○澄乃回想 八歳
義父「お前は今日からうちの養子だ 巳檮原神社の巫女 それがミズチさまの条件だからな」
モノローグ『私を引き取った日 お義父さまが言った その時はただ「そうなんだ」としか思わず むしろ知り合いの家に来てほっとしていた けれど それが地獄の始まりだったなんて 当時の私は思わなかったのだ――……』

○現在・朝・鷹ノ宮統邸/庭
絹江「澄乃さま! お掃除などおやめください!」
庭で掃き掃除をしている澄乃を見つけて、絹江がやめるように言う
絹江「また私が若さまに怒られてしまいます……!」
澄乃「えっと 少しだけでも……」
絹江「なりません!」
モノローグ『統さまのお屋敷にきて一週間 ここでの生活もだいぶ慣れてきました』
澄乃は絹江が統の持つ風呂敷包みを持っていることに気がつく
澄乃「絹江さん それって統さまの……」
絹江「ええ そうなんです 若さまが護符を忘れられて…… いつもは持って出られるのですが どうしたものかと……」
モノローグ『退魔師である統さまは 護符もお使いになられます』
澄乃モノローグ(ないと困るのでは……)
澄乃「あの……」
絹江「?」
澄乃「わ 私が 届けてきます……!」

○住宅街
澄乃は地図を見ながら街をきょろきょろと歩く
後ろにはお付きの男(鷹ノ宮家使用人)がひとりいる
澄乃「えーと この道をまっすぐ進んで……」
回想絹江「澄乃さまおひとりでは危険では」
回想澄乃「歩いていける距離なんですよね 大丈夫です」
回想絹江「いいえ! お付きの者を付けます!」
澄乃モノローグ(都を歩くのは初めてだけど にぎやかで素敵ね)
澄乃は ほぅ…… とする
ガヤガヤ 街の人がさわいでいる
付き人「なにか騒がしいですね 奥様 下がっていてください」
澄乃「はい」
町人「魚が盗られた!」
町人「食器が割れた!」
町人「今何か通った!」
澄乃モノローグ(何……?)
チビ悪鬼(リスザルのようなサイズ 手足は伸びる)出現
チビ悪鬼「ギギッ」
澄乃「!」
チビ悪鬼が澄乃の帯をひっぱる
付き人「奥様! 悪鬼です!」
澄乃モノローグ(悪鬼!? こんな街中で――)
澄乃「きゃ……」
足音
謎の少女(()()())「こっちよっ!」
少女(菜野花)が飛び出してきて、澄乃の手を掴み、自分の後ろへ引っ張る
澄乃モノローグ(――え?)
菜野花「邪なるものから 守りたまえ!」
澄乃の前にシールドを貼る
シールドの外に悪鬼は転がる
澄乃モノローグ(弾いた)
チビ悪鬼「ギギッ ギー」
チビ悪鬼は走り去る
付き人「あっ こら」
付き人はチビ悪鬼を追いかける

菜野花は笑顔で澄乃を見る
菜野花「ふぅ 危なかったね! 大丈夫だった?」
澄乃モノローグ(今のって 退魔……?)
澄乃「あの あなたは……」
菜野花「私 菜野花! (やよ)()()()()よ よろしくね!」
澄乃モノローグ(弥生――聞いたことがある 名家巫女十二家のひとつだ あんなことが出来るなんて……)
菜野花「見ない顔ね あなたは?」
澄乃「鷹ノ宮澄乃です……」
菜野花「鷹ノ宮っ!?」
菜野花が大きな声をだし、澄乃はびくっとする
菜野花は驚いて、
菜野花「たたた鷹ノ宮って あの…… 冷酷無慈悲(どん!)近付く女は悪鬼ごと切る!(どん!)常に顔が怖い!(どん!)あの鷹ノ宮統さま……っ!?」
澄乃モノローグ(す すごい言われよう……(汗))
澄乃「す 統さまは……そんな方じゃ…… ……」
統の怖い顔を思い出す
澄乃「……」
書き文字『↑フォロー下手』
菜野花「歯切れ悪くない?」(※ツッコミ)
菜野花「なーんてね! そう言えば統さま 結婚したって噂が立ってたわ! あなただったのね!」
澄乃モノローグ(統さまって やっぱり有名なんだ)
菜野花「どこか行くところなの?」
澄乃「あ 統さまの忘れ物です 実は黒衛に届けに行くところで」
菜野花「え!? そうなの! 私も近くまで行くの! いっしょに行きましょ!」
菜野花は笑顔で、澄乃の手を引いて駆け出す

○『黒衛』前
大きな赤煉瓦造りの洋館 を見上げる
菜野花「ここよ!」
モノローグ『悪鬼討伐特務機関 通称『黒衛』本庁 都の退魔師はここで仕事をしているという』
澄乃モノローグ(統さまもここに……)
他の巫女「菜野花ーっ もうすぐ時間だよーっ」
菜野花「はーいっ じゃあ私は神祇巫庁(じんぎみちよう)に行くから! 澄乃ちゃんまたね!」
菜野花は隣の建物(こちらは木造)へ走り去る
澄乃モノローグ(神祇巫庁……なんだろう それは知らない けど……)
菜野花の向かった建物には、巫女姿の女性が多く見えた
澄乃モノローグ(巫女の集まりなのかな……?)

○黒衛本庁内
建物に入る
澄乃モノローグ(広い…… 来たはいいけど 統さまをどう探せば……)
と思っていたが、コツ――足音がして
統「――澄乃?」
統登場
統「こんなとこで何をしている」
澄乃「統さま……!」
澄乃「あの……これを……」
統「は?」
統は澄乃を睨むような顔をする
統「…… こんなもののために来たのか」
澄乃「!」
澄乃モノローグ(あ……)
澄乃はショックを受ける
統「不要だ わざわざ届けなくていい」
澄乃「申し訳ありません」
澄乃モノローグ(期待していたわけじゃない けれど)
澄乃「帰ります」
澄乃が悲しそうな顔をしていることに、統は気がつき少しうろたえる
統「あ いや……」
統が言いよどんでいるところに
雅人登場
雅人「うわーっ この人が統の嫁さん!?」
澄乃・統モノローグ(!?)
澄乃は驚いた顔をし、統は嫌そうな顔をする
雅人「初めまして (ふる)()(まさ)()です! 統の同僚だよー 以後お見知りおきを」
統「雅人 下がれ」
雅人「イヤン(ハート)邪険に扱っちゃやーよ(ハート)」(※冗談)
統「……(怒マーク)」
雅人「統が結婚したって聞いた時は驚いたけど…… へーっ でも かわいいね! 握手しよーっ」
雅人がにこにこと笑顔で手を出したが、
統の腕が止めに入り、雅人の手を押し返す
統「俺の妻に触れるな」
雅人「ありゃ」
澄乃はドキとする
澄乃モノローグ(え…… 統さま……?)
統は澄乃の耳元で言う
統「護符は黒衛にもストックを置いている だからわざわざ持ってこなくて大丈夫だ と 言うことだ」
真意がわかった澄乃
澄乃「統さま……ご迷惑じゃなかったですか?」
統「別に……」
澄乃は統が怒っているわけではないと理解する
澄乃モノローグ(――ああ 傷つく必要はないんだ……)
良い感じになったふたりに、雅人が割って入る
雅人「あのー俺のこと 忘れてません?」
書き文字『↑↑忘れてた』
雅人「なんだよ!!」(※ツッコミ)
統「お前は向こうにいってろ」
雅人「えぇ~~~ いいじゃん 神祇巫庁との打ち合わせまでまだ時間あるしさーっ」
澄乃モノローグ(神祇巫庁――…… さっき菜野花さんが言ってた……)
澄乃「あの 神祇巫庁って……」
統「あー…… まぁ いいか」
統「名家巫女十二家はお前も知ってるだろ」
澄乃はコクとうなずく
澄乃モノローグ(名家巫女十二家 私の生家 水無月家を含む 十二の社家だ)
統「それらが中心となってつくった巫女連合 それが神祇巫庁だ 黒衛と連携して悪鬼を祓っている」
雅人「水無月家が絶えちゃって 今は十一家で回してるんだけどねー」
澄乃「そ そうですか……」(※水無月家の話を言われたので少し焦る)
他隊員「雅人ーちょっと!」
雅人「えー? 仕方ねーなー 澄乃さんまたね!」
言いながら、雅人去る
統はため息を吐き
統「パトロールついでに家まで送ろう」

○商店街
統が先頭を歩き、半歩後に澄乃、五歩くらいあとを付き人(鷹ノ宮家使用人)が歩く
周囲はそばなどで昼食をとっている
澄乃モノローグ(さっきは目に付かなかったけど いろいろなお店が……)
ぐぅ、と澄乃のお腹の音が鳴る
澄乃「!」
恥ずかしい
統「…… なにか食べるか」
そう言って統はフイと顔をそらす
澄乃モノローグ(え)
澄乃「は……はい……」

○背の高い時計台の下
統「ここで待っていろ」
澄乃「え」
統「良い店があったが……思い出したら呼びに来る 街は似た造りで覚えられん」
澄乃モノローグ(まさかの!!)
この近くに馴染みの定食屋があったことを思い出した統(言葉足らず)は、澄乃を待たせる
澄乃「えっと いっしょに行きますよ」
統は澄乃の足をみる 草履でしんどそうだなと思う
統「とにかく待ってろ」
澄乃「あ ……」
統が行ってしまい澄乃は言われたとおりに待つ
澄乃モノローグ(本当は足が痛い 歩きの距離だって聞いていたのに 休めて良かったかも)
ベンチがあったので座る
近くに飲み物を売っている店が目視で見えた付き人は
付き人「奥様 飲み物を買ってまいります」
澄乃「あ はい」
後ろから桐子登場
桐子「あらぁー?」
その声を聞いて、澄乃 びくっ
振り返ると桐子が立っており、澄乃は青ざめる
桐子「お義姉さま……? 見ーつけた」
澄乃「桐子……!」
桐子「どこに逃げたのかと思ったら……都に来ていたとはね 元気そうじゃない 心配して損したわぁー」
桐子は澄乃に近付くと、髪から簪を抜き取る
桐子は簪を地面にポトとわざと落とすと、ダン!と勢いよく踏み壊す
桐子「あーごめんなさぁい 壊れちゃったぁー」
桐子はケラケラと笑う
澄乃「……っ」
澄乃モノローグ(言葉がでてこない)
桐子「いい服着てるわね 誰に買われたの? 金持ちのジジイ?」
澄乃モノローグ(どうしよう)
澄乃は萎縮して声が出ない
桐子「そんなみすぼらしい体で ジジイの相手ができるのー? うっふふふふふ!」
桐子「さっ 帰るわよ 立って」
桐子は笑顔で言う
澄乃が立ち上がらないので
桐子は怖い顔をして言う
桐子「立ちなさいよ」
桐子は澄乃の手を引っ張って歩き出す
澄乃「きゃ……!」
桐子「あんたはねぇ! 都にいるより蛇のお嫁さんの方が似合うわよ! 花嫁の席はまだあけてあるわよ? あははっ!」
澄乃はぞっとする
澄乃モノローグ(嫌――……!)
そこへ統がやってきて、桐子が澄乃を掴んでいる方の手の手首を掴み、ひねり挙げる
統「離せ」
澄乃モノローグ(!! 統さま……!)
統「貴様 澄乃をどうするつもりだ」
桐子「……っ」
桐子は驚いて目を見開き、統を見る
統は氷のような冷たい目線で桐子を見る
桐子は統の手を振り払うと言う
桐子「なんなのよ! あなた! 私はお義姉さまを 家族を 連れて帰ってるだけよ! 邪魔しないで……って」
桐子は統がイケメンであることに気がつく
桐子「あなたずいぶんイケメンね その服 黒衛でしょう? 私は巳檮原神社の巫女! 神祇巫庁に行くからご一緒しない?」
巳檮原神社と聞いたとき、統がピクと反応する
統「……澄乃 こいつがお前の家族か?」
澄乃「は はい……」
澄乃モノローグ(統さま……?)
統「そうか……」
統は目線を桐子にむけたまま、澄乃を抱き寄せる
統「澄乃は俺 鷹ノ宮統の妻だ 巳檮原には帰ることはない」
澄乃はちょっとときめく
桐子「……は? お義姉さまが結婚? 何言って…… 鷹ノ宮……? って鷹ノ宮!? は はぁ!? なんでそんな名家がお義姉さまを!? ありえない! 一体どんな汚い手を使ったのよ!」
統「うるさい 黙れ」
統はヒュとお札を放つ それは一枚は桐子の口を塞いだ 一枚は足を地面にはりつけた
桐子「おね……ぐっ!? ~~~~っ」
統「一時間ほどで取れる 」
統は澄乃の手を引いて歩き出す
統「行くぞ」
澄乃は統についていく
桐子は去って行く澄乃をその場で睨みつけている

○桐子から少し離れた道
統「すまなかった 俺が離れたばかりに」
澄乃「いえ 来て下さってありがとうございました」
澄乃「あの いただいた髪飾り 壊れてしまいました すみません……」
統「また買えばいい」
澄乃「えっ」
統「欲しいものはなんでも買え 惜しまなくていい 何か欲しいものはあるか?」
澄乃「えっと…… 特には……」
思い出し澄乃実母「澄乃」
母と裁縫をした日の思い出
澄乃モノローグ(あ……)
澄乃「では――……」

○後日・統邸
澄乃「こ これは……」
どさどさと荷物がやってくる
部屋に運び込まれたそれは、裁縫道具・ちりめん生地・白檀(粉)・丁子(粉)・龍脳(小片)→匂い袋の材料

統が後ろからやってくる
統「届いたか」
澄乃「あのっ これは……」
回想澄乃「では裁縫道具を……」
回想統「わかった」
澄乃モノローグ(なのにどうして高級な香料まで!?)
統「なんだ 気に入らなかったか」
澄乃「いえ……っ」
澄乃モノローグ(恐れ多いだけです……!)
統「そういうの 好きかと思って」
統は目線を澄乃から外して、小さめの声で言う
澄乃モノローグ(え――……?)
統は去る
澄乃は去って行く統を見る

○黒衛本庁
雅人と菜野花が話している
雅人「いやぁ~統の嫁さんかわいかったな~」
菜野花「澄乃ちゃんよね! 私知ってます!」
そこへ()(つき)()()(巫女・名家巫女十二家・美女)がやってくる
緋女「そのお話、詳しく聞かせてくださる?」