圭介がうちを訪れた連休が明け、職場と自宅を往復する日々が再開した。RESIDENCE SAKAE ONEに住む前までは変わり映えのない日々に退屈していたが、今は違う。RESIDENCE SAKAE ONEに帰ってくれば、安らぎの時間が始まる。それだけで生活の質がぐっと上がったような気がした。
「おかえりなさい」
今日も仕事から帰ってくるとエントランスでマンションの管理人とすれ違う。名札には「田村」と書かれた四十代後半ぐらいの女性だ。このマンションは二十四時間管理人が常駐しているのため、管理人が三人いる。そのうちの一人である田村さんは、唯一の女性で、気の弱そうな感じで腰も低め。俺は「こんばんは」と軽く会釈をしつつ、「そういえば」と気になっていることを聞いた。
「この間ここに貼ってあった『調整のお知らせ』っていう紙はもう剥がしたんですか?」
掲示板を指差しながら、俺は田村さんに尋ねた。すると彼女は「え?」と呆けたような顔をした。
「『調整のお知らせ』……? そんなお知らせ、貼ってありましたっけ」
おいおい、忘れたのかよ。
紙にはちゃんとあなたの名前も記載されていましたが。
とは口には出せず、俺は「気のせいかな?」ととぼけたふりをして首を捻る。
「変わったお知らせだなと思ったので気になって」
「はあ。また確認してみますね」
彼女は怪訝そうな表情をしてそう答えたが、おそらく彼女があのお知らせをべつの管理人に確認することなどはしいないだろう。
俺は不可解に思いつつも、1402号室へと戻る。ふと頭の中で、圭介が「レポートよろしく」と言っていたのを思い出す。
これは怪異と呼べるのだろうか。
もっと分かりやすく幽霊とか事故とか自○とか、“怪異”と呼ぶにふさわしい出来事じゃないと、あいつは喜ばないだろうな。
と、その場では“レポート”を圭介に送らない口実を考えていたのだが、その日の夜、お風呂から上がりひとり酒を楽しんでいたところで、俺は不可解な音を耳にした。
ドン ドンドンドンドン
一瞬、上の部屋の人が物音を立てているのだと思って無視していた。でもよく考えると、このマンションは防音設備がしっかりとしているし、今まで上から物音が響いたことはない。
ドンドンドン ドンドン
「これって……隣の部屋から?」
間違いない。音は上からではなく、隣の1403号室のほうから響いている。でもなぜ?
ドンドンドンドンドンドンドン
次第に大きくなる音に、俺は思わず耳を塞いだ。
一瞬、1403号室の渡辺さんの注意をしに行こうかと思ったが、そこで思考がふと止まる。
渡辺さんは、どこにでもいるおとなしそうな女性だった。そんな人が、この時間に大きな物音を立てるだろうか。もしかしてお子さんがいるとか? まあそれなら分からなくもないが、挨拶のとき、五十代半ばぐらいに見えた彼女の子どもとなると、成人していてもおかしくない。まだ孫がいる年齢には見えなかったし、子どもの仕業ではない……?
ぐるぐると疑問が頭の中を駆け巡る中、一際大きく「ドンッ!」という音が響いて身体が跳ねた。まるで地響きのようなその音に、地震でもくるのかと思って一瞬身構える。だが、予想に反して地震はこなかった。
大きな音のあとはいつも通り、部屋に静寂が戻ってくる。
「なんだったんだ」
不思議に思いながらも、音がしないならもう文句を言いに行く必要はない。
腑に落ちないことは多々あったが、俺は何事もなかったのだと自分に言い聞かせて眠りについた。
「おかえりなさい」
今日も仕事から帰ってくるとエントランスでマンションの管理人とすれ違う。名札には「田村」と書かれた四十代後半ぐらいの女性だ。このマンションは二十四時間管理人が常駐しているのため、管理人が三人いる。そのうちの一人である田村さんは、唯一の女性で、気の弱そうな感じで腰も低め。俺は「こんばんは」と軽く会釈をしつつ、「そういえば」と気になっていることを聞いた。
「この間ここに貼ってあった『調整のお知らせ』っていう紙はもう剥がしたんですか?」
掲示板を指差しながら、俺は田村さんに尋ねた。すると彼女は「え?」と呆けたような顔をした。
「『調整のお知らせ』……? そんなお知らせ、貼ってありましたっけ」
おいおい、忘れたのかよ。
紙にはちゃんとあなたの名前も記載されていましたが。
とは口には出せず、俺は「気のせいかな?」ととぼけたふりをして首を捻る。
「変わったお知らせだなと思ったので気になって」
「はあ。また確認してみますね」
彼女は怪訝そうな表情をしてそう答えたが、おそらく彼女があのお知らせをべつの管理人に確認することなどはしいないだろう。
俺は不可解に思いつつも、1402号室へと戻る。ふと頭の中で、圭介が「レポートよろしく」と言っていたのを思い出す。
これは怪異と呼べるのだろうか。
もっと分かりやすく幽霊とか事故とか自○とか、“怪異”と呼ぶにふさわしい出来事じゃないと、あいつは喜ばないだろうな。
と、その場では“レポート”を圭介に送らない口実を考えていたのだが、その日の夜、お風呂から上がりひとり酒を楽しんでいたところで、俺は不可解な音を耳にした。
ドン ドンドンドンドン
一瞬、上の部屋の人が物音を立てているのだと思って無視していた。でもよく考えると、このマンションは防音設備がしっかりとしているし、今まで上から物音が響いたことはない。
ドンドンドン ドンドン
「これって……隣の部屋から?」
間違いない。音は上からではなく、隣の1403号室のほうから響いている。でもなぜ?
ドンドンドンドンドンドンドン
次第に大きくなる音に、俺は思わず耳を塞いだ。
一瞬、1403号室の渡辺さんの注意をしに行こうかと思ったが、そこで思考がふと止まる。
渡辺さんは、どこにでもいるおとなしそうな女性だった。そんな人が、この時間に大きな物音を立てるだろうか。もしかしてお子さんがいるとか? まあそれなら分からなくもないが、挨拶のとき、五十代半ばぐらいに見えた彼女の子どもとなると、成人していてもおかしくない。まだ孫がいる年齢には見えなかったし、子どもの仕業ではない……?
ぐるぐると疑問が頭の中を駆け巡る中、一際大きく「ドンッ!」という音が響いて身体が跳ねた。まるで地響きのようなその音に、地震でもくるのかと思って一瞬身構える。だが、予想に反して地震はこなかった。
大きな音のあとはいつも通り、部屋に静寂が戻ってくる。
「なんだったんだ」
不思議に思いながらも、音がしないならもう文句を言いに行く必要はない。
腑に落ちないことは多々あったが、俺は何事もなかったのだと自分に言い聞かせて眠りについた。



