傷だらけの私たちの#五感の旅 ーあの日閉じ込めた心の声ー

「復縁」

 先生の声がぽつりと地面に落ちる。先ほどまでらんらんと瞳をぎらつかせていた先生らしからぬ声色だった。

「はい。たくさん話し合って、喧嘩をしていた時の気持ちを正直に打ち明けて、許し合いました。あの時の私たちは、お互いの心の声が見えなくなってたんだなあって後から気づいたんです」

 女の人の言葉に、先生の目がすっと細められる。
 私には女性が何を話しているのか、口元を見てなんとなくでしか理解できないけれど、一度別れたカップルが縁を戻すなんてよっぽど心のうちを晒し合わないとできないだろう。

「そんなことがあったんですね。それじゃあ、今すごく幸せでしょう」

「はい、幸せです! 来月彼と結婚するんです。だからその前に大事なものを失くさなくて良かった。本当にありがとうございましたっ」

 がばっと頭を下げる女性に、先生は「こちらこそ、話を聞かせてくれてありがとう」と手を振った。その先生の表情に、少しだけ翳りが見えたのを私は見逃さなかった。

「先生、どうかしたんですか?」

 上機嫌で去っていく女性の後ろ姿を尻目に、先生の肩をぽんと叩き、手話で尋ねた。

「え? あ、ああ。どうもしてないよ! ほら、さっきの女の人が言ってた“お互いの心が見えなくなってた”って話に共感しちゃって」

 取り繕うように明るく答える先生。それ以上深く追及することもできずに、「なるほど」と頷いた。

「そうだったんですね。分かります。私もこの旅に出てきて、ちょっと思うんです。ネガティブな声が聞こえることも、決して悪いことばかりじゃなかったのかもしれないって……。それで傷ついたのは事実ですけど、誰かの本音を知れる機会ってなかなかないですよね」

 昨日、小樽で牧野さんの話を聞いてから、心に芽生えていた想いを口にした。先生は私の言葉を聞いて、目を何度も瞬かせていた。

「そっか。青葉ちゃんは強いね。今のが、今日のミッションにあった“心の中のきらめき”だ」

「え? いや……強くなんてないです。先生に助けられてばかりで……むしろ弱い人間です。だから今もこうして、先生と旅をしてるんですよ」

 「弱い人間」と言った部分を、先生から否定されるかと思った。
 でも私の予想とは裏腹に先生はただ淡く微笑んで、次の瞬間には「あー! お腹すいた!」と大きく伸びをしながら声を上げた。

「あっちにレストランあるから、夜ご飯食べよ」

「いいですね。眺めも良さそうです」

 先生に言われるがままに、レストランへと向かう。
 函館の夜景はまだまだ満喫できそうだ。
 先生の、揺れる艶やかな黒髪を見つめながら、もっとこの人と一緒に旅をしていたいなと心から思った。



【8/4 函館の山頂から、有名な夜景を眺めました。たまたま一緒に展望をしていた女性と話す機会があり、彼からもらった大切なプレゼントと、その恋人とのお話を聞かせてもらいました。“お互いの心の声が見えなくなってた”と、気づけたことが素敵。#五感の旅】


【明日は岩手へ行きます。初めての東北なので、今からドキドキです。新しい出会い、楽しみだな。#五感の旅】