7話 水もしたたるいい男
「ねぇ竹内~、今度、竹内の家に遊びに行かせてよ」
終業のチャイムが鳴り、帰り支度をしているところに、女子が三人近づいてきた。
――うわ、露骨だなぁ。
こうして、俺経由で颯くんに近づこうとする輩がたまにいるのだ。
三人とも、挨拶すらろくに交わしたことのない女子だった。
「ごめん、そういうのはちょっと……」
「そこをなんとかさぁ」
「竹内には、S女の可愛い子紹介するし!」
「ね!」
そもそも彼女なんていらないし。
それに例え彼女が欲しかったとしても、推しを生贄に捧げる気は毛頭ない。
「本当ごめん、無理」
そうきっぱりと言い放つと、女子の顔つきが一変する。
「はぁ? 竹内のくせに生意気すぎん?」
「ホントだよ。颯くんが弟になったからって自分まで人気者気取りしないでよねー」
「ごめんごめん、身長も顔も中学生の竹内にS女はさすがにもったいなかったわ~」
あははははと笑う女子たちが去って行くのを待っていたんだけど。
「――もったいないって、どういう意味ですか?」
と、どすの利いた声が俺の頭上で響いたのと、両肩に重みを感じたのはほぼ同時。
後ろから俺の肩に腕を回した颯くんの一声で、その場が一瞬で凍り付いた。
「颯くん!?」
振り向いた俺の目には、今まで見たことがないくらい冷ややかな颯くんの顔が映る。
――イケメンの怒った顔、こっわ……。
「生意気とか、中坊とか、もったいないとか、尚斗くんのことを馬鹿にしているように聞こえたんですけど、まさかそんなことないですよね?」
「は、颯くん……」
「えっと……これは、違くて……」
「背が低いとか高いとか、見た目がどうとか本っ当にくだらない」
心底嫌悪するように、言葉を吐き捨てる。
「颯くん、俺はなんとも思ってないから」
もういいよ、という意味を込めるも、颯くんはやめない。
「尚斗くんは、人を傷つけない、思いやりの心を持った俺の自慢の兄で大事な家族なんですよ。その尚斗くんを馬鹿にするなんて、誰であっても絶対に許しませんから――」
結局あの場は、女子が俺と颯くんに謝罪してお開きとなった。
気まずさは残れど、悪いのは彼女たちだし、個人的にも仲良くしたいとは思えないからどうでもよかった。
それよりも、俺のせいで颯くんにネガティブなイメージがついてしまわないか心配だ。
まぁ、くだんの女子たちがいなくなった後、クラスメイトたちはこぞって颯くんを「かっこいい!」「よく言った!」と褒め湛えていたので、大丈夫だと思いたい。
――それにしても、颯くんが俺のことをそんな風に思ってくれてたことが嬉しすぎる……。
家族になってまだ数か月しか経ってないのに、自分の立場が危うくなるのも厭わずに俺を庇ってくれるなんて。
中身までイケメンなんだから、ずるい。
さすが俺の推し。
そして、その推しは今、風呂上りの色気むんむんモードで俺の足元に座っている。
これぞ、水もしたたるいい男。
「あー、尚斗くんに髪乾かしてもらうの最っ高~!」
いつも濡れたまんまで出てくるから、「乾かさないと風邪ひくよ」と小姑を発揮していたら、「じゃぁ尚斗くんが乾かしてよ」って甘えられてしまった。
それ以来、颯くんの風呂上りに俺がリビングにいると、すり寄ってくるように。
ソファに座る俺の足元に、颯くんが胡坐をかいて座ると、ちょうどいい位置に頭が来る。
颯くんの髪は、とても柔らかくて触れているだけで心地いい。
――推しのヘアケアまでできるのは、とても幸せなんだけど。
ヘアセットもしていない風呂上りの颯くんは、色っぽいのに無防備で、無駄にドキドキしてしまう。
「上手く乾かせてる自信ないけどね」
「髪なんか乾けばいいんだって」
「そう、かなぁ」
「それに、俺は尚斗くんに乾かしてもらえるだけで嬉しい」
なんて、殺し文句をさらりと言ってくるから困る。
「ならいいけど……、はい、終わり」
根本から毛先までちゃんと乾いていることを確認して、ドライヤーのスイッチを切った。
「今日、ありがとね」
「もーまた言う。もう何回目?」
「うん、でも、本当に嬉しかったから、ありがとう。――それと、颯くんにお願いがあるんだけど……」
「うん?」
誰かの自慢でいるためには、立ち止まってるだけじゃ、だめなんだ――
「ねぇ竹内~、今度、竹内の家に遊びに行かせてよ」
終業のチャイムが鳴り、帰り支度をしているところに、女子が三人近づいてきた。
――うわ、露骨だなぁ。
こうして、俺経由で颯くんに近づこうとする輩がたまにいるのだ。
三人とも、挨拶すらろくに交わしたことのない女子だった。
「ごめん、そういうのはちょっと……」
「そこをなんとかさぁ」
「竹内には、S女の可愛い子紹介するし!」
「ね!」
そもそも彼女なんていらないし。
それに例え彼女が欲しかったとしても、推しを生贄に捧げる気は毛頭ない。
「本当ごめん、無理」
そうきっぱりと言い放つと、女子の顔つきが一変する。
「はぁ? 竹内のくせに生意気すぎん?」
「ホントだよ。颯くんが弟になったからって自分まで人気者気取りしないでよねー」
「ごめんごめん、身長も顔も中学生の竹内にS女はさすがにもったいなかったわ~」
あははははと笑う女子たちが去って行くのを待っていたんだけど。
「――もったいないって、どういう意味ですか?」
と、どすの利いた声が俺の頭上で響いたのと、両肩に重みを感じたのはほぼ同時。
後ろから俺の肩に腕を回した颯くんの一声で、その場が一瞬で凍り付いた。
「颯くん!?」
振り向いた俺の目には、今まで見たことがないくらい冷ややかな颯くんの顔が映る。
――イケメンの怒った顔、こっわ……。
「生意気とか、中坊とか、もったいないとか、尚斗くんのことを馬鹿にしているように聞こえたんですけど、まさかそんなことないですよね?」
「は、颯くん……」
「えっと……これは、違くて……」
「背が低いとか高いとか、見た目がどうとか本っ当にくだらない」
心底嫌悪するように、言葉を吐き捨てる。
「颯くん、俺はなんとも思ってないから」
もういいよ、という意味を込めるも、颯くんはやめない。
「尚斗くんは、人を傷つけない、思いやりの心を持った俺の自慢の兄で大事な家族なんですよ。その尚斗くんを馬鹿にするなんて、誰であっても絶対に許しませんから――」
結局あの場は、女子が俺と颯くんに謝罪してお開きとなった。
気まずさは残れど、悪いのは彼女たちだし、個人的にも仲良くしたいとは思えないからどうでもよかった。
それよりも、俺のせいで颯くんにネガティブなイメージがついてしまわないか心配だ。
まぁ、くだんの女子たちがいなくなった後、クラスメイトたちはこぞって颯くんを「かっこいい!」「よく言った!」と褒め湛えていたので、大丈夫だと思いたい。
――それにしても、颯くんが俺のことをそんな風に思ってくれてたことが嬉しすぎる……。
家族になってまだ数か月しか経ってないのに、自分の立場が危うくなるのも厭わずに俺を庇ってくれるなんて。
中身までイケメンなんだから、ずるい。
さすが俺の推し。
そして、その推しは今、風呂上りの色気むんむんモードで俺の足元に座っている。
これぞ、水もしたたるいい男。
「あー、尚斗くんに髪乾かしてもらうの最っ高~!」
いつも濡れたまんまで出てくるから、「乾かさないと風邪ひくよ」と小姑を発揮していたら、「じゃぁ尚斗くんが乾かしてよ」って甘えられてしまった。
それ以来、颯くんの風呂上りに俺がリビングにいると、すり寄ってくるように。
ソファに座る俺の足元に、颯くんが胡坐をかいて座ると、ちょうどいい位置に頭が来る。
颯くんの髪は、とても柔らかくて触れているだけで心地いい。
――推しのヘアケアまでできるのは、とても幸せなんだけど。
ヘアセットもしていない風呂上りの颯くんは、色っぽいのに無防備で、無駄にドキドキしてしまう。
「上手く乾かせてる自信ないけどね」
「髪なんか乾けばいいんだって」
「そう、かなぁ」
「それに、俺は尚斗くんに乾かしてもらえるだけで嬉しい」
なんて、殺し文句をさらりと言ってくるから困る。
「ならいいけど……、はい、終わり」
根本から毛先までちゃんと乾いていることを確認して、ドライヤーのスイッチを切った。
「今日、ありがとね」
「もーまた言う。もう何回目?」
「うん、でも、本当に嬉しかったから、ありがとう。――それと、颯くんにお願いがあるんだけど……」
「うん?」
誰かの自慢でいるためには、立ち止まってるだけじゃ、だめなんだ――



