々としててさ、勉強も運動もできて、私はずっと憧れてたんだ」
先生が昔を懐かしむようにすっと目を細めて言う。
律さんのことが、本当に大好きだったんだな。
憧れから恋愛をしていた先生の気持ちは、なんとなく理解できる。
私も、先生への憧れを恋だと思っていたから。
私の場合は恋じゃないと気づいたけれど、そのまま恋をしてしまうパターンだってもちろんあるだろう。
「本当に好きだったんですね、律さんのこと」
「うん。今でも好きなんだ——って、生徒の前でこんなこと言うのも恥ずかしいけどねっ」
先生は取り繕ったように、「ささ、食べよ食べよ」とピザをもりもり口に運び出した。一緒に頼んだクラフトビールもガブガブ飲み始めたが、さすがに慌てすぎではないかと心配になる。案の定、先生は途中でむせていた。
明日からの沖縄での二日間が、先生の人生にとって有意義なものになりますように。
そう祈らずにはいられなかった。



