***
八月四日、旅に出て三日目の朝、私たちは早速小樽から函館へと訪れた。
夜、暗くなるまで八幡坂や金森赤レンガ倉庫など定番の観光スポットを見て回る。途中、先生がずっと行きたかったという「ラッキーピエロ」というご当地ハンバーガー屋さんで食事をとった。
人気No.1のチャイニーズチキンバーガーは、食べ応えたっぷりでとてもおいしかった。パンに挟まれた、ジューシーすぎるチキンにかぶりつくと、身も心も満たされて圧倒的幸福感に包まれた。
先生も「函館に来たの三回目なのに、なんでこれ今まで食べたことなかったんだろ!?」と嘘のように一瞬で大きなハンバーガーを食べ尽くしていた。
そして、夜七時。
日が落ちて辺りが暗くなると、ようやく函館山のロープウェイに乗り、山頂展望台へとたどり着いた。標高334メートルということもあり、下界よりももちろん寒い。でも、目の前にぱああっと広がる100万ドルの夜景に目を奪われた。
「すごい……これが函館の夜景」
言葉にならない感情に襲われて、しばらく夜景を見つめることしかできなかった。北海道の形がこんなにもくっきりと見えることにも驚いたし、しんしんと冷える空気の中で、テレビや雑誌でしか見たことのない光景を今目にしているという事実に、喜びを噛み締めた。
「すごいよねえ。夜景は三回目だけど、いつ見ても綺麗すぎる」
先生は函館に来たのが三回目だと言っていたが、それでも目を輝かせてうっとりと景色に見入っている。何度見てもいいのだと思い知らされた。
「わあっ!」
私と先生が目の前の景色に圧倒されていた最中、ひゅっと一陣の風が吹いて、少し離れたところから女の人の声が飛んできた。と同時に、私の足元に黒色のニット帽がふわりと飛んでくる。あやうく天に飛ばされそうになったところをキャッチすると、女の人が駆け寄ってきて「すみません、ありがとうございます」と私に何度も頭を下げてくれた。
どうぞ、とニット帽を渡すと、女の人が涙目になって「よかったぁぁ」とほっと一安心した様子でニット帽を抱きしめた。年齢は二十代半ばぐらいだろうか。先生より少し下なような気がする。
「このニット帽……彼にもらったものだから、絶対失くしたくなくて」
女の人が後ろを振り返りながら何かを喋ったのを、先生が小声で耳打ちして教えてくれる。女の人の後ろのほうに、恋人と思われる男性がいて、なるほど、と話を理解した。
「大切な人からもらった、とても大切なものなんですね」
先生が女の人に話しかける。「はい」と愛おしそうに、彼女はニット帽を撫でた。
「彼とは一度別れたことがあったから、もう絶対に手放さないぞって気持ちで付き合ってて。って、すみません! 初対面の方にこんな話っ」
「いえいえ、聞かせてください」
先生は恋バナに興じる女子高生のように女の人にずいっと身を寄せた。その表情が、純粋に彼女の話に興味があると語っている。
「彼と……喧嘩が絶えなくなった時期があって、それでお互い疲れて別れちゃったんですよ。でもやっぱりお互いに、相手が一番好きだって気づいて復縁しました」
八月四日、旅に出て三日目の朝、私たちは早速小樽から函館へと訪れた。
夜、暗くなるまで八幡坂や金森赤レンガ倉庫など定番の観光スポットを見て回る。途中、先生がずっと行きたかったという「ラッキーピエロ」というご当地ハンバーガー屋さんで食事をとった。
人気No.1のチャイニーズチキンバーガーは、食べ応えたっぷりでとてもおいしかった。パンに挟まれた、ジューシーすぎるチキンにかぶりつくと、身も心も満たされて圧倒的幸福感に包まれた。
先生も「函館に来たの三回目なのに、なんでこれ今まで食べたことなかったんだろ!?」と嘘のように一瞬で大きなハンバーガーを食べ尽くしていた。
そして、夜七時。
日が落ちて辺りが暗くなると、ようやく函館山のロープウェイに乗り、山頂展望台へとたどり着いた。標高334メートルということもあり、下界よりももちろん寒い。でも、目の前にぱああっと広がる100万ドルの夜景に目を奪われた。
「すごい……これが函館の夜景」
言葉にならない感情に襲われて、しばらく夜景を見つめることしかできなかった。北海道の形がこんなにもくっきりと見えることにも驚いたし、しんしんと冷える空気の中で、テレビや雑誌でしか見たことのない光景を今目にしているという事実に、喜びを噛み締めた。
「すごいよねえ。夜景は三回目だけど、いつ見ても綺麗すぎる」
先生は函館に来たのが三回目だと言っていたが、それでも目を輝かせてうっとりと景色に見入っている。何度見てもいいのだと思い知らされた。
「わあっ!」
私と先生が目の前の景色に圧倒されていた最中、ひゅっと一陣の風が吹いて、少し離れたところから女の人の声が飛んできた。と同時に、私の足元に黒色のニット帽がふわりと飛んでくる。あやうく天に飛ばされそうになったところをキャッチすると、女の人が駆け寄ってきて「すみません、ありがとうございます」と私に何度も頭を下げてくれた。
どうぞ、とニット帽を渡すと、女の人が涙目になって「よかったぁぁ」とほっと一安心した様子でニット帽を抱きしめた。年齢は二十代半ばぐらいだろうか。先生より少し下なような気がする。
「このニット帽……彼にもらったものだから、絶対失くしたくなくて」
女の人が後ろを振り返りながら何かを喋ったのを、先生が小声で耳打ちして教えてくれる。女の人の後ろのほうに、恋人と思われる男性がいて、なるほど、と話を理解した。
「大切な人からもらった、とても大切なものなんですね」
先生が女の人に話しかける。「はい」と愛おしそうに、彼女はニット帽を撫でた。
「彼とは一度別れたことがあったから、もう絶対に手放さないぞって気持ちで付き合ってて。って、すみません! 初対面の方にこんな話っ」
「いえいえ、聞かせてください」
先生は恋バナに興じる女子高生のように女の人にずいっと身を寄せた。その表情が、純粋に彼女の話に興味があると語っている。
「彼と……喧嘩が絶えなくなった時期があって、それでお互い疲れて別れちゃったんですよ。でもやっぱりお互いに、相手が一番好きだって気づいて復縁しました」



