***
八月十三日の朝。
遮光カーテンの間から差し込む朝日に気づいて目を覚ます。外は昨日の雨がなかったかのように晴れ渡っている。先生は先に起きていて、「おはよう」と笑いかけてくれた。
「おはようございます」
「昨日はよく眠れた?」
「……はい」
昨日の晩、先生がひっそりと泣いていたような気がしたのを思い出し、先生のほうこそよく眠れたのだろうかと疑問に思う。
「それはよかった。私も眠りこけちゃってたわ。朝ごはん食べて、早速出発しよう。今日は広島でちょっと遠いから早めにね」
昨日、ウィンドウショッピングの最中に有名なジュエリーショップで『旅カードNo.11』を見つけたのだ。

大阪の次は広島。結構な大移動だなと思ったが、初日に北海道にいた私はそうでもないかと思い直す。思えば先生と二人でかなり遠くに来たものだ。
先生は昨日私に弱音を吐いたことや夜に泣いていたことをなかったことにしたいのか、努めて明るい声で「ご飯食べよ」と私を誘った。私は「はい」と頷きつつも、どうしても昨日のことが気になって、食事に集中することができなかった。
「いやあ、新幹線に乗ると意外とすぐだね。感覚が麻痺してきてんのかなー」
山陽新幹線で一時間二十分。地図で見たら遠いと思ったのに、いざ新幹線に乗ると、確かにすぐに広島まで着いたような気がする。新幹線の中で、先生はずっと陽気に喋りかけてきた。もう何度話したか分からない、私のクラスの生徒の話とか、先生たちが職員室でどんな話をしているのか、とか。聞き飽きたような話でも、手話じゃなくて言葉で話すと新鮮だなと思えた。
「青葉ちゃん、今日はネガティブな心の声ってやつ、聞こえない?」
「言われてみれば、聞こえないかもです」
先生に言われるまで気づかなかった。今日は今のところ、ネガティブな心の声は聞こえない。昨日は音が戻ったばかりだったし、気持ちに不安定になっていたから聞こえたのかもしれない。とはいえ、これからまた聞こえるかもしれないので注意しておこう。
「またおかしなことがあったら教えてね」
「お気遣いありがとうございます」
先生と声で話せるのは楽しいし、嬉しい。でも、手話で話さなくなって少し寂しさも覚えていたので、私はあえて「ありがとう」と手話もつけてみた。先生は笑いながら同じように「どういたしまして」と手話で返してくれる。先生のそんな優しさが、私はやっぱり好きだった。
「今日の目的地は平和記念公園だね。広島駅からは路面電車で行けるみたい」
「分かりました。行きましょう」
路面電車には密かな憧れがあったが、一度函館で乗ってからは、なぜか路面電車のヘビーユーザーになった気分である。勝手知ったる様子で乗り込んでみせると、先生から「手慣れてますねえ」とからかわれた。
八月十三日の朝。
遮光カーテンの間から差し込む朝日に気づいて目を覚ます。外は昨日の雨がなかったかのように晴れ渡っている。先生は先に起きていて、「おはよう」と笑いかけてくれた。
「おはようございます」
「昨日はよく眠れた?」
「……はい」
昨日の晩、先生がひっそりと泣いていたような気がしたのを思い出し、先生のほうこそよく眠れたのだろうかと疑問に思う。
「それはよかった。私も眠りこけちゃってたわ。朝ごはん食べて、早速出発しよう。今日は広島でちょっと遠いから早めにね」
昨日、ウィンドウショッピングの最中に有名なジュエリーショップで『旅カードNo.11』を見つけたのだ。

大阪の次は広島。結構な大移動だなと思ったが、初日に北海道にいた私はそうでもないかと思い直す。思えば先生と二人でかなり遠くに来たものだ。
先生は昨日私に弱音を吐いたことや夜に泣いていたことをなかったことにしたいのか、努めて明るい声で「ご飯食べよ」と私を誘った。私は「はい」と頷きつつも、どうしても昨日のことが気になって、食事に集中することができなかった。
「いやあ、新幹線に乗ると意外とすぐだね。感覚が麻痺してきてんのかなー」
山陽新幹線で一時間二十分。地図で見たら遠いと思ったのに、いざ新幹線に乗ると、確かにすぐに広島まで着いたような気がする。新幹線の中で、先生はずっと陽気に喋りかけてきた。もう何度話したか分からない、私のクラスの生徒の話とか、先生たちが職員室でどんな話をしているのか、とか。聞き飽きたような話でも、手話じゃなくて言葉で話すと新鮮だなと思えた。
「青葉ちゃん、今日はネガティブな心の声ってやつ、聞こえない?」
「言われてみれば、聞こえないかもです」
先生に言われるまで気づかなかった。今日は今のところ、ネガティブな心の声は聞こえない。昨日は音が戻ったばかりだったし、気持ちに不安定になっていたから聞こえたのかもしれない。とはいえ、これからまた聞こえるかもしれないので注意しておこう。
「またおかしなことがあったら教えてね」
「お気遣いありがとうございます」
先生と声で話せるのは楽しいし、嬉しい。でも、手話で話さなくなって少し寂しさも覚えていたので、私はあえて「ありがとう」と手話もつけてみた。先生は笑いながら同じように「どういたしまして」と手話で返してくれる。先生のそんな優しさが、私はやっぱり好きだった。
「今日の目的地は平和記念公園だね。広島駅からは路面電車で行けるみたい」
「分かりました。行きましょう」
路面電車には密かな憧れがあったが、一度函館で乗ってからは、なぜか路面電車のヘビーユーザーになった気分である。勝手知ったる様子で乗り込んでみせると、先生から「手慣れてますねえ」とからかわれた。



