藍の祖父母の家は、一階に居間と祖父母の部屋と台所、それに風呂・トイレがあり、階段を上がってすぐの八畳の部屋を藍が占領している。階段が狭いので、セミダブルのベッドは、祖父が運送会社に無理言って窓から運びこんでもらった。
 藍の部屋の先には六畳の和室。一応来客用だが、藍の記憶ではその部屋に誰かが泊まったことはなく、祖父が本を読んだり昼寝をするのに使っていた。

「ここだけど、いい?」
「おぅ! 一部屋まるまる使っちゃってええんの? 居間でゴロ寝でもかまへんのに」
「いや、そっちの方がお互い気を遣(つか)うでしょ。この通り何にもないけどね」

 メモリーは案内された部屋に入り、体ごとぐるりと見まわす。畳(たたみ)の上に置いてあるのは円卓と座布団と背の低い本棚ぐらいだ。
 藍は押し入れを開け、ビニール袋の中で圧縮されている来客用の布団をチェックする。袋のツマミを回し、空気を入れると、布団のセットは元の形状に復元された。カビや湿気もなく、なんとか使えそうだ。

「やー、ほんま贅沢(ぜいたく)やわ……せや、家賃払わんと」
「そんなのいいよ、部屋空いてたんだし」
「いや、光熱費とかかかるやろ?」
「……じゃあ、一日三百円でどう?」
「そんなんでええの?」
「その代わり、家事、できることあったら手伝って」
「もちろん!」

 交渉が成立して、藍は一旦部屋を出ようとしたが、メモリーが公園でダンスをして少し汗ばんでいたことを思い出した。
「お風呂なんだけど、この家、湯舟が小さくてガスで沸かすやつなの。面倒だから、シャワーで済ませてもらってもいい?」
「別にかまへんけど……アイはいつもどうしてんの?」
「そうね、普段シャワーで、三日に一回くらい銭湯かな」
 銭湯の大きな湯舟にのんびり浸かるのは、彼女の数少ない楽しみだった。
「おぅ、銭湯か! ええね……て言うてもボク、実は銭湯って行ったことないんや。そうそう、これから一緒に行かへん? 近いの?」
「えーっと、歩いて三分くらいね。じゃあ、お風呂行ってコンビニで夕ご飯買って帰ろうか」
「賛成!」
 バスタオルとハンドタオルは持っているとのことなので、ボディソープやシャンプーとトリートメントは共用し、使っていないビニールバッグを渡した。パジャマ兼用の上下のスエットは、藍が何着か持っているものの中から貸した。


 ひらり。

 桜の花びらがどこからともなく舞っている。春先の夜の空気はまだ肌寒い。  
 この時間、車も人もあまり通らない道を二人、背を丸めながら歩く。
 藍は、この道を祖母に手を引かれて銭湯に通ったことを思い出し、胸の奥がちくっと痛んだ。

「おぅ、あれか!」
 開運坂下(かいうんざかした)と書かれた信号にさしかかったとき、メモリーは瓦(かわら)屋根の立派な構えの銭湯を指さし、叫んだ。入り口の紺地の暖簾(のれん)には『月見の湯』と描かれている。どうやら彼女は感動すると『おぅ』という感嘆詞を発するようだ。

 藍がもう一つ気づいたこと。
 メモリーは立っていても歩いていても、常に体のどこかでリズムをとっている。首を前後に動かしたり肩を上げ下げしたり、かかとを左右にずらしたりと。そして嬉しいときは、その動きが増幅する。今がまさにそうだ。
 ダンスをやっている子はみんなこうなんだろうか。転校前の三ノ谷高にもダンス部があったが、そこの子たちが普段どうしていたか、藍は覚えていない。

 〇

「おぅ、ふっるーい建物なのに、中は明るくてきれいやわあ!」
 脱衣場のドアをガラリと開けて、銭湯初体験のメモリーの第一声。

「迫力あるなあ。やっぱ銭湯は富士山かあ……イメージとはちごうたけど」
「なんか別の絵を期待してた?」
 遅れて浴場に現れた藍が不思議そうに聞く。
「だってここ、『月見の湯』やろ? ススキの広い野原をバックに、お月様が浮かんでるっていうのをイメージせえへん?」
「……すごい想像力ね」
「せやろ!」
 メモリーはニッコリと笑う。
 確かにお月様も風情がありそうだなと藍も想像してみる。 

 二人は風呂椅子とケロリンの桶の山から、めいめい一セットずつ洗い場に持っていき、腰かける。
「こらええわ! 洗い場にもシャワーもついてるし、鏡はまあるくて可愛いし」
 ご機嫌な様子でシャワーのお湯を顔に受けるその子に、藍はボディーソープとシャンプーを手渡す。
 それから。その後のメモリーの動作をじっと観察した。細かく編み込んだ髪をどうやって洗うのか、藍は見てみたかったのだ。
 髪をシャワーで濡らした後、泡タイプのボディソープをピンポン玉くらい手に載せる。それにシャンプーを注いで両手でさらに泡立て、編み込み部分に撫でつけて塗っていく。一通り塗り終わると丁寧(ていねい)に指の腹でマッサージを始めた。

 藍は自分の体を洗いながらも、隣の子がボディソープ+シャンプーをすすぎ終わるまでの一連の動作をチラチラ眺めていた。
「髪、そうやって洗うもんなんだ」
 メモリーが顔を上げたタイミングで聞いてみる。
「うーん、ボクはいつもこうやってるけど、みんなどうしてたっけかな。とにかくシャンプーは泡立てないと。髪に馴染(なじ)まないし、流してもよく落ちひん……泡のシャンプーを使こてる子もいたかな」

 泊めてくれるお礼に背中を流すよと言われたが、藍は丁重(ていちょう)に断った。

 二人同時に湯舟に入る。
「うぁっちい!」
「ごめんごめん、言っとけばよかった。ここのお湯、よそより熱くてちょっと有名なんだ」
「ああ、あれ? 『江戸っ子だってね?』ってやつ」
「なにそれ?」
「そんなん、なかったっけ?」
 藍には江戸っ子と熱い風呂の関係がよくわからなかった。

 熱さに慣れ、メモリーもやや深めの湯舟にどっぷりと浸かる。底から泡が吹き出しており、お尻が少しくすぐったいと笑った。

 じっと黙って湯舟に並んでいるのどうかと思い、藍は話題を探す。
「公園でやってたダンス、あれかっこよかったね」
「え、ダンス?……えーっとあれはアイソだよ。準備運動みたいなもん」
「アイソ?」
「せや、アイソレーション。体のパーツごとに分けて動かす練習」
「そうか、そういえば、頭、肩、胸、腰、膝って順番に動かしてたみたい」
「おぅ! ようわかったね! ダンスの基礎は、体のパーツパーツをバラバラに動かせるようになることなんやで」
「へえ、そうなんだ……なんか体全体でまとまりがあったほうが良さそうな気がするけど」
「バラバラだから、まとまりができる」
「……なんか難しいね」
「いや、ボクはあまり深(ふこ)う考えないで、とにかく体に覚え込ませるんやわ。だから時間があるとアイソをするんよ……こうやってね」
 メモリーは湯舟の中でバシャっと立ち上がり、いきなり頭を動かし初めた。太ももから上は、裸のままお湯から露出している。
「ちよっ、ちょっとわかった……それはお風呂上がってからやろう」
 ダンスの子は再び湯の中にしゃがみ、二人並んで底から湧く泡にくすぐられた。

 朝、初めてメモリーと出会った。その日の夜にこうやって一緒にお風呂に入っている。あまり人づきあいが得意でない藍。スッと彼女を受け容れた自分に驚く。性格は正反対そうだし……だいたい自分はダンスはしない。でも不思議と一緒にいるのが苦痛じゃない。
 そういえば……
 藍は自分の中にいる四人のことが気になっていた。みんなはこの子のこと、気に入ってくれるだろうか。

 藍の肩がチョンチョンとつつかれる。
 湯気の向こうに桔梗(ききょう)色の髪の子のシルエット。
「ふうー、さすがにのぼせたわ。髪を乾かすのも時間かかるしさ、先にあがっとくわ」
 そう言ってメモリーは立ち上がり、湯舟のステップに足をかけ、タオルでどこも隠そうとせず、堂々と洗い場に向かう。
 ピンク色に上気した背中・お尻・そしてスラッと伸びた脚(あし)の三点セットに見惚れる。やはり体を動かしている子のプロポーションは違うなと藍は羨(うらや)ましく思えた。

 彼女に遅れること五分。藍もいい加減にのぼせてきたので湯舟から上がり、洗い場でぬるめのお湯を体にかけ、体を拭いて脱衣所に戻る。そこにメモリーの姿はない。何となく不安になる。下着をつけ、備えつけのドライヤーに十円玉を入れて髪をさっと乾かす。

 スエットを着て荷物をまとめ、脱衣所を出る。そこは男女兼用の休憩スペースになっていて、壁には部屋の大きさの割にはデカすぎるテレビモニターが備えつけられ、画面ではグルメレポーターが丼物をほおばっていた。
 番台のお婆ちゃんはそれに見入り、禿げ頭がぴかぴかのお爺さんは入り口近くの椅子に腰かけて新聞を読んでいる。

 藍の目の前にニュッと両手が差し出された。
 メモリーの右手にはイチゴ牛乳、左手にフルーツ牛乳。どちらもミニ・ペットボトル入りだ。

「なに? おごってくれるの?」
 藍は少しホッとしながら尋ねる。
「ウン。宿無しのボクを拾って、しかも初めて銭湯に入れてくれた記念とお礼に」
「あら、ずいぶん安くあげたわね……でもまあゴチ!」
 そう言って藍はイチゴ味の方を選び、ソファに座ってキャップを開ける。

 コクリ。
 ノボセ気味、脱水気味の体に染みこむ、潤う。

 心地よいけだるさが藍の体を包む。メモリーも今はリズムをとるのを止めて、だらっとソファに沈んでいる。せっかくだから、今日から――いつまでになるかわからないけど――同じ屋根の下で暮らす相手に聞いておけることは聞いておこう。
「ねえ、メモリーって、どこ出身なの? 言葉はなんとなく京都弁っぽいけど」
 フルーツ牛乳が半分ほど残っているミニボトルを眺め、メモリーは何やら考えている。やがて口を開く。
「うーん、関西方面ってのは、だいたいあってるよ。どこかは謎でもええんやない?」
「ごめん、あまり話したくなかった?」
「いや、少しはミステリアスな女の方がええかな思うて」
 そう言って、いたずらっぽく笑う。
 いや、充分謎だらけだと藍は思う。それを少しでも減らしておきたかったんだけど。細かく編み込みんだ髪をどう洗うかみたいに。
 まあ、あせらずにいこうと藍は思い直す。

 けだるさが眠気に変わり、彼女の意識は遠のいていった。

 〇

「?」

 グルメ番組レポーターの『うっま!』という大げさなリアクションで藍は目を醒ました。
 どのくらいウトウトとしていたんだろう?
 ソファの隣では、メモリーが少し身を乗り出し藍を見つめている。

「あ、ごめんごめん、ついウトウトしちゃった……どのくらいこうしてたかな?」
「いや、今までボクとずっと喋(しゃべ)ってたやないの?」
「……そうなの?」
「そうなの? って、変なこと聞くなあ……でも、ちょっと不思議やったわ」
「不思議って……まさか」
「なんかアイやなくて別の子と話してるみたいやったわ」
「どんな話したの……してたっけ?」
「話っていうか、ボクにいろいろ聞いてたやない?」
「出身地とか?」
「いや、もっと手前の話」
「手前?」
「君だれ? とか」
「……他には?」
「何でぼくたちココにいるの、とか」
「ぼく? ……他には?」
「アイとはどういう関係? とか」
「……それで、メモリーはなんて答えたの?」
「え? クラスメイトに決まってるやないって言ったんだけど……覚えてへん?」
「他には?」
「ちょっと心配になったんで、ボクを泊めてくれはるんやろ? って確かめた」
「で、何て?」
「なんかギョッとしてた」
「……そう」
「ねえ、……一応聞いとくけど、泊めてくれるん?」
「も、もちろんよ」

 油断していた。ウトウトしたときに多分、拓と入れ替わったようだ。またいつ入れ替わりが起きるかわからない。
 メモリーのことをあれこれ詮索するよりも、今のうちに自分のことをちゃんと話しておいた方がいいと藍は覚悟を決めた。

「あのね、メモリー」
「?」
「あなたがどう思うかわかんないけど、私の中に私とは別の人格がいるの」
「なにそれ?」
「で、さっきみたいに、その中の誰かと入れ替わることがあって」
「誰かって、そんなキャラが何人もいてはるの?」
「自分を入れて五人……で、さっきの子はたぶん、タク」
「ご、五人⁉……名前もついとるん?」
「うん、名前も性格も、別々」
「そうなんだ……でも、さっきみたいに入れ替わってる時のこと、アイは覚えてへんのやろ? なんでその子のこと、知っとるの?」
「そうね、その間に起きたことを人に聞いたり。それから、寝ているときに夢に出てきたりもする」
「けったいな話やわ……いつから、そうなったん?」
「私が小一の時に事故で両親が亡くなって、それ以来」
「あ! ごめんやで。よけいなこと聞いてもうた」
「ううん、いいの。それが私一人で暮らしてる理由だし」
「……そうやったん」
「おいおい他の三人も出てくると思うから、驚かないで……やっぱ普通驚くか。ひとり、ちょっときつい子がいるし」
「わかった。心の準備はしとくから……話してくれて、ほんまおおきにな」
「ううん、いずれわかることだし。あの……怖かったりしない?」
「うーん、正直わからない。さっき出てきた『タク』さんだっけ、そんな、とっつきづらくなかったし」
「……そう、つけ加えておくけどね、あの子は自分のこと男の子だと思ってる。だから、自分が表に出てきたとき、女の子の体に違和感あるみたい」

「そらややこしいわ……君も、中の子たちもいろいろ大変やなあ。みんなと仲ようせなあかんわ」
「そう思ってくれるんだ。ありがとう……ちゃんと話しておいてよかった」
「ええのええの、気にせんで……ほんならボクも話しとかならんことがあるんやわ」
「?」

 彼女は空いたミニボトルを見つめ、しばらく間をおく。

「あのな、ボク、レズなんやわ」
「え⁉」

「レズビアン」
「……」

「あ、心配せんでええで。アイには多分そういう気持ちは起きんと思うから」
「……なんでそう思うの?」
「なんか知らんけど、そういうもん」

 藍は、さっき風呂に入っていたときに、メモリーが自分の裸をどんな風に見ていたかを思い出そうとしたが、特に怪しい様子はなかった、ように思う。

 メモリーは笑みを消し、上目遣(づか)いに藍の顔をのぞく。
「あの、こんなボクやけど、君んちに置いてもらっても、ええかな?」

 驚きの告白を受けたが、藍に対しては特別な感情は持たないと言うし、それに彼女は『私たち五人』のよき理解者になってくれるような気がした。
「もちろんよ。そんなことで放っぽり出したら、多分私の中にいるカナに怒られる」
「ほんま? おおきに!」
 急に表情が曇ったり、ぱあっと晴れたり、なんとわかりやすい子なんだろう。藍にはそういう性格がうらやましくもあった。

「ボクはね、オーディション受けてダンスの仕事をもろうて、ダンスの勉強してんねん」
「それはすごいね、で、あすか台学園でも勉強するの?」
「うん、勢(いきお)いで高校辞めて、家を飛び出してきちゃったけど、高卒の資格はとっておこう思うて」
「どうして?」
「ははは、やっぱさ、この世界厳(きび)しいんやわ。いつまで続けられかわからへんし」
 そう言ってメモリーは少し表情を曇らせた。

 銭湯を出ると三軒隣りにあるコンビニで夕ご飯を選ぶ。
 『チキン南蛮&ひじきめし』六百四十五円。どうみても二人分はある弁当と飲み物を割り勘で購入し、分けることにした。

 家に帰ると衣類やタオルを洗濯機に放り込み、洗い終わるとメモリーが二階の狭いベランダに上がって干してくれた。
 その間、藍は食器を取り出し、弁当を温め、夕食を取り分けた。
 居間の二十四インチのテレビでは、東北地方の桜の開花の予測を伝えている。

 食事が終わると、藍は片づいたテーブルの上に鍵を置いた。
「これ、合鍵(あいかぎ)。多分学校に行く以外は別行動でしょ、ないと不便かと思って。あ、私は引きこもってることが多いかもだけど」
 メモリーは真鍮(しんちゅう)色の鍵を手に取り見つめる。
「こんなん借りちゃってええの? 今日会うたばかりやのに」
「そうね、あなた悪い人には見えないし。いい人かどうかはわからないけど」
「あた! でも助かる。ほんまおおきに!」
 銭湯で一緒に湯舟に浸かり、お互いの事情を打ち明けあった。イジメであの学校を去って以来、初めて藍は人のことを信じてもいいかな思えた。

「あと、家の中の物は、冷蔵庫の中も含めて、たいてい自由に使っていいけど……現金はほとんど置いてないし。でもあれよ、男の連れ込みは禁止……あっ、あなたの場合は女?」
「そんなことするかいな!」
 冗談よと藍が笑う。

 歯を磨いたあと、戸締まり確認と消灯をして二人で二階に上がり、おやすみと、めいめいの部屋に入った。

 藍は一旦ベッドに寝転(ねころ)んだ。
 が、思い直し、勉強机に座る。ノートを開き、太字のボールペンを走らせる。

…………
2025年4月3日(月)22時 アイより

今日は晴れてだいぶ暖かかった。桜も見ごろ。気分は、そうね。このあと書くけど、いろんなことがあったから、変な気持ち。あ、でも悪くないよ。

無事、あすか台学園に行ってきた。今日はガイダンスだけ。もし朝起きて自分が表に出てて調子よかったら、時間割を見て教材を揃えて行ってみて。まだ少ししか顔合わせてないけど、みんなおとなしそうだし、なんとか大丈夫かな。

それからですね、同居人ができました! えーと、タクはもう会ったみたいね。どうだった?
名前は『メモリー』っていいます。今日のガイダンスで一緒になった子。苗字とか本名はナゾ。

大丈夫かって? 
多分大丈夫だと思う。思い切って私たちのこと話したけど、なんとなく理解してくれてた。
あ、一応言っとくけどこの子、女の子が好きみたい。でも私は大丈夫だって。だから安心して。でもそれって私が女として見られてないってこと? ちょっと複雑。
メモリーは、テーマパークでダンスのバイトしながらダンスの勉強してて、しかもあすか台で高卒の資格をとりたいんだって。えらいと思うな。

多分だけど、この子なら、ここに一緒にいてもうまくやってけそうな気がする。もし彼女に会ったら感想を聞かせて。
まだ様子を見てからだけど、彼女にこのノートを見せても、書いてもらってもいいかなと思っています。私たち五人のこと早くわかってもらえるし。

じゃあ、今日はいろいろあって疲れたので、もう寝ます。
          おやすみ、藍より
…………


 翌朝、藍が目を覚ますと、誰かがノートを動かした形跡があった。ページをめくると、拓の書き込みがあった。

…………
4月4日(火)深夜2時 タク

アイが書いた通り、ぼくはメモリーとやらに会った。ノートを見て、ああ、そういうことかってやっとわかった。
自分のこと『ボク』って呼んでて――あ、ぼくもか――髪型もちょっと変わってるけど、話してみたら、まあ悪くないかなと思う。
ノートをあの子にも見てもらうのは、みんながよければいいんじゃない?

そんなとこ。
                 拓
…………