○契約結婚を持ちかけるシーン(2話)の一部/鷹ノ宮家 統の屋敷 応接間
(すばる)(すみ)()に話す。
統「これは契約結婚だ。必要なんだ、お前が――」

○説明
モノローグ『()(まと)(もり)(こく)。この国には古くから悪鬼が湧き、人間に害をなしていた。それに対抗したのが国の命で集められた退魔師たち――悪鬼討伐特務機関 通称[(こく)(えい)] そして 悪鬼を押さえ込む力を持つ神を祀る神社は、高い地位を持っていた』

○朝・()(ゆす)(はら)神社
モノローグ『()(ゆす)(はら)(むら)
山間にかこまれた村。村の規模に見合わないくらい大きい神社がある。
神社には、狛犬部分が蛇になっている像がある。
季節は六月で、庭木が雨上がりで濡れている。
神社裏手の井戸の側で、澄乃が木桶で白い器をちゃぷちゃぷと洗っている。そばには似たような白い器がいくつもある。手はあかぎれ。
澄乃はひとりで洗いながら、小声で歌を歌っている。あかぎれは消える。
ザッ 澄乃のうしろから(きり)()登場。
桐子「あらー? まだ神具を洗うの終わってないのー? ほんっとお()()さまって、のろまねぇ」
澄乃「桐子……」
澄乃は不安げな表情を浮かべる。
桐子「くす」
澄乃「も もう終わります…… 今拭き上げを……」
澄乃は急いで洗った皿をタオルで拭く。
桐子が、そのうちのひとつをヒョイと奪う。
澄乃「えっ」
桐子「お義姉さまが遅いせいで、ミズチさまの機嫌を損ねたらどうするのー?」
澄乃「な、なにを……」
桐子「そぉれっ!!」
澄乃「きゃっ!?」
桐子は皿を澄乃に投げ付ける。皿は澄乃にぶつかり、パキンと音を立てて割れた。
桐子「あーあ。割れちゃった。神具なのに。お義姉さまがちゃんと受け取らないからよー。くすくす」
モノローグ『桐子は巳檮原神社の跡取り娘だ
私は元々、父と母と別の神社で暮らしていた
でも、私が八歳の時にふたりとも他界し、
父の知り合いだったこの神社に引き取られた』
桐子「今日ねぇ、祝詞を間違えちゃって。お父さまに怒られたのよー」
言いながら、桐子は澄乃を平手打ちする。八つ当たりで殴っている。
澄乃「う……」
桐子「全然反応しないじゃない。つまんないのー」
桐子は頬を膨らませる。
モノローグ『養子となった私にとって 桐子は一つ下の義妹だけど 本当は誰も私を家族だなんて思ってない』
先ほどの割れた食器で、澄乃の首筋から血が流れる。
それを見た桐子は笑って言う。
桐子「やだ、血が出てる。でもちょうどよかったじゃない。あんたの()()()()は喜ぶかもよ♪」
モノローグ『それが私の日常だ』

○朝・ミズチの社
神社裏手の山を少しのぼると、大きな洞穴がある。その中に社がある。この社は祠と言うには大きいが、人が入るものではない。澄乃は社に飾ってあった神器を、持ってきた新しいものと取り替える。持ってきた食べ物を供える。
モノローグ『神社の裏山には土地神ミズチさまの祠があって、私は毎日ここへ来るように言われている』
洞穴の奥からミズチ登場。体長二メートルほどの巨大な白蛇。禍々しい空気を放っている。
ミズチ「澄乃 来たか」
その声を聞いて澄乃はびくっとする。振り返る。
ミズチ「さぁ こちらへ」
澄乃「あ あの」
ミズチ「大丈夫 いつものだ」
ミズチは澄乃の体に巻き付く。澄乃は震える。ミズチは、がばっと大きな口をあける。ミズチは澄乃の首筋(傷口)を噛む。
ミズチ「ワシの花嫁」
澄乃「ぐ……っ あ……っ」
ミズチは首筋の傷口に牙を立て、吸血をする。澄乃は苦痛。
モノローグ『私は神に捧げられた生贄 桐子を捧げないために そのためだけに引き取られた』
吸血おわり。
ミズチ「今日もご苦労 よい霊力だ」
澄乃「はぁっ……はぁっ……」
澄乃モノローグ(本当は嫌だけど 枷は日に日に濃くなっていく)
澄乃の足首に黒い輪のような模様がある。じわ……と黒い煙がにじみでている。これはミズチのマーキング。
ミズチ「ああ お前が嫁入りする日が楽しみだ 早く蛇の子を産んでおくれ」
ぞっ 澄乃青ざめる。
ミズチ「――でないと 村中の女子どもを食ってしまうかもなぁ」
澄乃「!! どうかお慈悲を……っ」
ミズチ「ははは 冗談だよ」
澄乃「……っ」
澄乃は取り繕った表情を浮かべる。
澄乃「だ 大丈夫です ちゃんと嫁入りします 私……」
モノローグ『私は二十歳の誕生日に ミズチ様の嫁となる この痣がある限り、私は逃げられない――……』
その様子を少し離れた位置でうかがう男性(統)
統「あれは……」
統は岩陰に隠れている。※元々ミズチを探しにやってきており、澄乃のことはたまたま見た。

○昼・巳檮原神社
澄乃は神社に戻り床掃除をしている。
澄乃は小さく口を開けて歌う。すると、スゥと首筋の傷跡が消える。
義父・義母登場。ふたりは立ったまま澄乃を見下ろす。
義父「澄乃」
澄乃「お義父さま お義母様……」
澄乃モノローグ(なんだろう……)
義父「実はな。先ほどミズチさまが社までこられて、祝言を早めたいとおっしゃっている」
澄乃モノローグ(え……)
義父「本来は二十歳の誕生日の予定だったが、――明日になった」
澄乃はショックを受ける。

○夜・離れ(自室)
境内に自宅が建っている。澄乃は本家とは別の離れに住まわされている。離れはボロい小屋。
澄乃は横になっている。
澄乃モノローグ(どうしようもない あの頃からきまっていた事だ)

○幼少期(澄乃八歳)巳檮原神社へ澄乃がやってきた日の回想
元気のない澄乃。火事で大好きな両親を亡くしたばかりで、また自分も火傷のあとがあり、弱々しい。
澄乃「水無月澄乃です 今日からよろしくお願いします……」
義父「よくきたな 澄乃。こっちへ来てくれるか?」
澄乃「? はい」
言われた方へ行くと、澄乃は義父の手で地面の穴につき落とされる。
澄乃「えっ」
ぎょっとするが、穴に落ちる。
澄乃モノローグ(穴に落とされた!?)
地面に腕をついて、上を見上げる。地上には義父と桐子の顔が見える。澄乃の腕に、なにかがさわっと触れる。
澄乃「ひっ!?」
澄乃モノローグ(これって)
見ると、穴の中には蛇(※普通のやつ)がたくさんいた。ニョロニョロ。
澄乃「いやぁぁああぁっ」
桐子「あっはははは! きもちわるーい!」
義父「ミズチさまに捧げる前に、匂いをなじませておかないとな」
義父はさも当然という顔で満足げ。桐子は愉快そうな顔。

○そのまま過去回想2へ(澄乃八歳)/夜・村の道 
※時系列的には蛇穴一~二日後くらいだが、翌日と表記しない
夜、澄乃は走って村から出ようとする。 
澄乃「はぁっはぁっ」
澄乃モノローグ(逃げなきゃ……!)
だんだん村が遠くなっていく。
澄乃モノローグ(もう少しで村はずれだ! もうすぐ! もうすぐ!)
村はずれに来ると、ぐんと足首が引っ張られる感覚があり、体が前に動かせない。ガクン。
澄乃モノローグ(なに!? 進めない)
澄乃「!! なに……これ……」
足を見ると、黒い鎖のようなものが村に向かって伸びている。神社と自分をつなぎ止める呪いの鎖。
澄乃の顔は絶望。逃げられないことを悟る。
回想終わり。

○現在・翌朝・巳檮原神社
婚礼用に巫女服を着飾った澄乃。儀式用の服。表情は暗い。
家族は笑顔で見る。
桐子「あら! 素敵な花嫁だこと!」
義母「これで村は安泰だわ」
義父「本来儀式は夜だが――ミズチさまがお前をお呼びだ 早く向かえ」
桐子「私はいかないわよ? だってバケモノとの初夜を見る趣味なんてないし! あはっ! 傑作ぅ!」
澄乃モノローグ(私の人生って なんだったんだろう 私のなりたかった巫女って こんなんだったっけ)
澄乃は両親のことを思い出す
母親「いい? 澄乃。よく聞いてね」
澄乃「お母さま」
母親「退魔師さまをお支えする 水無月家の巫女の歌よ」
母親・巫女姿が澄乃を膝の上にのせて、歌を歌う。隣には宮司の父の姿。あたたかな幻想描写。
澄乃モノローグ(もどりたい あの頃に でも もうもどらない――……)

○昼・ミズチの祠
洞穴からミズチ登場。澄乃に近寄る。
ミズチ「澄乃。来たか」
澄乃「はい ミズチさま」
ミズチ「ああ…… ワシはもう待てない 祝言を挙げよう」
澄乃はびくっとする。
澄乃モノローグ(だめよ 澄乃 怯えちゃだめ ミズチさまは土地神さま 私はみんなの役に立つんだ)
頑張ろうと思ったが、やはり怖くなり、
澄乃モノローグ(そう思っているのに……)
ミズチの尾が澄乃に絡み、引き寄せる。
澄乃に巻き付いたミズチは、澄乃の体を這い上がり、巻き付く。ぎしっ。
ミズチ「お前はワシの子を成した後――美味しく食うてやるからな」
澄乃「え……」
澄乃はミズチを見上げる。
ミズチ「ん? 生き続けられると思っていたのか? そんなわけないだろう」
ミズチは大笑いをする
ミズチ「巫女は美味い! ワシはお前の霊力を取り込んで 力を得るのだ!」
澄乃「ま 待ってください! 私、死ぬなんて……聞いてません!」
澄乃は体に巻き付いたミズチをはがそうとするが、はがれない
ミズチ「まあ言っておらんが。生贄とはそういうものだろう? 花嫁ときいて、子を成すだけだと思ったのか? すぐには殺さぬ たっぷりかわいがってやったあとだ」
ギチギチと締め付けが強くなる。澄乃は苦悶の表情。
澄乃「あぁ……っ」
ミズチ「夜までこうしてじわじわと準備していくからな」
澄乃「い……嫌……」
ミズチは首元に噛みつこうとする。
澄乃モノローグ(誰か助けて!!)
(すばる)「破!」
その時、ミズチの頭にお札が飛んでくる。
ミズチ「ぐわぁぁああっ!?」
ミズチ吹き飛び、澄乃から離れ、ドンと岩壁に打ち付けられる。反動で澄乃も尻餅をつく。
澄乃「きゃあっ」
澄乃モノローグ(!? なに!?)
足首付近に刀が振り下ろされ、足すれすれを刃が通ったので、澄乃は驚く。統の刀で足枷が切られる。
統「離れていろ 邪魔だ」
澄乃モノローグ(誰!?)
統はミズチに向かって行き、刀でミズチを切る。傷をつける。
ミズチ「なんだお前……! 神を切るとは この不届き者!」
統「はっ(嘲笑)」
ミズチの尾に近い部分を切る。
ミズチ「なっ――」
地面に倒れたミズチに、統の放ったお札が貼り付く。ジュウウウウと煙が出る。
ミズチ「ぐわぁあっ」
統「お前、悪鬼だろう」
ミズチ「はぁ……はぁ…… どうしてわかった? 小僧」
ミズチは統をにらむ
澄乃モノローグ(え……)
ミズチ「ここは良い潜伏先だった 本来の土地神を食うてワシは力を得た」
統「そのまま成り代わったというわけか 神のふりをして祀られて いい身分だな」
澄乃モノローグ(なにを……言ってるの……? ミズチさまが 神さまじゃなかった……?)
ミズチ「巫女を得るまでもう少しなのだ! 邪魔をするな!」
ミズチが統に向かって突撃する。
統の放ったお札がミズチの全身にまとわりつく。ミズチは足を止める。
ミズチ「ぐぅっ!? な、なんだこの力は……」
お札から再び煙が出て、ミズチは苦しむ。
統は刀でミズチを頭から縦に切る。ザン! 
ミズチ消滅。
統「たわいもない」
統は刀を仕舞う。
澄乃モノローグ(すごい……)
統は立ったまま澄乃を見る。淡泊な表情。
統「まだいたのか」
澄乃「助けてくださってありがとうございました あの あなたは……」
統「俺は(たか)()(みや)(すばる) 悪鬼討伐特務機関 『黒衛』の退魔師だ」
澄乃「鷹ノ宮、統さま……」
澄乃モノローグ(聞いたことがある 鷹ノ宮は退魔師の名家だ)
澄乃が座ったまま統のかっこいい顔を見上げていると、統は澄乃に近付いてくる。そして澄乃の顎をクイとつかむと、睨むように顔を確認する。じいと見られて、澄乃はドキドキ半分不安半分でいる。
統「お前、名前は?」
澄乃「み 水無月澄乃です」
統「……そうか ちょうど良かった」
統の手は顎からはずれ、澄乃の髪を掬う。
統は真顔で言う。
統「俺と結婚しろ 一緒に来い」
澄乃「はい……?」
澄乃は困惑の表情。嬉しいとかじゃなくて、初対面なのに何事?と思っている。