「いやぁ、さっきの青葉ちゃん、めちゃくちゃ格好良かったね。サキちゃん追いかけるとき、陸上選手みたいだった」
結局あのあと、サキちゃん親子が活性化広場の席を譲ってくれて、私たちは朝食にありつくことができた。ほくほくのおにぎりもお肉屋さんのコロッケも、100%オレンジジュースもとてもおいしかった。先生はホタテのバター醤油を「くう〜ビールが飲みたいっ」とぼやきながらぱくついていた。
その後、ミッションは終わったけれどせっかく金沢に来たので観光地を回ろうという話になった。
まずは兼六園。
真夏の炎天下は、それはまあ暑くて汗はだらだらになったが、風情のある庭園の中では暑さの中にも確かに癒しが漂っていた。
「格好良くなんてないでしょ。夢中だっただけです」
「そういうのが格好良いっていうの。青葉ちゃんがあんなふうに必死になる姿を見られて良かった」
先生はふっと短く息を吐き、普段の学校での私を思い出している様子で言う。
そうか……。
確かに私は、学校ではみんなと会話ができないから、教室でもあまり目立ったことはしない。静かにただ淡々と過ぎていく日々に、ひっそりと息を潜めて生きているだけだ。
もしかしたら先生はずっと、そんな私のことを心配してくれていたのかもしれない。
「……心配いりませんよ」
ゆっくりとした手の動きで、先生に語りかける。
「ん? 何が?」
「私、ちゃんとうまくやれますから。だから……」
だから、その先にどんな言葉を紡ごうとしているのだろう。自分でも自分の言いたいことがよく分からない。
“ちゃんとうまくやれる”なんて、大人ぶっているけれど、私はいつも先生に助けられてばかりだ。授業だって、羽美先生が放課後に特別レッスンをしなければ生きていけない。先生に迷惑をかけないためにも、本当は私はろう学校に行くべきだったのかもしれない。
でも、中学まで普通の学校に通ってきて、高校からろう学校に行くのが怖かったのだ。
「だからもう、私の助けはいらない?」
先生の言葉が胸にちくりと刺さる。
すんとした表情で、私をおちょくるわけでも、突き放すわけでもなく、先生は聞いた。
「それは」
手が震えていた。
先生の助けはいりません。
本当はそう言いたいのに、心が全力で叫んでいるのだ。
「ずっと、先生の隣で、息をしていたい」って——。
二の句が継げずに手の動きを止める私を見て、先生は「ごめん」とすぐに謝ってきた。
「ちょっと意地悪すぎたね。確かに私は青葉ちゃんのこと、ずっと心配してた。でも一緒に旅をしてて、青葉ちゃんに私はもう必要ないかもって思えてきたんだ」
“青葉ちゃんに私はもう必要ないかも”。
それは先生にとっては前向きな言葉であるはずなのに、私にとってはじくりと傷が痛むみたいな切なさを運んできた。
先生が私のことを信じてくれているのは分かる。
自分の助けなんて必要ないくらい成長したと言ってくれているのだろう。
だけど、私は先生と離れたくない。
「先生と、ずっと一緒にいたいです」
炎天下の庭園で、横目に深い緑色を見ながら、震える手で先生にそう告げた。
先生はじっと私の手の動きを見たあと、何も言わずに微笑んで、歩き出した。
「行こう。まだ時間はたっぷりあるし、他の観光地も回るんでしょ」
くるりと振り返りながら私の一歩先を歩いていく羽美先生に、置いていかれないように必死についていった。
彼女の背中が、普段よりも遠く感じていた。
結局あのあと、サキちゃん親子が活性化広場の席を譲ってくれて、私たちは朝食にありつくことができた。ほくほくのおにぎりもお肉屋さんのコロッケも、100%オレンジジュースもとてもおいしかった。先生はホタテのバター醤油を「くう〜ビールが飲みたいっ」とぼやきながらぱくついていた。
その後、ミッションは終わったけれどせっかく金沢に来たので観光地を回ろうという話になった。
まずは兼六園。
真夏の炎天下は、それはまあ暑くて汗はだらだらになったが、風情のある庭園の中では暑さの中にも確かに癒しが漂っていた。
「格好良くなんてないでしょ。夢中だっただけです」
「そういうのが格好良いっていうの。青葉ちゃんがあんなふうに必死になる姿を見られて良かった」
先生はふっと短く息を吐き、普段の学校での私を思い出している様子で言う。
そうか……。
確かに私は、学校ではみんなと会話ができないから、教室でもあまり目立ったことはしない。静かにただ淡々と過ぎていく日々に、ひっそりと息を潜めて生きているだけだ。
もしかしたら先生はずっと、そんな私のことを心配してくれていたのかもしれない。
「……心配いりませんよ」
ゆっくりとした手の動きで、先生に語りかける。
「ん? 何が?」
「私、ちゃんとうまくやれますから。だから……」
だから、その先にどんな言葉を紡ごうとしているのだろう。自分でも自分の言いたいことがよく分からない。
“ちゃんとうまくやれる”なんて、大人ぶっているけれど、私はいつも先生に助けられてばかりだ。授業だって、羽美先生が放課後に特別レッスンをしなければ生きていけない。先生に迷惑をかけないためにも、本当は私はろう学校に行くべきだったのかもしれない。
でも、中学まで普通の学校に通ってきて、高校からろう学校に行くのが怖かったのだ。
「だからもう、私の助けはいらない?」
先生の言葉が胸にちくりと刺さる。
すんとした表情で、私をおちょくるわけでも、突き放すわけでもなく、先生は聞いた。
「それは」
手が震えていた。
先生の助けはいりません。
本当はそう言いたいのに、心が全力で叫んでいるのだ。
「ずっと、先生の隣で、息をしていたい」って——。
二の句が継げずに手の動きを止める私を見て、先生は「ごめん」とすぐに謝ってきた。
「ちょっと意地悪すぎたね。確かに私は青葉ちゃんのこと、ずっと心配してた。でも一緒に旅をしてて、青葉ちゃんに私はもう必要ないかもって思えてきたんだ」
“青葉ちゃんに私はもう必要ないかも”。
それは先生にとっては前向きな言葉であるはずなのに、私にとってはじくりと傷が痛むみたいな切なさを運んできた。
先生が私のことを信じてくれているのは分かる。
自分の助けなんて必要ないくらい成長したと言ってくれているのだろう。
だけど、私は先生と離れたくない。
「先生と、ずっと一緒にいたいです」
炎天下の庭園で、横目に深い緑色を見ながら、震える手で先生にそう告げた。
先生はじっと私の手の動きを見たあと、何も言わずに微笑んで、歩き出した。
「行こう。まだ時間はたっぷりあるし、他の観光地も回るんでしょ」
くるりと振り返りながら私の一歩先を歩いていく羽美先生に、置いていかれないように必死についていった。
彼女の背中が、普段よりも遠く感じていた。



