「めっちゃいい買い物したよね、私ら」
結局あの後、先生はホタテのバター醤油と、みたらし団子を買っていた。私は、お肉屋さんのコロッケとオレンジジュース。オレンジジュースは、オレンジそのものに穴を開けてストローをさして売られていた。100%オレンジジュースというわけだ。先生が「あ、いいなー」というので、「私の分をあげます」と言うと大変喜んでいた。
今日のミッションは食材を「選んだ理由をひとつだけメモしておく」という内容だった。
私はすかさずスマホのメモに、「ほくほくのおにぎりを食べたかったから」と記載しておいた。これで今日のミッションはクリアだ。 誰に褒められるわけでもないけれど、毎日決められたミッションを達成していくのは心地よく感じた。
「どこか座って食べられる場所はありますかね?」
「調べたら、“活性化広場”ってところがあるらしい。外で暑いけど、パラソル付きの席があるし大丈夫じゃない?」
「分かりました。行ってみましょう」
私たちは早速、先生が教えてくれた活性化広場という場所に行ってみることに。近江町市場のHPには、「天気の良い日に設置している」とあるので、晴れの日の今日、席はあるはずだ。
「あ〜やっぱりいっぱいか」
活性化広場に来ると、パラソル付きのテーブル席はすでに埋まっていた。それもそうか。夏休みだしなあ、と諦めて立ち食いしようかと思っていたとき、ちょうど一番端っこの席に座っていた五歳くらいの女の子が、突然「ワッ」と泣き出して椅子から立ち上がった。そのまま、勢いよく椅子から降りて私たちの立っている場所まで走ってくる。
「え、え!?」
前も見ずに一心不乱に駆けてくる女の子に突進されそうになった先生が咄嗟に避ける。元の席にいたご両親は怒ったような表情を浮かべていた。
なるほど、喧嘩しちゃったのか。
と理解は及んだものの、女の子は止まることなく、市場のほうへどんどん走っていく。ご両親もすぐに戻ってくると思っていたのか、女の子の背中が遠くなると、慌てた様子で何かを叫んでいた。何度も同じ言葉を繰り返す母親の口元を見て、女の子の名前を呼んでいることも、女の子の名前が「サキ」だということも分かった。
サキちゃんというのか。
名前を知ったところでどうなるわけでもないが、私は瞬時に、サキちゃんの背中を追いかけた。
声を上げることができないので、全力疾走した。現役高校生の私は大人よりは少しだけ体力があったので、ご両親よりも先に、私のほうがサキちゃんの元へたどり着いた。いつの間に追いかけていたのか、羽美先生も一緒だ。
私はサキちゃんの肩をトンと叩き、怖がらせないように必死に「こんにちは」と手話で挨拶をした。サキちゃんは目に涙目を浮かべながら、私の手話の意味が分からないからか、怯えていた。それでも、私が挨拶をしていると悟ったのか、ぺこりと頭を下げる。
ちょうど視界の端で、ご両親が追いついたのが分かる。母親のほうが何かを言いかけたが、父親が彼女を制する。
「ちょっとあの人たちに任せよう」と言わんばかりに。
きっと、喧嘩をした張本人である自分たちよりも、赤の他人のほうがサキちゃんの心を開けると思ったんだろう。
「突然追いかけてきてごめんね。私は羽美で、こっちのお姉さんは青葉ちゃんっていうの」
「うみちゃんと、あおばちゃん?」
「そう。よろしくね」
先生が優しげに微笑む姿を見て、サキちゃんはようやく警戒心が解けたのか「うん」と表情を和らげた。
「それで、サキちゃんはどうしたの? お父さんとお母さん、心配してない?」
サキちゃんは、先生が自分の名前を知っていることに驚きつつ、それ以上に“お父さんとお母さん、心配してない?”という問いかけに、しゅんとして唇を結んだ。
まだ幼い彼女には、自分の気持ちを赤の他人に伝える勇気がないんだろう。
先生はサキちゃんの心をなだめるように、「ねえサキちゃん」と私を指差した。
結局あの後、先生はホタテのバター醤油と、みたらし団子を買っていた。私は、お肉屋さんのコロッケとオレンジジュース。オレンジジュースは、オレンジそのものに穴を開けてストローをさして売られていた。100%オレンジジュースというわけだ。先生が「あ、いいなー」というので、「私の分をあげます」と言うと大変喜んでいた。
今日のミッションは食材を「選んだ理由をひとつだけメモしておく」という内容だった。
私はすかさずスマホのメモに、「ほくほくのおにぎりを食べたかったから」と記載しておいた。これで今日のミッションはクリアだ。 誰に褒められるわけでもないけれど、毎日決められたミッションを達成していくのは心地よく感じた。
「どこか座って食べられる場所はありますかね?」
「調べたら、“活性化広場”ってところがあるらしい。外で暑いけど、パラソル付きの席があるし大丈夫じゃない?」
「分かりました。行ってみましょう」
私たちは早速、先生が教えてくれた活性化広場という場所に行ってみることに。近江町市場のHPには、「天気の良い日に設置している」とあるので、晴れの日の今日、席はあるはずだ。
「あ〜やっぱりいっぱいか」
活性化広場に来ると、パラソル付きのテーブル席はすでに埋まっていた。それもそうか。夏休みだしなあ、と諦めて立ち食いしようかと思っていたとき、ちょうど一番端っこの席に座っていた五歳くらいの女の子が、突然「ワッ」と泣き出して椅子から立ち上がった。そのまま、勢いよく椅子から降りて私たちの立っている場所まで走ってくる。
「え、え!?」
前も見ずに一心不乱に駆けてくる女の子に突進されそうになった先生が咄嗟に避ける。元の席にいたご両親は怒ったような表情を浮かべていた。
なるほど、喧嘩しちゃったのか。
と理解は及んだものの、女の子は止まることなく、市場のほうへどんどん走っていく。ご両親もすぐに戻ってくると思っていたのか、女の子の背中が遠くなると、慌てた様子で何かを叫んでいた。何度も同じ言葉を繰り返す母親の口元を見て、女の子の名前を呼んでいることも、女の子の名前が「サキ」だということも分かった。
サキちゃんというのか。
名前を知ったところでどうなるわけでもないが、私は瞬時に、サキちゃんの背中を追いかけた。
声を上げることができないので、全力疾走した。現役高校生の私は大人よりは少しだけ体力があったので、ご両親よりも先に、私のほうがサキちゃんの元へたどり着いた。いつの間に追いかけていたのか、羽美先生も一緒だ。
私はサキちゃんの肩をトンと叩き、怖がらせないように必死に「こんにちは」と手話で挨拶をした。サキちゃんは目に涙目を浮かべながら、私の手話の意味が分からないからか、怯えていた。それでも、私が挨拶をしていると悟ったのか、ぺこりと頭を下げる。
ちょうど視界の端で、ご両親が追いついたのが分かる。母親のほうが何かを言いかけたが、父親が彼女を制する。
「ちょっとあの人たちに任せよう」と言わんばかりに。
きっと、喧嘩をした張本人である自分たちよりも、赤の他人のほうがサキちゃんの心を開けると思ったんだろう。
「突然追いかけてきてごめんね。私は羽美で、こっちのお姉さんは青葉ちゃんっていうの」
「うみちゃんと、あおばちゃん?」
「そう。よろしくね」
先生が優しげに微笑む姿を見て、サキちゃんはようやく警戒心が解けたのか「うん」と表情を和らげた。
「それで、サキちゃんはどうしたの? お父さんとお母さん、心配してない?」
サキちゃんは、先生が自分の名前を知っていることに驚きつつ、それ以上に“お父さんとお母さん、心配してない?”という問いかけに、しゅんとして唇を結んだ。
まだ幼い彼女には、自分の気持ちを赤の他人に伝える勇気がないんだろう。
先生はサキちゃんの心をなだめるように、「ねえサキちゃん」と私を指差した。



