僕たちは青春を卒業しない

   ◇

 あれから二週間が経ったが、読モの仕事がある日以外は、絵のモデルとして作間と過ごすようになった。
 不慣れだった絵のモデルも、今では慣れたもの。
 むしろ、作間のオーダーに応えるのが楽しくなっているくらいだ。
 その相乗効果か、読モのほうもじわじわと読者からの支持を集めているらしい。
 結果、同業者からの妬み嫉みは増えたけど、正直気にならない。
 SNSでの声や、周りの勝手な評価よりも、作間からの一言が、俺にとっての宝となっていた。
 おかげで、前よりも学校に来ることが楽しくて仕方ない。

 だけど、今日はやけに周りの視線が痛い。
 有名人を見かけて凝視してしまう視線とは違う。
 どこか睨みつけるようなものばかり。
 同業者に恨まれるならまだしも、校内でこんなふうに見られるなんて、なにかあったのだろうか。
 俺はなにも把握できないまま、教室に着いた。

「お! ゲイモデル様のご到着ー!」

 教室に一歩足を踏み入れた瞬間、そんな叫び声が聞こえてきた。
 俺を嘲笑する男子、軽蔑するかのような目を向けてくる女子。
 昨日までとは真逆な反応に、状況が飲み込めない。
 俺が困惑して動けないでいると、一番に声を上げた男子が目の前にやってきた。

「いやあ、お前が男もいけるなんて知らなかったなあ」
「……なんのこと」

 ここまで見下されたのは、初めてかもしれない。
 今まで、悪意に出くわすことは何度かあったけど、それはすべて陰口だったから。
 でも、なにが起こっているのかわかっていないせいで、どんな感情を抱くのが正解なのか、わからない。

「ほら。お前、作間とできてんだろ?」

 そう言ってスマホを見せられた。
 そこには、一枚の画像が映されている。
 教室にいる俺と作間だ。
 普通に話しているようにしか見えない一枚の写真で、どうしてこんな騒ぎになっている?

「これ撮った奴が、ただならぬ空気感だったって言ってたんだよ。いやあ、有名モデル様はやっぱり違うなあ。放課後の教室で、堂々といちゃつけるなんてさ。それも、男と」

 歪んだ口元が、気持ち悪かった。
 事実無根なのに、それが真実として広まっていることも。

「いや、作間はただの友達だから」
「照れんなって」

 なにを言っても無駄だ。
 そう感じるには十分すぎるにやけ面だった。
 そもそも、誰がこんなことをした?
 気になって教室内を見渡すと、結愛と目が合った。
 だけど、結愛はすぐに気まずそうに視線を逸らした。
 そんな、まさか。
 真相を確かめたくて、俺は混乱したまま、足を進める。
 結愛の目の前に立つと、結愛は顔を上げた。
 どこか怯えた様子は、俺の仮説が正しいと言っているようにしか思えない。

「……これ、結愛がやったの?」

 俺が尋ねると、結愛はわかりやすく目を泳がせた。

「なんでこんなこと……」

 ため息交じりに言った途端、結愛が俺を睨みつけてきた。
 怒りと悲しみが混ざったような瞳に、一瞬戸惑ってしまった。

「燈路が悪いんだよ! 私のこと無視するから!」

 言われてみれば、ここ二週間、結愛とどんな会話をしたのか、思い出せない。
 でも、だからといってこんなことをしてもいい理由にはならない。
 たしかにそう思うのに、これは自分が蒔いた種だと思うと、なにも言えなかった。
 どの言葉を投げるのが正解なのか、それを考えているときだった。
 室内が再びざわついた。
 その理由は、ひとつしかないだろう。
 振り向けば、予想通り作間が教室に入っているところだった。
 ああ、最悪だ。
 できることなら、作間が来る前に片付けておきたかった。

「彼氏様のご到着じゃん」

 さっきの男子生徒が懲りずに茶化してきた。
 当然のごとく、作間は戸惑いを隠せていない。

「だから!」

 なんとかしないとという気持ちが逸り、俺は声を荒げた。
 その刹那、室内は静寂に支配された。

「作間は友達。それ以上でもそれ以下でもないから。変な噂立てるな」

 そう言って自分の席に着いたとき、予鈴が鳴った。
 チャイムの音が救いの音に聞こえたのは、これが初めてだった。