○ミズチの洞穴
統「俺と結婚しろ 一緒に来い」
澄乃モノローグ(一体どうしてこんなことに――……?)
澄乃「あ あの…… なにがなにやらなのですが……」
統「ん? ああ―― 俺は『黒衛』の任務で来た」
モノローグ 『悪鬼討伐特務機関 通称『黒衛』退魔師たちを集めた国軍だ…… 私でも知ってる』
統「あんな悪鬼を神と間違えてそのまま祀ってるとはな 神主の目は節穴だろう」
モノローグ『確か鷹ノ宮家は退魔師の名家で…… でも そんな彼が どうして――……』
澄乃は戸惑いの表情 統は冷静な表情
統は澄乃の体にあるミズチに締め付けられた後の痣を見る
統「お前 それ……」
澄乃「え?」
統は澄乃を抱きかかえる
澄乃「きゃあっ!?」
澄乃モノローグ(なに!?)
澄乃赤面
統「霊障になったらいけない 行くぞ」
澄乃モノローグ(なに!?)
澄乃「ど どこへ……」
統「暴れるな 落とすぞ」
統歩き出す
ふたりは洞穴を出る 日の光が差し、澄乃は目を細める
澄乃は日に照らされた統の顔を見る
澄乃モノローグ(わからない どうして 彼は――)
澄乃からだが痛む ズキッ
澄乃「……っ」
統「!」
統走り出す
統「澄乃……!」
澄乃モノローグ(私のことをご存じなの?)
澄乃は気を失う
○朝・鷹ノ宮家(日本家屋)・客室
翌日になっている
澄乃が目を覚ますと知らない屋敷にいる
布団から体を起こす
澄乃「ここは……」
手を見るといくつかの擦り傷の包帯が巻かれている※実際には手以外にも包帯は巻かれている 服は寝衣に着替えさせられている
澄乃モノローグ(治療されてる……いつの間に……)
襖があく
小さな声「失礼いたします」
澄乃「はい」
絹江「! あら お返事だわ」
襖が開く 女中の絹江が入ってくる歳は60代
絹江「おはようございます 澄乃さま 私はここの使用人 絹江でございます 大変でしたね さぁさお水でございます すぐに朝食もご用意いたします」
澄乃「あ あの…… ここはどちらなんでしょうか……?」
絹江はきょとんとした後、慌てる
絹江「若さまってば無断連れ込み!? 誘拐!? 事件!?」
澄乃「いや……あの……」
絹江「ありえますわ……っ」
澄乃モノローグ(勝手に話が……っ腑に落ちていらっしゃる……)
絹江「こほん。こちら鷹ノ宮統さまのお屋敷でございます」
澄乃モノローグ(え……)
澄乃「統さまの……?」
澄乃モノローグ(あれから記憶がないけれど 統さまが運んでくださったのね 一体どうして……)
はっとする澄乃
思い出し昨日統「俺と結婚しろ」
澄乃赤面
澄乃モノローグ(なんでかそういう話だった……!)
澄乃焦り
澄乃「お……思い出しました」
絹江はほっとする
絹江「良かったです 事件かと(小声) ではお支度を調えましょう 若さまがお待ちですよ」
○鷹ノ宮家・統の書斎(和室)
澄乃「失礼します」
澄乃は統の書斎へ入室 不安げな顔 澄乃の着物や髪型は整えられている
室内の奥に机があり、着物姿(家着)の統が文机にむかっている
統は机で書類仕事をしていたが、澄乃に気がつき、手を止めて振りかえる
統「ああ お前か」
統の着物姿のビジュアルが良いので、澄乃はドキ……っとする
澄乃モノローグ(着物……)
澄乃「あの……助けてくださってありがとうございました」
統「ああ 医者が言うには 霊障にはならないだろうと言うことだ 運が良かったな」
澄乃「霊障……ですか?」
澄乃モノローグ(怪我じゃなくて?)
統「お前 水無月家なのに知らないのか?」
澄乃「す すみません」
統「はぁ 座れ」
指示された座布団へ座る
統「霊障とは悪鬼の呪いだ。やつらの瘴気で人体に苦痛が残る。一度掛かると死ぬまで呪いとして残る」
澄乃モノローグ(霊障――……そういうのがあるんだ……)
統「お前には霊障になりかねないあの悪鬼の締め付けの跡があったが すぐ薄くなりはじめたから大丈夫だろう」
澄乃は腕を見る ミズチに締められたことを思い出し、ぞっとする。
澄乃モノローグ(ミズチさまの跡……)
澄乃「……あの 統さまがお医者さまを呼んでくださったのですか?」
統「? そうだ」
澄乃「跡がすぐ治りはじめたのにですか?」
統「当たりまえだ」
澄乃「……嬉しいです」
澄乃「私 人より怪我が治りやすくて お医者さまを呼んでもらったことがなくて……だから嬉しいです」
統「……」
統「霊障には治療の手立てがある お前 水無月家の巫女だろう 巫女歌は歌えるか?」
澄乃「え……」
澄乃(巫女歌――)
回想澄乃実母「澄乃 必ず覚えていて 水無月家の巫女歌を――……」
澄乃「……はい た多少は…… でも幼い頃練習したきりなので」
統「なら決まりだ」
澄乃「え?」
統「少しは出来るんだろ では構わない お前を嫁にする」
澄乃「えっ!? す 統さまそれは……」
澄乃モノローグ(どうしてそうなるの!?)
澄乃モノローグ(私が母から習ったのは十一年も前だし)
澄乃「せ 正式なものが歌えるかもわかりませんし なぜ初対面の私を……」
統「お前……」
統は少し目を見開いたような顔をする。
その時、
統「! ぐっ……!」
統が苦しみ出す
澄乃立ち上がる
澄乃モノローグ(えっ!?)
澄乃「す 統さま!? 統さま……!」
統は息苦しそうに呼吸をしている 澄乃は統のそばにいき、背をさするが、統は頭を押さえて背を丸める
澄乃モノローグ(顔色が悪い……)
澄乃「どうされたんですか!? 今、人を呼んできます……」
澄乃が立ち去ろうとすると、その手がぱしっとつかまれる。
澄乃「えっ」
統「行くな……歌……を」
澄乃モノローグ(歌――……)
澄乃は統のセリフを思い出す「霊障は悪鬼の呪いだ――お前、巫女歌は歌えるか?」
澄乃モノローグ(まさかこれが……霊障!? どうしよう 統さま苦しそう)
澄乃の心臓はドキンドキンと大きな音を立てる
澄乃モノローグ(私の歌にそんな力が? そんなの知らない でも)
澄乃は苦しむ統を見る
澄乃モノローグ(でも もし本当なら)
ミズチを切って助けてくれた統を思い出す。見上げた彼には後光が差しているように澄乃には見えた。
澄乃モノローグ(私に 統さまを 助けられるのなら――)
澄乃は歌う すると体がポウ……と少し発光し、光で統を包む
統の苦しみがひいていく 澄乃の傷も薄くなる
統「……はぁっ 驚いた」
統は霊障が治まったことに驚く※統は霊障に効くとは知っているが、実際に効果があったことに驚いている
統「本当に効くのか」
澄乃「統さま……!」
澄乃は小さく笑う ほっとして少し泣きそうになる
澄乃「よかったです……っ」
統「……」
統は顔を動かし澄乃の顔を見るが、すぐに顔を正面に戻す
少し落ち着いてから口を開く
統「古い文献の通り、水無月家の巫女歌は霊障に効くらしい。澄乃。これは契約結婚だ。必要なんだ、お前が――。お前をあの家から保護する代わりに 俺の霊障を治せ」
澄乃モノローグ(え……)
澄乃モノローグ(私と統さまが 契約結婚――?)
澄乃「……。……。……。む 無理です! できません 私……」
統「……どういうことだ」
澄乃「歌うことはできます! ただ……け 結婚というのは……恐れ多くて……」
統「お前は俺に未婚の女を囲えと?」
澄乃「……(焦り)」
統「では一年だけでも構わない」
澄乃「!」
統「一年で治ると聞いているからな」
澄乃「す 統さま……」
統「水無月澄乃 お前の水無月家に代々伝わる巫女歌が必要だ」
澄乃モノローグ(これは 私の血筋だけを見た契約結婚 愛なんてない だけど)
統「お前を救ってやるから 俺を救え」
澄乃「……わかりました。お受けします」
澄乃モノローグ(あの時 私が救われたのは 本当だから)
気弱なりに前向きに決意し、自分で選択する
○夜・統書斎
統はひとりで部屋にいる 部屋は暗く、明かりをつけていない
引き出しから小さな匂い袋を取り出し、指でつまむ
後ろには窓があり、月の光で匂い袋が照らされている。
その場で過去を思い出す
澄乃の実家神社/七歳の澄乃の笑顔/七歳の澄乃は上を見上げ、その顔に影が落ちる
七歳澄乃「あ……」
十歳統は手を延ばす
十歳統「澄乃!!」
思い出しおわり
暗い部屋で、統は匂い袋を置く
統「覚えてないなら 別にいい」

