翌朝、九時にホテルを出た私たちは、JR函館本線に乗り、小樽駅へと舞い降りた。一時間もかからずにすっと目的地までたどり着けてほっとした。
「『旅カード』には“大正硝子館”で自分だけのオリジナルガラスを作るって書いてあるね」
羽美先生が『旅カード』に目を凝らしながら辺りをキョロキョロと見渡す。私は『旅カード』の一番下に書かれた「ミッション」という項目が気になった。
「このミッションって、何でしょう?」
「ん? ああ、これね。“ミッション”って言うぐらいだから、体験をした後にここに書かれていることを行動に移しなさいってことじゃないの?」
「なるほど。それなら、書かれている内容をSNSに投稿をすればいいんですね」
『あなたの中の“言葉にならない気持ち”を形にしてSNSで投稿しよう』
『旅カード』にはそう書かれている。
SNSに投稿するというミッションなら自分にでもできそうだ。昨日、先生からアカウントをつくってもらったXで投稿しよう。
「そうだね、誰にでもできる内容で良かった。じゃ、行こうか」
スマホのマップを見ながら、先生が小樽駅から大通りへと歩き出した。夏の北海道はびっくりするぐらい涼しい。近年北海道も温暖化が進んでいて夏は暑いと聞くが、今日の気温は二十五度くらいだろうか。真夏の東京に比べるとすっきりとしていて初夏の爽やかな空気に浸っているようだった。
有名な小樽運河のほうに向かって歩くこと約十分。
灰色の軟石でできた趣のある外観の建物が現れて、すぐに大正硝子館だと分かった。
「歴史的建造物って感じですね」
思ったことをそのまま口にする。
「実際そうらしいよ。『旧名取高三郎商店』の建物を改修してつくったんだって」
「先生、詳しいんですね」
すらすらと豆知識が出てくるのでびっくりしてそうつっこむと、先生はどこか焦った様子で「ほら、私って賢いし!?」と取り繕うように答えた。そんなに慌てなくてもいいのに。先生が賢いのは先生をずっと見ていたら分かる。普段はおバカっぽい喋り方をしているけれど、それは先生が生徒と心の距離を近づけるための工夫なのだ。
「と、とにかく行こうっ。ガラス製作体験、楽しみだね」
「そうですね」
正直なところ、先生に言われるがまま、『旅カード』に記されたまま進んでいるだけで、自分が先生と二人でワクワクするような体験をする旅をしているという実感がまだなかった。
「わ、綺麗〜!」
大正硝子館の中に一歩足を踏み入れると、色とりどりのガラス製品がずらりと並んでいた。定番のグラスやお皿などの食器、アクセサリー、花瓶、一輪挿し、プレート、小さな置物などさまざまなものがあった。赤色、青色、黄色、白色、緑色——お店全体が花火を散らしたような輝きに満ちていて、眺めているだけで心地よかった。
「体験コーナーはどこだろう。店員さんに聞いてみようか」
きょろきょろと店内を見回していた先生が店員さんを捕まえて、体験コーナーについて尋ねてくれているみたいだった。
「なるほど、分かりました。ありがとうございます!」
元気の良い先生の声が店内に響いて、先生が私に「あのね」と店員さんから教えてもらったことを伝えてくれる。
「体験といってもいろいろあるから、それぞれ体験できる場所が違うんだって。一覧を見せてもらったんだけど、どれにする?」
先生が見せてくれたのは、お店の人が手作りしたらしい「体験一覧」というポスターを撮った写真だった。吹きガラス体験、とんぼ玉製作体験、ステンドプレート製作体験など、確かにさまざまな体験がある。私はひとしきり悩んだ後、「とんぼ玉製作体験」を選んだ。
「きらきらして丸っこくて綺麗だから。それに、アクセサリーに使えるなら、ずっと持っていられるし」
と手話で伝えると、先生はにんまり笑って「私もそう思ってたとこ」と賛成してくれた。
「『旅カード』には“大正硝子館”で自分だけのオリジナルガラスを作るって書いてあるね」
羽美先生が『旅カード』に目を凝らしながら辺りをキョロキョロと見渡す。私は『旅カード』の一番下に書かれた「ミッション」という項目が気になった。
「このミッションって、何でしょう?」
「ん? ああ、これね。“ミッション”って言うぐらいだから、体験をした後にここに書かれていることを行動に移しなさいってことじゃないの?」
「なるほど。それなら、書かれている内容をSNSに投稿をすればいいんですね」
『あなたの中の“言葉にならない気持ち”を形にしてSNSで投稿しよう』
『旅カード』にはそう書かれている。
SNSに投稿するというミッションなら自分にでもできそうだ。昨日、先生からアカウントをつくってもらったXで投稿しよう。
「そうだね、誰にでもできる内容で良かった。じゃ、行こうか」
スマホのマップを見ながら、先生が小樽駅から大通りへと歩き出した。夏の北海道はびっくりするぐらい涼しい。近年北海道も温暖化が進んでいて夏は暑いと聞くが、今日の気温は二十五度くらいだろうか。真夏の東京に比べるとすっきりとしていて初夏の爽やかな空気に浸っているようだった。
有名な小樽運河のほうに向かって歩くこと約十分。
灰色の軟石でできた趣のある外観の建物が現れて、すぐに大正硝子館だと分かった。
「歴史的建造物って感じですね」
思ったことをそのまま口にする。
「実際そうらしいよ。『旧名取高三郎商店』の建物を改修してつくったんだって」
「先生、詳しいんですね」
すらすらと豆知識が出てくるのでびっくりしてそうつっこむと、先生はどこか焦った様子で「ほら、私って賢いし!?」と取り繕うように答えた。そんなに慌てなくてもいいのに。先生が賢いのは先生をずっと見ていたら分かる。普段はおバカっぽい喋り方をしているけれど、それは先生が生徒と心の距離を近づけるための工夫なのだ。
「と、とにかく行こうっ。ガラス製作体験、楽しみだね」
「そうですね」
正直なところ、先生に言われるがまま、『旅カード』に記されたまま進んでいるだけで、自分が先生と二人でワクワクするような体験をする旅をしているという実感がまだなかった。
「わ、綺麗〜!」
大正硝子館の中に一歩足を踏み入れると、色とりどりのガラス製品がずらりと並んでいた。定番のグラスやお皿などの食器、アクセサリー、花瓶、一輪挿し、プレート、小さな置物などさまざまなものがあった。赤色、青色、黄色、白色、緑色——お店全体が花火を散らしたような輝きに満ちていて、眺めているだけで心地よかった。
「体験コーナーはどこだろう。店員さんに聞いてみようか」
きょろきょろと店内を見回していた先生が店員さんを捕まえて、体験コーナーについて尋ねてくれているみたいだった。
「なるほど、分かりました。ありがとうございます!」
元気の良い先生の声が店内に響いて、先生が私に「あのね」と店員さんから教えてもらったことを伝えてくれる。
「体験といってもいろいろあるから、それぞれ体験できる場所が違うんだって。一覧を見せてもらったんだけど、どれにする?」
先生が見せてくれたのは、お店の人が手作りしたらしい「体験一覧」というポスターを撮った写真だった。吹きガラス体験、とんぼ玉製作体験、ステンドプレート製作体験など、確かにさまざまな体験がある。私はひとしきり悩んだ後、「とんぼ玉製作体験」を選んだ。
「きらきらして丸っこくて綺麗だから。それに、アクセサリーに使えるなら、ずっと持っていられるし」
と手話で伝えると、先生はにんまり笑って「私もそう思ってたとこ」と賛成してくれた。



