「いただきます」
沙綾が帰ってくるまで待っていようかと思ったが、相変わらず「未読」のままのチャットを見て、待つ気が失せた。
ビーフシチューは思いのほかおいしく、お腹が空いていた俺はものの十五分程度で平らげてしまった。
「これ、なんなんだろう」
食事を終えて皿洗いまで終わったところで、ふとテーブルの上に置かれた先ほどの荷物が気になった。
ちょっとした興味だ。悪いとは思いつつ、スマホを覗き見るような行為に比べたら全然ましだろうと自分に言い聞かせ、箱を開けてみた。
中から出てきたのは、赤い布でできたベレー帽のような帽子と、袖のない羽織のような赤い服。
「これは——ちゃんちゃんこか」
声に出して、ようやく気づいた。
沙綾が頼んでいたのは、今日還暦を迎えた俺に着せるための赤いちゃんちゃんこだった。
そういえば、と一週間前の沙綾のセリフを思い出す。
——それよりさ、隼ちゃんって洋菓子は苦手だったよね?
もしかしたらあれも、俺の誕生日の祝いのことを考えてくれていたのだろうか。
還暦にはバウムクーヘンやフィナンシェなどの日持ちのする焼き菓子をプレゼントするのが好まれる。単にケーキの代わりを考えてくれていたのかもしれない。
そういえば、沙綾は去年の誕生日だってちゃんとお祝いをしてくれたし、ケーキではなく羊羹を用意してくれていた。
「忘れてなかったのか」
忘れるどころか、赤いちゃんちゃんこまで用意して、きちんとお祝いしてくれようとしてくれていたのだ。
もしかしたら小坂さんに相談したという話も、俺の還暦祝いのことだったりしないか?
小坂さんが途中で「なんでもない」と言葉を濁したのは、沙綾が俺にサプライズをするつもりだと知っていたからと考えれば説明がつく。
「俺は勘違いをしてたのか……」
沙綾に申し訳ない気持ちがどんどんあふれてくる。今日だって、仕事が長引いて帰れないだけかもしれないのに。
俺はビーフシチューの残った鍋にそっと蓋を閉めて、沙綾の帰りを待った。
だが、待てど暮らせど沙綾は帰ってこなかった。
お風呂を済ませ、自室でゆっくりしながら、だんだんと不安が大きくなっていくのに気づく。
二十一時、二十二時、二十三時。
時が進むにつれ、沙綾がいない現実に焦りが増していくばかり。
「まだなのか!?」
さすがに何か事件や事故に巻き込まれていないかと心配になる。スマホで再び沙綾とのチャット画面を眺めたが、夕方に送ったメッセージはいまだに「未読」のままだ。
俺はたまらなくなって、沙綾のスマホに電話をかける。
プルルルルルルル
プルルルルルルル
ワンコール、ツーコール
プルルルルルルル
スリーコール目まで聞いたところではっと気づく。
「今、向こうから着信音がした……?」
プルルルルルルル
俺のスマホからは依然としてコール音が鳴り響く。でも、それとはべつに、自分のスマホを耳からは離すと、違うところから微かにシャララララランという着信音が聞こえてきたのだ。
俺は自分のスマホを握りしめたまま、音の鳴っている場所を探す。音はどうやら向かいの沙綾の部屋から聞こえているらしかった。
「ちょっと失礼」
沙綾がいない時に彼女の部屋に入るのは気が引けた。でも、今は好奇心に突き動かされて、彼女の部屋の扉を開けてしまう。
沙綾が帰ってくるまで待っていようかと思ったが、相変わらず「未読」のままのチャットを見て、待つ気が失せた。
ビーフシチューは思いのほかおいしく、お腹が空いていた俺はものの十五分程度で平らげてしまった。
「これ、なんなんだろう」
食事を終えて皿洗いまで終わったところで、ふとテーブルの上に置かれた先ほどの荷物が気になった。
ちょっとした興味だ。悪いとは思いつつ、スマホを覗き見るような行為に比べたら全然ましだろうと自分に言い聞かせ、箱を開けてみた。
中から出てきたのは、赤い布でできたベレー帽のような帽子と、袖のない羽織のような赤い服。
「これは——ちゃんちゃんこか」
声に出して、ようやく気づいた。
沙綾が頼んでいたのは、今日還暦を迎えた俺に着せるための赤いちゃんちゃんこだった。
そういえば、と一週間前の沙綾のセリフを思い出す。
——それよりさ、隼ちゃんって洋菓子は苦手だったよね?
もしかしたらあれも、俺の誕生日の祝いのことを考えてくれていたのだろうか。
還暦にはバウムクーヘンやフィナンシェなどの日持ちのする焼き菓子をプレゼントするのが好まれる。単にケーキの代わりを考えてくれていたのかもしれない。
そういえば、沙綾は去年の誕生日だってちゃんとお祝いをしてくれたし、ケーキではなく羊羹を用意してくれていた。
「忘れてなかったのか」
忘れるどころか、赤いちゃんちゃんこまで用意して、きちんとお祝いしてくれようとしてくれていたのだ。
もしかしたら小坂さんに相談したという話も、俺の還暦祝いのことだったりしないか?
小坂さんが途中で「なんでもない」と言葉を濁したのは、沙綾が俺にサプライズをするつもりだと知っていたからと考えれば説明がつく。
「俺は勘違いをしてたのか……」
沙綾に申し訳ない気持ちがどんどんあふれてくる。今日だって、仕事が長引いて帰れないだけかもしれないのに。
俺はビーフシチューの残った鍋にそっと蓋を閉めて、沙綾の帰りを待った。
だが、待てど暮らせど沙綾は帰ってこなかった。
お風呂を済ませ、自室でゆっくりしながら、だんだんと不安が大きくなっていくのに気づく。
二十一時、二十二時、二十三時。
時が進むにつれ、沙綾がいない現実に焦りが増していくばかり。
「まだなのか!?」
さすがに何か事件や事故に巻き込まれていないかと心配になる。スマホで再び沙綾とのチャット画面を眺めたが、夕方に送ったメッセージはいまだに「未読」のままだ。
俺はたまらなくなって、沙綾のスマホに電話をかける。
プルルルルルルル
プルルルルルルル
ワンコール、ツーコール
プルルルルルルル
スリーコール目まで聞いたところではっと気づく。
「今、向こうから着信音がした……?」
プルルルルルルル
俺のスマホからは依然としてコール音が鳴り響く。でも、それとはべつに、自分のスマホを耳からは離すと、違うところから微かにシャララララランという着信音が聞こえてきたのだ。
俺は自分のスマホを握りしめたまま、音の鳴っている場所を探す。音はどうやら向かいの沙綾の部屋から聞こえているらしかった。
「ちょっと失礼」
沙綾がいない時に彼女の部屋に入るのは気が引けた。でも、今は好奇心に突き動かされて、彼女の部屋の扉を開けてしまう。



