岩手県を出た次の日、温泉のロッカーで見つかった『旅カードNo.4』には宮城県仙台市にある『鐘崎笹かま館七夕ミュージアム』というところが目的地として書かれていた。そこで私たちは七夕飾りづくりをした。

それから、六日目には福島県の会津武家屋敷にて、赤べこの絵付け体験に挑戦。
ミッションは『完成した赤べこに“今日の自分へ向けた一言”をこっそり書き込む』とあったので、「今日も先生の隣にいられて嬉しい」と書いた。もちろん、先生には見せられない。
一昨日、温泉で先生には好きな人がいるという話を聞いてしまってから、どうにも私の心は時が止まったかのように、そのことばかりをぐるぐると考えてしまっていた。

会津武家屋敷からホテルへと向かう道中、電車に揺られながらSNSを確認すると、一件のDMが届いていることに気づく。
誰だろう? と疑問に思いつつ、DM一覧を開く。
新着メッセージ通知は、フォロワーさんじゃなかった。
スパムかもしれないと警戒しながらメッセージの送り主のアカウント名を見てみると、アカウント名は『アキ』で、プロフィール画像は名前の分からないお城の写真だった。
プロフィール欄には、「旅好きの大学生」と書かれている。いくつか最近の投稿を見てみると、「今日は京都にやってきました」とか、「冬の温泉は最高」とか、確かにいたって普通の旅好きな人のつぶやきしかなかった。
警戒心を緩めつつ、メッセージを開いてみる。
【初めまして、アキと申します。旅好きの大学生です。突然のDM失礼します。
“初めまして”と書きましたが、実はそうではないかもしれなくて、メッセージをさせていただきました。
昨日、碧海さんが、“自分は聴覚障害者だ”と投稿されていましたよね。違っていたら失礼なのですが、青葉ちゃんじゃないでしょうか? 僕は、手話教室で一緒だった晶です。……覚えていますか?】
ドクン、と心臓が一回大きく跳ねるような心地がした。
DMに記された名前の人を、私は確かに知っていた。
三年前、耳が聞こえなくなってから、渋谷にある手話教室に通っていた。そこに、三つ年上の彼——晶くんが来ていた。授業は生徒四人、先生一人という体制で、一番年が近かったこともあり、筆談や覚えたばかりの手話で会話をして仲良くなったのだ。
晶くんは“好きな人が聴覚障害者だから手話を覚えたい”と純真無垢な目で語っていた。
確かにあのとき、雑談の中で、彼がいろんな旅先の話をしてくれたことがある。よっぽど旅が好きなんだな、と思っていたけれど。
手話教室を卒業してから、一度も彼に連絡をしたことはない。
それなのに、今こんなかたちでSNSで繋がるなんて思ってもみなかった。
「青葉ちゃん、どうしたの?」
DMを見て固まっている私を見た先生が、私のスマホを覗き込むようにして尋ねる。なんとなくスマホを見られるのが恥ずかしくて、画面を胸の前で隠すと、先生が「あれ? なになに? もしかして好きな人―?」とからかってきた。
「違いますよ! 好きな人なんて、そんなの」
いるわけないじゃん。
というか、私の好きな人は——。
純なまなざしで私を見つめる先生の顔をじっと見ていると、顔が熱くなるのを感じてぷいっと目をそむけてしまった。
「はいはい、青春ねー。いいね、現役高校生は」
「だからそういうのじゃないんですって」
先生は、右手をひらひらさせながら、いたずらを企んでいる子どものような表情を浮かべていた。本当にもう。これ以上心臓がドキドキしたら、身がもたないからやめてほしい。
呼吸を整えつつ、再び先生に見られないようにスマホを覗き見ながら、返信を打った。

それから、六日目には福島県の会津武家屋敷にて、赤べこの絵付け体験に挑戦。
ミッションは『完成した赤べこに“今日の自分へ向けた一言”をこっそり書き込む』とあったので、「今日も先生の隣にいられて嬉しい」と書いた。もちろん、先生には見せられない。
一昨日、温泉で先生には好きな人がいるという話を聞いてしまってから、どうにも私の心は時が止まったかのように、そのことばかりをぐるぐると考えてしまっていた。

会津武家屋敷からホテルへと向かう道中、電車に揺られながらSNSを確認すると、一件のDMが届いていることに気づく。
誰だろう? と疑問に思いつつ、DM一覧を開く。
新着メッセージ通知は、フォロワーさんじゃなかった。
スパムかもしれないと警戒しながらメッセージの送り主のアカウント名を見てみると、アカウント名は『アキ』で、プロフィール画像は名前の分からないお城の写真だった。
プロフィール欄には、「旅好きの大学生」と書かれている。いくつか最近の投稿を見てみると、「今日は京都にやってきました」とか、「冬の温泉は最高」とか、確かにいたって普通の旅好きな人のつぶやきしかなかった。
警戒心を緩めつつ、メッセージを開いてみる。
【初めまして、アキと申します。旅好きの大学生です。突然のDM失礼します。
“初めまして”と書きましたが、実はそうではないかもしれなくて、メッセージをさせていただきました。
昨日、碧海さんが、“自分は聴覚障害者だ”と投稿されていましたよね。違っていたら失礼なのですが、青葉ちゃんじゃないでしょうか? 僕は、手話教室で一緒だった晶です。……覚えていますか?】
ドクン、と心臓が一回大きく跳ねるような心地がした。
DMに記された名前の人を、私は確かに知っていた。
三年前、耳が聞こえなくなってから、渋谷にある手話教室に通っていた。そこに、三つ年上の彼——晶くんが来ていた。授業は生徒四人、先生一人という体制で、一番年が近かったこともあり、筆談や覚えたばかりの手話で会話をして仲良くなったのだ。
晶くんは“好きな人が聴覚障害者だから手話を覚えたい”と純真無垢な目で語っていた。
確かにあのとき、雑談の中で、彼がいろんな旅先の話をしてくれたことがある。よっぽど旅が好きなんだな、と思っていたけれど。
手話教室を卒業してから、一度も彼に連絡をしたことはない。
それなのに、今こんなかたちでSNSで繋がるなんて思ってもみなかった。
「青葉ちゃん、どうしたの?」
DMを見て固まっている私を見た先生が、私のスマホを覗き込むようにして尋ねる。なんとなくスマホを見られるのが恥ずかしくて、画面を胸の前で隠すと、先生が「あれ? なになに? もしかして好きな人―?」とからかってきた。
「違いますよ! 好きな人なんて、そんなの」
いるわけないじゃん。
というか、私の好きな人は——。
純なまなざしで私を見つめる先生の顔をじっと見ていると、顔が熱くなるのを感じてぷいっと目をそむけてしまった。
「はいはい、青春ねー。いいね、現役高校生は」
「だからそういうのじゃないんですって」
先生は、右手をひらひらさせながら、いたずらを企んでいる子どものような表情を浮かべていた。本当にもう。これ以上心臓がドキドキしたら、身がもたないからやめてほしい。
呼吸を整えつつ、再び先生に見られないようにスマホを覗き見ながら、返信を打った。



