「私は」
手話で自分のことを指し示しながらゆっくりと口を開く。先生が驚いて目を丸くする。私は、しばらく声を発することがなく閉じてしまっていた喉を開きながら、ゆっくりと実際に言葉を声に出していった。
「耳が聞こえていた頃……他人のネガティブな声に敏感で、心が壊れてしまったんです。だから、耳が聞こえなくなることで、他人のネガティブな声も一緒に聞こえなくなった時は、正直ほっとした部分もありました」
他人のネガティブな“心の声”が聞こえていたとは、あえて言わなかった。だけど、牧野さんは私の言葉に釘付けになるように、ぐっと身を乗り出す。
「音が聞こえなくなったことは怖かったけれど、あのまま誰かの負の感情を浴び続けていたら、とっくに壊れてしまったと思います。だから……と言ってしまっては軽く聞こえてしまうかもしれませんが、耳が聞こえなくなったことにも、何か意味がある気がするんです。そう気づいたから、私はまだ戦えるのかなって、今ふと思いました」
何の解決にもならない。ただ胸に芽生えた気持ちを吐露していった。
牧野さんが何度も目を瞬かせて私を見つめている。
私はさらに、すうっと息を吸い込んだ。
「先生とこの旅で、誰かの心の声にも、自分の心の声にも向き合えるようになりたいんです。牧野さんも……今の気持ちを誰かに話してみたらいかがでしょうか? 本当は職人を続けたいって思っていらっしゃるんですよね。例えばお母さんに素直な気持ちを打ち明けてみるとか。……て、こんな小娘に言われても、仕方ないですよね」
自分よりうんと年下の女の子が偉そうにアドバイスをしてきたら、私だったらむかついてしまうかもしれない。そう心配したが、牧野さんは「いや」と首を振りながら、「そうですね」と何かを決意したように頷いた。
「話してみます。あなたがおっしゃる通り、本当は職人を続けたい。僕が作ったとんぼ玉を見てお客さんたちの目がきらきらと輝いていくのを見るのが何より好きなんです」
牧野さんの表情がふっとやわらかに緩んで、初めて本心を聞くことができた。
先生もほっとした顔つきになる。
私は、耳が聞こえなくなってから初めて正面から他人と向き合えたような気がして嬉しかった。
「牧野さん、今話してくれたことを匿名でSNSに投稿しても良いですか? 私たち今、旅で感じたことをXに投稿していこうと思ってるんです。同じ苦しみを抱えていたり、同じように考えていたりする人と、気持ちを共有したくて」
頭の中で『旅カード』に書かれていたミッション——『あなたの中の“言葉にならない気持ち”を形にしてSNSに投稿しよう』という一文を思い浮かべながら訊いた。
牧野さんは一瞬驚きつつも、またやわらかく微笑んで「いいですよ、ぜひ。僕も、誰かと気持ちを共有したくなりました」とやさしく答えてくれた。
私は「ありがとうございます!」と頭を下げて、再び三人で「とんぼ玉館」へと戻った。
徐冷が終わったとんぼ玉を棒芯からゆっくりと外してもらう。
エメラルドグリーンに白いお花が埋め込まれたようなとんぼ玉が、手のひらの中で一際輝いて見えた。
手話で自分のことを指し示しながらゆっくりと口を開く。先生が驚いて目を丸くする。私は、しばらく声を発することがなく閉じてしまっていた喉を開きながら、ゆっくりと実際に言葉を声に出していった。
「耳が聞こえていた頃……他人のネガティブな声に敏感で、心が壊れてしまったんです。だから、耳が聞こえなくなることで、他人のネガティブな声も一緒に聞こえなくなった時は、正直ほっとした部分もありました」
他人のネガティブな“心の声”が聞こえていたとは、あえて言わなかった。だけど、牧野さんは私の言葉に釘付けになるように、ぐっと身を乗り出す。
「音が聞こえなくなったことは怖かったけれど、あのまま誰かの負の感情を浴び続けていたら、とっくに壊れてしまったと思います。だから……と言ってしまっては軽く聞こえてしまうかもしれませんが、耳が聞こえなくなったことにも、何か意味がある気がするんです。そう気づいたから、私はまだ戦えるのかなって、今ふと思いました」
何の解決にもならない。ただ胸に芽生えた気持ちを吐露していった。
牧野さんが何度も目を瞬かせて私を見つめている。
私はさらに、すうっと息を吸い込んだ。
「先生とこの旅で、誰かの心の声にも、自分の心の声にも向き合えるようになりたいんです。牧野さんも……今の気持ちを誰かに話してみたらいかがでしょうか? 本当は職人を続けたいって思っていらっしゃるんですよね。例えばお母さんに素直な気持ちを打ち明けてみるとか。……て、こんな小娘に言われても、仕方ないですよね」
自分よりうんと年下の女の子が偉そうにアドバイスをしてきたら、私だったらむかついてしまうかもしれない。そう心配したが、牧野さんは「いや」と首を振りながら、「そうですね」と何かを決意したように頷いた。
「話してみます。あなたがおっしゃる通り、本当は職人を続けたい。僕が作ったとんぼ玉を見てお客さんたちの目がきらきらと輝いていくのを見るのが何より好きなんです」
牧野さんの表情がふっとやわらかに緩んで、初めて本心を聞くことができた。
先生もほっとした顔つきになる。
私は、耳が聞こえなくなってから初めて正面から他人と向き合えたような気がして嬉しかった。
「牧野さん、今話してくれたことを匿名でSNSに投稿しても良いですか? 私たち今、旅で感じたことをXに投稿していこうと思ってるんです。同じ苦しみを抱えていたり、同じように考えていたりする人と、気持ちを共有したくて」
頭の中で『旅カード』に書かれていたミッション——『あなたの中の“言葉にならない気持ち”を形にしてSNSに投稿しよう』という一文を思い浮かべながら訊いた。
牧野さんは一瞬驚きつつも、またやわらかく微笑んで「いいですよ、ぜひ。僕も、誰かと気持ちを共有したくなりました」とやさしく答えてくれた。
私は「ありがとうございます!」と頭を下げて、再び三人で「とんぼ玉館」へと戻った。
徐冷が終わったとんぼ玉を棒芯からゆっくりと外してもらう。
エメラルドグリーンに白いお花が埋め込まれたようなとんぼ玉が、手のひらの中で一際輝いて見えた。



