生きてゐるタワーマンション

「チッ……嫌な気分になったわ。これだから“ママ友”とやらは話が合わない」

 星名さんや宮脇さんが親切に接してくれているのが分かっていたが、どうしても一条さんの軽い発言が気に食わなかった。そして、自分の中で湧き上がる「他人に認められたい」という欲求を止めることもできず、“プライベートが充実してるから”なんて、しょうもないマウントのようなものをとってしまった。
 あの三人は、私がRESIDENCE SAKAE ONEで暮らしていることを知らない。たぶん、マンション名を言えばすぐに思い当たっただろうけれど、一条さんの態度に、そこまで言う気にならなかった。

「ただいまっ」

「おかえりー。帰ってくるの早かったね」

 リビングでくつろいでいた夫からそう言われて、またパンケーキ屋さんでの一件を思い出してむしゃくしゃしてきた。

「亜衣、ちょっと見ててくれない?」

「うん、いいよ」

 亜衣が「パパー」と嬉しそうに、夫の胸に飛び込んでいく。
 夫は亜衣と接する時間が短いのに、どうして娘にそんなに好かれているのか。
 接する時間が少ない分、夫が亜衣を猫可愛がりしているからに他ならない。
 私は亜衣をよく叱っているから、パパのほうが優しくて好きなんだろう。

 そんな二人を尻目に、私は自室へと向かう。
 家の中で、私が一番好きな部屋だ。
 広さは九畳ほどの、南向きの部屋。部屋の窓がリビングと同じで大きく、ベランダもついている。夕暮れ時から夜にかけて、移り行く景色をここで眺めるのが最高なのだ。
 もっと言うと、子どもを夫に見てもらって、この部屋で映画鑑賞をしたり読書をしたりする時間が、至福の時。

「こんな日は映画を見るに限るわ」

 家庭用のプロジェクターを設置して、壁に映像を投影する。
 今日見るのは、一昔前に流行った洋画だ。映画好きなら誰もが見たことのある感動ストーリーを、もう一度ゆっくりと鑑賞したくなった。
 さっそく映画の投影を始めたのだが、一瞬、画面がぐちゃぐちゃっと乱れた。

「え、故障……?」
 
 例えるなら、昔のテレビの“砂嵐”のような現象だった。
 だが、それも数秒のことで、すぐに収まったので、不思議に思いつつも「故障じゃなくて良かった」とほっと胸を撫で下ろすのだった。