進入禁止の彼~好きになったら終わりなのに~

 ――今、僕達はそれぞれの道に向かって一歩を踏み出します。
 ――共に歩いてきた友達に、毎日笑顔で送り出してくれた母に、未熟な僕達を導いてくれた先生方に心から感謝を……。
 壇上から俺はそっと彼を見る。誰にも気付かれないように密やかに、別れを瞳に刻んで。
 いつも通り凪いだ瞳で彼もこちらを見てくれる。その瞳を見たら、涙が出そうになった。
 でも、俺は泣かない。泣かずに前に進む。
 あなたが示してくれた、俺の道を。
 ふうっと息を吸い込み、締めくくろうとした、そのときだった。
 ――上原くーん、高校でも頑張ってくださーい、菊工、上原くんにぴったりだと思いまーす。いろいろと。
 居並ぶ卒業生達の間から声が轟いた。笑いの中に蔑みがびっしりと絡みついた声だった。
 声に促されるように、壇の下から無数の顔がこちらを見る。黒い波みたいに蠢く人の顔、顔、顔。
 あのとき、俺は立ち尽くすことしかできなかった。
 そして今も。
 全部から背中を向けてひとりで閉じこもって。恋なんて当然できるわけなくて。
 なのにそんな俺の中に”あいつ”はずかずかと入ってきた。
 生意気で、意味不明で、口も悪くて。好きになるはずなんて絶対なくて。
 なのに、俺は。