傷だらけの私たちの#五感の旅 ーあの日閉じ込めた心の声ー

「大事なことを聞きそびれたな……」

 夜、全国チェーンのホテルの一室で、シャワーを浴びながら一日を振り返っていたときに、聞きたいことを聞けなかったと思い出した。
 お風呂から上がったら尋ねてみようかと思い部屋に戻ると、「うっ」と嗚咽のような声が聞こえてドキリと立ち止まった。

「先生……?」

 思わず羽美先生を呼びかける。先生はぴくんと身体を跳ねさせてそばにあったティッシュを手に取り、ずずっと鼻を啜った。

「ごめんごめん、さっきの雨でちょい風邪引いたみたい」

「そうなんですか? それなら早くお風呂入って温まってください」

「はあい。ありがと」

 本当は先生が風邪なんか引いていないことくらい分かっていたけれど、先生が昼間みたいに私に弱みを見せたくないことが分かり、私は先生に合わせることにした。
 その後、先生がお風呂へと向かうのを確認したあと、私はスマホでXを開く。今日の投稿をしつつ、何気なくタイムラインをスクロールしていたのだが。

「これ……」

【碧海ってまだ旅続けてるんだw 鋼のメンタルだな】

 “碧海”の投稿について触れているポストを見かけて、スクロールしていた指が止まる。
 見なければいいのに、気になって検索窓に「碧海 旅」と打ち込んでみる。

【先生と生徒で旅してる碧海ってアカウント、炎上の件はなかったことにして普通にまたポストしてて草】

【碧海ってさ、家出した生徒に先生が声かけて旅してるんでしょ? 家出に加担するとか先生やばくない?】

【碧海の先生はたぶんクビになると思う。夏休みに生徒と二人きりで旅とか非常識すぎ】

 目に飛び込んでくる、誹謗中傷の数々。家出などという憶測まで書かれていて、SNSの怖さを痛感した。全身に鳥肌が立ち、それ以上は見ていられなくなった。

 もしかしてさっき、先生もこの投稿を見たのかな……。
 確かにみんなが言うように、教師と生徒が二人きりで夏休みに旅に出るなんて非常識だろう。でも、私の場合は親から許可ももらっているし先生だって他の先生たち——校長先生から、許可をもらっているはずだ。
 そこまで考えて「本当に?」と頭の中を疑問が駆け巡る。
 先生は校長先生に許可をもらっているのだろうか。
 校長先生が、羽美先生に、私と旅に出て良いと許可を出すだろうか。
 分からない。分からないことを考え続けて、頭痛がしてきたので、私はそっとスマホを充電器に繋いで画面を暗くする。
 今後のことは、旅が終わってから考えればいい。とにかく今は、先生との時間を楽しもう。先生が許可をもらっているのかいないのか、気になるところではあるけれど、先生が私を誘ってくれたんだから。精一杯楽しまなくちゃ——。

 窓から外を覗くと、まだ雨はしとしとと降り続けていた。