Vivid Red Examination

 夏の冠模試が返却され、うだるような暑さに残暑という名前がつくようになったころ。教室に響きわたる蝉の声がヒグラシのそれに変わる。
 俺は相変わらずユーショーとつるんでいた。それどころか、模試の結果を自らユーショーに見せ、分析をお願いするくらいには、俺はあいつの背中を追いかけるようになっていた。
 平凡なはずの俺の学生生活は、いつの間にか消え失せていた。カレンダーにはびっしりスケジュールが詰め込まれ、頻繁にシャー芯が切れる。赤だけインクがなくなる三色ボールペンが厄介で、百均の5本入り赤ペンを使い出した。
 平凡なはずの俺の学生生活は、気づけば慌ただしくなっていた。日に日に緊張感の高まる学校の雰囲気とユーショーに受験という名の呪いをかけられたからだろう。

「で、お前結局志望校どうすんの? そろそろ決めねえとじゃね?」
「うーん、まだ決めてない」
「もう東大で良くね?」
「……まあアリっちゃアリだな」

 冗談のつもりだった。実際、東大で良くね? といったユーショーだって、そのつもりだったはずだ。
 だが、俺は結局その先もまともに将来を考えることなく、流されるままずっと志望校を東大にして受験期を迎えたのだ。
 共通テストが近づいても、なんとなくの志望校を変えるつもりはなかったし、どうにでもなるだろうという楽観的な考え方が支配していたからだ。
 俺は受験がその先の人生を大いに揺るがすだなんて、考えもしていなかった。