カフェを出たあとは、街歩きをしていろんなお土産物屋さんを見て回った。先生は、金箔を使った化粧品の店で、何十分も悩んだ挙句、金箔入りのアイシャドウを買っていた。
夕暮れ時になり、太陽が傾くとようやく少しだけ暑さが落ち着いていく。
私たちは、ひがし茶屋街の近くを流れる浅野川の橋の欄干にもたれかかって、黄昏ていた。
「青葉ちゃんとの旅も、あと半分もないんだね」
羽美先生が、遠くの景色を見ながらぐーっと大きく伸びをする。
#五感の旅は、八月二日から十六日までの全部で十五日間の日程だから、八月十日の今日、残すところあと六日で間違いなかった。
そう思うと、なんだか妙な寂しさを覚える。
旅が終わっても二学期になれば先生にまた会えるはずなのに、もう会えないかのような感覚に襲われていた。
「先生……」
先生との旅の終わりを考えていた時、突然、頭の中にある記憶が降ってきた。
「どうしたの?」
先生が、目の前の景色から私のほうに視線を移す。私は、「思い出しました」と、頭の中に浮かんだ記憶について彼女に伝えた。
「晶くんの苗字。川を眺めてたら思い出しました。確か、翠川です。翠川晶」
私がそう手話でゆっくりと晶の苗字について一文字ずつ伝えたとき、先生の顔がすっと固まるのが分かった。
「翠川……晶……。嘘でしょ……?」
先生の声は震え、瞳は驚きに大きく見開かれていた。
今まで私が見たことのないぐらい動揺している羽美先生の姿に、「どうかしましたか?」と声をかける。
「そんな……ことが……ありえるの」
「羽美先生……? 大丈夫ですか」
震えている先生の手をそっと握ろうと手を伸ばす。でも、先生が「うっ」と声を詰まらせて、口元を手で押さえた。
と、ちょうどその時だ。
先生が突然、はっと顔を強張らせて後ろを振り返った。何事かと私も一緒に後ろを振りむく。そこには、二人組の大学生ぐらいの女性が立っていた。手元のスマホの画面と私たちを見比べるようにして、何やらひそひそと話している。声は聞こえないけれど、彼女たちの唇の動きで、何を言っているのか感じ取れた。
「あの人たち、やっぱり炎上してる人たちじゃない?」
「炎上してること、気づいてないのかな」
炎上……?
いったいなんの話だ——と考える間もなかった。
私は急いでポケットからスマホを取り出す。Xで碧海のアカウントを開いた。
するとそこには、今まで目にしたことのないぐらい、おびただしい数の通知が届いていた。
三百五十二件……。
表示された通知の数が、リアルタイムでどんどん増えていく。何がどうなっているのか、通知欄を確認しにいくと、昨日の投稿が火種となっていることが分かった。
【8/9一緒に旅をしている人と富岩運河環水公園でゆったりした気分を味わいました。水と緑に世界一美しいスタバは映えていて、心が洗われるような心地になります。#五感の旅】
>引用RP
【この人、同じ高校の子。東京の明智高校の二年生。もう一人は先生だよ。生徒と先生で旅行なんて、どういうこと? こういうことして先生は大丈夫なの?】
引用ポストで、知らない誰かがそんなふうに書いた投稿が、バズを起こしていた。
「いいね」の数はすでに千件を超えて、今も増え続けている。リポストの数も数百件。慌てて引用ポストを覗いてみる。
【うわー、これが本当ならこの教師、クビじゃない?】
【身元も割れちゃってるし、後ろ姿とはいえすぐ特定できそう】
【生徒の子の親も何してんだろうね】
【十五日間も先生と二人きりで旅行? どういう関係なの?】
【え、明智高校ってうちの学校なんだけどw やばww】
【この人たちの名前知ってまーす! 先生は小日向羽美、生徒は峰島青葉】
【すでに特定されてんじゃん。個人情報さらすのはどうかと思うが】
【先生と生徒で夏休みに長期旅行って、この学校も終わってんな】
夕暮れ時になり、太陽が傾くとようやく少しだけ暑さが落ち着いていく。
私たちは、ひがし茶屋街の近くを流れる浅野川の橋の欄干にもたれかかって、黄昏ていた。
「青葉ちゃんとの旅も、あと半分もないんだね」
羽美先生が、遠くの景色を見ながらぐーっと大きく伸びをする。
#五感の旅は、八月二日から十六日までの全部で十五日間の日程だから、八月十日の今日、残すところあと六日で間違いなかった。
そう思うと、なんだか妙な寂しさを覚える。
旅が終わっても二学期になれば先生にまた会えるはずなのに、もう会えないかのような感覚に襲われていた。
「先生……」
先生との旅の終わりを考えていた時、突然、頭の中にある記憶が降ってきた。
「どうしたの?」
先生が、目の前の景色から私のほうに視線を移す。私は、「思い出しました」と、頭の中に浮かんだ記憶について彼女に伝えた。
「晶くんの苗字。川を眺めてたら思い出しました。確か、翠川です。翠川晶」
私がそう手話でゆっくりと晶の苗字について一文字ずつ伝えたとき、先生の顔がすっと固まるのが分かった。
「翠川……晶……。嘘でしょ……?」
先生の声は震え、瞳は驚きに大きく見開かれていた。
今まで私が見たことのないぐらい動揺している羽美先生の姿に、「どうかしましたか?」と声をかける。
「そんな……ことが……ありえるの」
「羽美先生……? 大丈夫ですか」
震えている先生の手をそっと握ろうと手を伸ばす。でも、先生が「うっ」と声を詰まらせて、口元を手で押さえた。
と、ちょうどその時だ。
先生が突然、はっと顔を強張らせて後ろを振り返った。何事かと私も一緒に後ろを振りむく。そこには、二人組の大学生ぐらいの女性が立っていた。手元のスマホの画面と私たちを見比べるようにして、何やらひそひそと話している。声は聞こえないけれど、彼女たちの唇の動きで、何を言っているのか感じ取れた。
「あの人たち、やっぱり炎上してる人たちじゃない?」
「炎上してること、気づいてないのかな」
炎上……?
いったいなんの話だ——と考える間もなかった。
私は急いでポケットからスマホを取り出す。Xで碧海のアカウントを開いた。
するとそこには、今まで目にしたことのないぐらい、おびただしい数の通知が届いていた。
三百五十二件……。
表示された通知の数が、リアルタイムでどんどん増えていく。何がどうなっているのか、通知欄を確認しにいくと、昨日の投稿が火種となっていることが分かった。
【8/9一緒に旅をしている人と富岩運河環水公園でゆったりした気分を味わいました。水と緑に世界一美しいスタバは映えていて、心が洗われるような心地になります。#五感の旅】
>引用RP
【この人、同じ高校の子。東京の明智高校の二年生。もう一人は先生だよ。生徒と先生で旅行なんて、どういうこと? こういうことして先生は大丈夫なの?】
引用ポストで、知らない誰かがそんなふうに書いた投稿が、バズを起こしていた。
「いいね」の数はすでに千件を超えて、今も増え続けている。リポストの数も数百件。慌てて引用ポストを覗いてみる。
【うわー、これが本当ならこの教師、クビじゃない?】
【身元も割れちゃってるし、後ろ姿とはいえすぐ特定できそう】
【生徒の子の親も何してんだろうね】
【十五日間も先生と二人きりで旅行? どういう関係なの?】
【え、明智高校ってうちの学校なんだけどw やばww】
【この人たちの名前知ってまーす! 先生は小日向羽美、生徒は峰島青葉】
【すでに特定されてんじゃん。個人情報さらすのはどうかと思うが】
【先生と生徒で夏休みに長期旅行って、この学校も終わってんな】



