


広島での旅が終わり、十三日目に山口県を訪れたあと、九州に上陸した私たち。福岡からさらに長崎までやってきた。
「ずいぶん遠くまで来たよね。最初は北海道から始まったのに、もう九州だ」
先生が感慨深そうに呟く。
私も、最初はまさか日本列島を縦断することになるとは思ってもおらず、九州までやってきたことに驚きを隠せない。ちなみに九州は初上陸だ。
山口県では有名な海に臨む元乃隅神社で、赤い鳥居と海の青の圧巻のコントラストを味わい、福岡では中洲の屋台で温かいおでんを食べた。
視覚、聴覚、味覚、触覚、とこれまでたくさんの“五感”を刺激されてきたが、長崎では嗅覚——アロマのお店でオリジナル香水作りを行う。
場所は長崎市内の『favorit(ふぁぼりっと)』というアロマ雑貨店だ。
旅の疲れを癒すのにも、良い香りを嗅ぐのは効果的かもしれない。
先生も同じことを考えていたのか、最寄りの市電の駅で降りたあと、軽い足取りで『favorit』に向かった。
目の前に小さな公園のある、こじんまりとしたお店だった。
個人的には落ち着く規模感で、瞬時に気に入った。店内に足を踏み入れると、ふわりとやらわかな香りが鼻腔をくすぐる。
「いらっしゃいませ! オーガニック&ナチュラル精油を中心にアロマ商品を販売しています。アロマ作り体験もしているのでぜひご利用ください」
若い女性店員さんに笑顔で迎えられて、女心がくすぐられるようなアロマ雑貨に胸が躍った。
「オリジナル香水作りをしたいのですが、お願いできますか?」
「はい、もちろんです」
私が店員さんに尋ねると、早速店員さんは体験の準備をしてくれた。
「最初に小樽でガラス玉を作ったのがもう懐かしいね」
「そうですね。旅の中で、こんなにたくさんの手作り体験ができて嬉しいです」
先生との旅を振り返りながら、店員さんに言われた通りにオリジナル香水を作っていく。
五〜六十種類の精油の中から七〜十種類程度選んで、10mlの香水を作るらしい。思ったよりもたくさんの種類の精油を選べる。一つ一つの香りを確かめながら香水を作る作業は本当に心癒される時間だった。
「できた!」
私と先生が同時に香水を完成させる。
好きな香りを選ぶだけで香水が作れたので、簡単で良かった。私は柑橘系の香りが好きなので、すっきりさわやかテイストに、先生はラベンダーが好きなようで、ラベンダーを中心とした香りに仕上げていた。
「人間の五感の中で、嗅覚っていうのは一番記憶に残りやすいんだって」
『favorit』を出た私たちは、目の前の公園の椅子に座り、これまでの旅のことを振り返っていた。
先生が、香水の入った小瓶を眺めながら言う。
「嗅覚が一番記憶に……」
「そう。だから今日作ったこの香水の匂いを嗅ぐたびに、青葉ちゃんとの十五日間を思い出すと思う」
先生の言葉に、私はなぜだか急速に寂しい気持ちに襲われていった。
なぜだろう。先生がこの旅をここで終わりにしようとしているような心地がしたんだ。



