山々の連なる風景は、日本がいかに大自然に囲まれた国であるか、教えてくれる。
冬になると、きっとあの山には雪が降り積もり、真っ白に染まっていくのだろうと思うと、雪景色も見てみたくなった。雪国に住む人は冬は大変だろうけれど、雪の滅多に降らない街で生まれ育った私はどうしても憧れてしまう。
新幹線に揺られている間、昨日晶くんと電話をしたことをずっと思い出していた。
晶くんのお兄さんの様子が変だと言っていたが、一体どういうことなんだろう。詳細まで聞いていないので、何があったのか正直分からない。それに晶くんのお兄さんには会ったことがないし、どういう人なのかも知らない。それでも、晶くんがあんなふうにわざわざビデオ通話までして連絡をしてくるということは、相当一大事なんだろうということは分かった。
「青葉ちゃん、どかした?」
新幹線の車窓から景色を眺めつつ物思いに耽っていると、隣で先生の心配そうな声が飛んできた。
「ちょっと考えていたんです。私がこの旅をしている意味を」
なんとなく、手話で口ずさんでみる。「手話で口ずさむ」というのはおかしな表現かもしれないが、言葉で囁くみたいにゆっくりと手を動かした。
「それは、他人の心の声を聞くため、じゃなくて?」
この旅のコンセプトでもある答えを先生が発すると、私は「それもあるんですけど」と頷く。
「赤の他人の声を聞くだけでいいのかなって思ったり思わなかったり……」
また手話でそっと呟くと、先生ははっと目を凝らして私が見ている風景と同じ風景を見つめた。流れていく自然の景色に心を奪われるみたいに、固まっている。
「……青葉ちゃんは、もっと自分の心の声を聞いてもいいと思うよ」
自分自身に言い聞かせるような口調だった。先生の切実なまなざしが、今度は私に向けられていると知ってドキリとさせられる。
「自分の心の声?」
「そう。青葉ちゃんが過去に傷ついたこと。傷ついた自分の心の声。他人のことばっかりじゃなくて、私はそっちにも目を向けてほしいかも」
言いながら淡く微笑んだ先生は、私のことを心の底から考えて、心配してくれているのだと分かって、胸が切なく締め付けられるような心地がした。
私の心の声って、なんだろう。
確かに仲良しだった友人のネガティブな声を聞いて深く傷ついた。「違う」と言い返せない悔しさを飲み込んで、なかったことにした。そうしたら世界から音が消えて、私は誰のネガティブな声も聞かなくて済むようになった。
でも本当にこれで良かったんだろうか。
そう思うことが最近増えたような気がする。
音が聞こえなくなったのは、心を守るためだと分かっている。
だけど、私がやっていることはただ受け入れられない現実から目を逸らしているだけじゃないのか。
先生からは、あの時は耳を塞ぐのが正解だったと言われたけれど——“答え”はそれだけじゃない気がするのだ。
「先生は……自分の心の声に素直になれるんですか?」
私はできなかった。でも先生なら、私があと十年も生きれば、蓋をしていた自分の声を聞くことができるのだろうか。
「そんなことないよ。私だってうまくできない。青葉ちゃんと一緒。だからこうして旅に出たんじゃん?」
先生は何かを、誰かを思い出すように遠くを見つめながら答えた。
ふと、岩手でウォーキングをしている最中に、先生が旅に対して心残りがあると言っていた時のことを思い出す。
先生も、心の声に蓋をした経験があるのだ。
それは一体どんな声なんだろう。
気になったけれど、なんとなくこの場では聞けずに終わってしまった。
冬になると、きっとあの山には雪が降り積もり、真っ白に染まっていくのだろうと思うと、雪景色も見てみたくなった。雪国に住む人は冬は大変だろうけれど、雪の滅多に降らない街で生まれ育った私はどうしても憧れてしまう。
新幹線に揺られている間、昨日晶くんと電話をしたことをずっと思い出していた。
晶くんのお兄さんの様子が変だと言っていたが、一体どういうことなんだろう。詳細まで聞いていないので、何があったのか正直分からない。それに晶くんのお兄さんには会ったことがないし、どういう人なのかも知らない。それでも、晶くんがあんなふうにわざわざビデオ通話までして連絡をしてくるということは、相当一大事なんだろうということは分かった。
「青葉ちゃん、どかした?」
新幹線の車窓から景色を眺めつつ物思いに耽っていると、隣で先生の心配そうな声が飛んできた。
「ちょっと考えていたんです。私がこの旅をしている意味を」
なんとなく、手話で口ずさんでみる。「手話で口ずさむ」というのはおかしな表現かもしれないが、言葉で囁くみたいにゆっくりと手を動かした。
「それは、他人の心の声を聞くため、じゃなくて?」
この旅のコンセプトでもある答えを先生が発すると、私は「それもあるんですけど」と頷く。
「赤の他人の声を聞くだけでいいのかなって思ったり思わなかったり……」
また手話でそっと呟くと、先生ははっと目を凝らして私が見ている風景と同じ風景を見つめた。流れていく自然の景色に心を奪われるみたいに、固まっている。
「……青葉ちゃんは、もっと自分の心の声を聞いてもいいと思うよ」
自分自身に言い聞かせるような口調だった。先生の切実なまなざしが、今度は私に向けられていると知ってドキリとさせられる。
「自分の心の声?」
「そう。青葉ちゃんが過去に傷ついたこと。傷ついた自分の心の声。他人のことばっかりじゃなくて、私はそっちにも目を向けてほしいかも」
言いながら淡く微笑んだ先生は、私のことを心の底から考えて、心配してくれているのだと分かって、胸が切なく締め付けられるような心地がした。
私の心の声って、なんだろう。
確かに仲良しだった友人のネガティブな声を聞いて深く傷ついた。「違う」と言い返せない悔しさを飲み込んで、なかったことにした。そうしたら世界から音が消えて、私は誰のネガティブな声も聞かなくて済むようになった。
でも本当にこれで良かったんだろうか。
そう思うことが最近増えたような気がする。
音が聞こえなくなったのは、心を守るためだと分かっている。
だけど、私がやっていることはただ受け入れられない現実から目を逸らしているだけじゃないのか。
先生からは、あの時は耳を塞ぐのが正解だったと言われたけれど——“答え”はそれだけじゃない気がするのだ。
「先生は……自分の心の声に素直になれるんですか?」
私はできなかった。でも先生なら、私があと十年も生きれば、蓋をしていた自分の声を聞くことができるのだろうか。
「そんなことないよ。私だってうまくできない。青葉ちゃんと一緒。だからこうして旅に出たんじゃん?」
先生は何かを、誰かを思い出すように遠くを見つめながら答えた。
ふと、岩手でウォーキングをしている最中に、先生が旅に対して心残りがあると言っていた時のことを思い出す。
先生も、心の声に蓋をした経験があるのだ。
それは一体どんな声なんだろう。
気になったけれど、なんとなくこの場では聞けずに終わってしまった。



