生きてゐるタワーマンション

 四月末、何やら隣近所で普段よりドタドタと音がするなと思っていたが、子どもが休みで遊んでいるのだろう、と何気なく思う。小学生なんて学校があっても休みみたいなもんだからいいな、とつい羨ましくなった。

 五月の連休に入ると、久しぶりに圭介から連絡があった。

----------------------------------
----------------------------

−圭介とのチャットのやりとり−

<5月3日>


圭介【よお伊吹、久しぶり。連休中暇してない?】12:04


吉野【久しぶり。突然連絡してきて“暇してない?”はちょっと失礼だろ。まあ暇だが】13:11


圭介【暇なんかい! なら明日、久々に飲みでも行かない?】13:25


吉野【俺は全然いいけど、奥さんとお子さんは?】13:56


圭介【実家に帰ってるんだよ。だから今俺一人なんだよな】14:02


吉野【なるほど、了解。ちなみにさ、俺今新居に住んでんだよね。良かったらうちで飲まない?】14:32


圭介【え、そうなん!? それは行くわ。新居祝いだな】14:44


吉野【祝いとかいらねえけど。じゃあ、明日の十七時ごろ待ってるな。住所は——】15:03


圭介【え、待って。ここって栄駅に新しくできたタワマン!? お前、タワマンに住んでんの】15:13


吉野【実は、そうなんだ。だからお前にも見せたくてさ】15:25


圭介【そういうことね。こりゃ楽しみだ】15:27


吉野【おう。待ってるぞー】15:34

----------------------------
----------------------------------

 そこで俺たちの会話はいったん途切れた。
 俺がRESIDENCE SAKAE ONEに住んでるって聞いて、圭介のやつ驚いてたな。まあ、普通はそうか。独身男が一人でタワマン暮らしなんて贅沢以外のなにものでもない。
 圭介とは大学時代からの付き合いだが、同じ名古屋に住んでいる数少ない友人の一人だ。学生時代の友達はほとんどが東京で働いている。俺は名古屋本社の会社に、圭介は東京が本社の不動産会社に勤めているが、勤務は名古屋支店だ。せっかくだから新居を見てもらいたいと思っていたのでちょうど良かった。

 俺は早速、明日の晩に圭介を迎え入れるためにスーパーに食材を買いに出かけた。 
 普段は自炊なんてほとんどしないけど、せっかく友達が来るんだし、簡単な料理ぐらいは作ろう。すき焼きや鍋なら俺でもそこそこにうまいもんが作れる。
 食材とお酒を買い込んだ俺は、いそいそと自宅に戻るのだった。