3話 ファンバレだけはだめゼッタイ!
モデルの颯くんを知ったのは、偶然だった。
小学校での“前ならえ”は、6年間一番前の、小さな俺。
中学になり、周囲が成長期を迎える中なぜか俺だけ伸びない身長。
「俺の成長期はこれからなの!」という中学時代の言い訳がいよいよ通用しなくなってきた高2の始め、友だちと少年漫画の最新刊を買いに寄ったコンビニの雑誌コーナーに目が留まる。
「老け顔・童顔必見! ファッションとメイクで見た目を覆せ!」
――なるほど、身長はどうにもならないけど、見た目なら作れるのか……?
と手を伸ばした男性向けファッション誌。
そこに、彼――颯くんがいたのだった。
とても一個下には見えない、抜群のスタイルと大人びた見た目に、嫉妬や妬み、羨望なんて感情を飛び越えてただただ惹きつけられた。
ファッション雑誌だから、みんな見た目は文句なしにかっこいい。
だけど自分よりも年下なのに、こんな華やかな場所で活躍しているのとか、その時のインタビュー文の内容が俺にとってタイムリーな内容だったのとか、色んな事が相まって俺は颯くん推しになったのだった。
それ以来、颯くんが載る雑誌は必ず買ってるし、スクラップブックもつくってる。
もちろん、SNSだってフォローしてるし、颯くんが雑誌で着ていた服とかプライベートで持ってるアクセサリーとか、高校生の俺にも買える価格のものは揃えてる。
――って、いろいろヤバくないか?
颯くんからして、自分のファンと義理の兄弟になって一緒に暮らすなんて……。
俺なら怖いかも……。
考えただけで体がぶるっと震えた。
――だめじゃん! だめだめ! ファンバレだけはだめゼッタイ!
脳内会議が満場一致で可決したところで、俺は推しの部屋のドアを開けた。
「こ、ここが、は、は、は……は……」
だめだ……、面と向かって推しの名前なんて呼べない!
“は”を連呼する怪しい俺を、颯くんは無表情で見下ろす。品定めするような鋭い視線に、蛇に睨まれた蛙のごとく固まってしまった。
推しのキメ顔えっぐぅっ!
え、いいの?
こんな至近距離で生身の推しにカメラ目線もらっちゃって!?
しかもタダで。
今すぐお布施を颯くんの胸ポケットにねじ込みたい衝動に駆られるのを、ぐっと押し殺す。
「俺の部屋?」
「そ、そう! なにか、必要な物があれば用意するから教えて」
もともと客間として使われていなかった部屋に、颯くんの趣味もあるだろうから……と、ベッドと折り畳み式のテーブルと椅子という最低限の家具を誂えただけ。
部屋に足を踏み入れて、颯くんが鞄をベッドの上に置いたのを確認してから「じゃぁ、家の中案内するね」と声をかけるも、颯くんはその場から動く気配がない。
「あ、あの……?」
「案内とかいらない」
「……あっ、そ、そっか……、今日は疲れてるだろうしゆっくりしたいよね。もし分からないことあったらいつでも聞いてくれていいか――」
「そういうのも、いらないから」
――え?
今日一番の、冷たい声音とその言葉に、思考と体がフリーズする。
「あんただって、急に家族なんだから仲良くしろとか言われたって迷惑だろ」
「俺はべつに……」
そりゃ戸惑いはすれど、迷惑だとは思ってなかった。
年も近いから、兄弟とまではいかなくても、友だちみたいに仲良くなれたらいいなって……。
だけど、颯くんの気持ちもよくわかる。
言うなれば、俺たちは昨日まで会ったこともない“他人”なんだから。「今日から家族になります」って言われて「はい、そうですか」って受け入れられるわけがないのは仕方ないだろう。
「とにかく、俺はあんたと慣れあうつもりはないから、必要以上に構わないでくれる」
とどめを刺すかのようにきっぱりと言い放たれ、俺はすごすごと部屋を後にするしかなかった。
モデルの颯くんを知ったのは、偶然だった。
小学校での“前ならえ”は、6年間一番前の、小さな俺。
中学になり、周囲が成長期を迎える中なぜか俺だけ伸びない身長。
「俺の成長期はこれからなの!」という中学時代の言い訳がいよいよ通用しなくなってきた高2の始め、友だちと少年漫画の最新刊を買いに寄ったコンビニの雑誌コーナーに目が留まる。
「老け顔・童顔必見! ファッションとメイクで見た目を覆せ!」
――なるほど、身長はどうにもならないけど、見た目なら作れるのか……?
と手を伸ばした男性向けファッション誌。
そこに、彼――颯くんがいたのだった。
とても一個下には見えない、抜群のスタイルと大人びた見た目に、嫉妬や妬み、羨望なんて感情を飛び越えてただただ惹きつけられた。
ファッション雑誌だから、みんな見た目は文句なしにかっこいい。
だけど自分よりも年下なのに、こんな華やかな場所で活躍しているのとか、その時のインタビュー文の内容が俺にとってタイムリーな内容だったのとか、色んな事が相まって俺は颯くん推しになったのだった。
それ以来、颯くんが載る雑誌は必ず買ってるし、スクラップブックもつくってる。
もちろん、SNSだってフォローしてるし、颯くんが雑誌で着ていた服とかプライベートで持ってるアクセサリーとか、高校生の俺にも買える価格のものは揃えてる。
――って、いろいろヤバくないか?
颯くんからして、自分のファンと義理の兄弟になって一緒に暮らすなんて……。
俺なら怖いかも……。
考えただけで体がぶるっと震えた。
――だめじゃん! だめだめ! ファンバレだけはだめゼッタイ!
脳内会議が満場一致で可決したところで、俺は推しの部屋のドアを開けた。
「こ、ここが、は、は、は……は……」
だめだ……、面と向かって推しの名前なんて呼べない!
“は”を連呼する怪しい俺を、颯くんは無表情で見下ろす。品定めするような鋭い視線に、蛇に睨まれた蛙のごとく固まってしまった。
推しのキメ顔えっぐぅっ!
え、いいの?
こんな至近距離で生身の推しにカメラ目線もらっちゃって!?
しかもタダで。
今すぐお布施を颯くんの胸ポケットにねじ込みたい衝動に駆られるのを、ぐっと押し殺す。
「俺の部屋?」
「そ、そう! なにか、必要な物があれば用意するから教えて」
もともと客間として使われていなかった部屋に、颯くんの趣味もあるだろうから……と、ベッドと折り畳み式のテーブルと椅子という最低限の家具を誂えただけ。
部屋に足を踏み入れて、颯くんが鞄をベッドの上に置いたのを確認してから「じゃぁ、家の中案内するね」と声をかけるも、颯くんはその場から動く気配がない。
「あ、あの……?」
「案内とかいらない」
「……あっ、そ、そっか……、今日は疲れてるだろうしゆっくりしたいよね。もし分からないことあったらいつでも聞いてくれていいか――」
「そういうのも、いらないから」
――え?
今日一番の、冷たい声音とその言葉に、思考と体がフリーズする。
「あんただって、急に家族なんだから仲良くしろとか言われたって迷惑だろ」
「俺はべつに……」
そりゃ戸惑いはすれど、迷惑だとは思ってなかった。
年も近いから、兄弟とまではいかなくても、友だちみたいに仲良くなれたらいいなって……。
だけど、颯くんの気持ちもよくわかる。
言うなれば、俺たちは昨日まで会ったこともない“他人”なんだから。「今日から家族になります」って言われて「はい、そうですか」って受け入れられるわけがないのは仕方ないだろう。
「とにかく、俺はあんたと慣れあうつもりはないから、必要以上に構わないでくれる」
とどめを刺すかのようにきっぱりと言い放たれ、俺はすごすごと部屋を後にするしかなかった。



