生きてゐるタワーマンション

 翌朝、ゴミを出しに一階まで降りた俺は、エントランスの掲示板にすっと視線が吸い寄せられた。掲示板にはガス点検のお知らせや地域行事のお知らせが貼られている。
 まだ新築のマンションなのでお知らせの紙は三枚しか掲示されていなかった。
 が、その中の一つに気になるものを見つける。


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<調整完了のおしらせ>

 5月2日、1403号室にて調整が完了しましたので、お知らせします。

 これからも、RESIDENCE SAKAE ONEはみなさまに快適な居住空間を提供するため、尽力してまいります。
 
 騒音、室温、共用部分の利用に関して等、気になることがございましたら、当マンション管理人までお知らせください。

 迅速に調整をいたします。

 2026年5月3日
 RESIDENCE SAKAE ONE
 管理人:北本(きたもと)島原(しまばら)田村(たむら)

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「調整完了のお知らせ……? なんだそりゃ」

 1403号室といえば、俺の隣の部屋であり、昨日新しい住人である渡辺さんが引越しの挨拶に来てくれた。
「引越しのお知らせ」ならまだ分かるが、「調整完了のお知らせ」とはどういう意味だろうか。
 と、そこまで考えて一つ、頭の中に答えが浮かび上がる。

「なるほど。AIにつくらせたな」

 ネット上やこういうクローズドな環境で目にする文書で、なんとなく日本語がおかしいものは、生成AIが作成した可能性が高い——近年、特に若者は大学のレポートなんかもAIに書かせていると聞くし、管理人がこういったお知らせの文章をAIにつくらせていても不思議ではない。

「でもなあ。さすがに見直しくらいはしてほしいよな」

 明らかにおかしなタイトルなのに、そのまま採用するなんて。
 というかそもそも、どんなプロンプトを打ち込んだら、引越しのお知らせを「調整完了のお知らせ」というふうに全然違う言葉で表現させることになるんだ?
 頭の中は疑問だらけだが、たかがマンションのお知らせの紙一つにそこまで考える労力を使う必要もないと思い直し、その場はスルーした。