一話冒頭
〇天都・天室庭園(夜)
桜や梅が舞う庭園の一角。
風間 珠紀(18)、六道 縁(21)と向かい合わせに立っている。※珠紀、栗色の髪、少し猫目。
足元には朽ちた"狭間のモノ"、気絶した人が数人転がっている。
珠紀「本気ですか……?」※頬に冷や汗。
戸惑いを隠せない珠紀。
縁「ああ」
縁、一歩前に出て珠紀との距離を詰める。
縁「永らく求めていたんだ」
縁、美しい顔で笑みを深める。蠱惑的な表情。
縁「君のような――悪女を」
驚く珠紀。身を後ろに引こうと動く。
下に目を向けると、地面に転がる"狭間のモノ"の下から小さく鮮やかな花々が根を張り絡みつく。
瞬く間にきらきらと浄化され花びらを散らし消滅する。
珠紀M「呪い穢れた魂――呪魂」「それらの浄化はある一族のみが扱える御業」
目の前の縁を見つめる珠紀。
視線を受け、縁は微笑んで口を開く。
縁「天都一と名高い悪女殿、どうか俺の伴侶になっておくれ」※少し不敵な笑み
風が吹いて桜の花びらが舞うなど、ドラマチックな描写。
珠紀M「初めて会ったはずなのに」「なぜか彼からは懐かしい香りがした」「桜とも梅とも違う――泣きたくなるような優しい花の香り」
〇(回想)
珠紀M「――"愛"を期待しなければ」「私はもっとマシな人間になれた?」
黒い炎に呑み込まれていく珠紀。
目に涙を浮かべ、背後に花びらが散っている。(回想おわり)
〇天都・貴宝院家・屋外(夜)
三年前(ストーリー開始時より過去)
珠紀(21)、正気を失い身一つで貴宝院家に乗り込んでいる。
珠紀「あんたさえいなければ、私は今ごろ誰よりも愛されて幸せになれていたのにっ!」
逆上する珠紀。着物は乱れ、栗色の髪は結がほどけてボサボサ。対峙した華瑠(22)を睨みつける。
華瑠「珠紀……」
華瑠、悲しげな表情。その隣に立つ真人(21)※真人:華瑠の夫、黒髪。鬼血族の若当主。
珠紀「ゆるさない、絶対に!!」
真人「……! 華瑠、伏せろ!」
華瑠を抱き締め庇う真人。
珠紀の周囲に現れる黒炎。華瑠と真人に向かって襲いかかると思いきや、珠紀の体を包んでいく。
珠紀「なっ!? どうしてっ!」「熱いっ、あああ!」
轟々と燃える黒炎。不自然に珠紀を焼き尽くそうとする。
華瑠「そんなっ、珠紀……っ!」
華瑠、必死な顔。真人の腕を離れて珠紀に駆け寄り、助けようと手を伸ばす。
珠紀(――どうしてあんたが)
珠紀M「最期の瞬間、私を救おうと手を伸ばしてくれたのは」「心の底から死を望んでいた妾腹の姉」
珠紀M「刺客を送った」「毒を仕込んだ」「攫い、傷つけた」
各コマを描写。珠紀が華瑠を虐げ貶めようと企む構図。
珠紀(憎くてたまらない)(こんな目に遭っているのは全部あんたのせいよ!)
黒炎に焼かれて死ぬ瞬間まで華瑠に憎しみの目を向け続ける珠紀。そんな珠紀に手を伸ばし続ける華瑠。
華瑠「珠紀……!!」
珠紀(あれ、私は)
死を迎えた最期の瞬間。華瑠の姿を見て、我に返る珠紀。
珠紀M「――どうして姉(華瑠)を、殺したいほど憎んでいたの?」
〇世界観説明N(ナレーション)
ダイジェスト形式で描写
【かつて勢力が二分し『人間』と『妖人(あやかしびと)』が争いを繰り広げた東洋の天照国】
【長きに渡る諍いは"狭間のモノ"の出現により沈静化し、協力関係を生んだ】
※狭間のモノ:魑魅魍魎のバケモノ。
【人間は特異力を】【妖人は妖術を】
【各々が力を行使し"狭間のモノ"を退け】【天照国は二種族が共に歩む道を見つけ国姿を変えていった】
【天照国を治めるのは太陽神の始祖である天帝家】
天から降り注ぐ光、天照大神をイメージ。
【そして国を守護するためあるのは、特別位の筆頭華族家】
【人間側の筆頭華族が左翼、妖人側の筆頭華族が右翼】
風神・雷神・水神・炎神の加護を司る人間側の筆頭華族家の描写。天狐・破鬼・大蛇・古烏の宿主である妖人側の筆頭華族家の描写。※2話or3話でさらに詳しい説明出す。
【両翼守護家の使命とは、民を脅かす"狭間のモノ"を排除し、安寧を保つことにある――】
〇(回想)天都・風間家(昼)
和室。十畳ほどの部屋の中央で母親と向かい合わせに座る珠紀(四歳ぐらい)。
珠紀母「よくお聞き、珠紀。あの母娘は私たちからすべてを奪うつもりよ」
血走った目、憎悪をあらわにする珠紀母。珠紀の両肩を強く掴んでいる。
珠紀M「美しく優しいはずの母が、あの母娘の話をするとき」「決まって般若のごとく顔を歪ませていた」
珠紀、純粋な眼差しを母に向けている。
珠紀母「ああなんて卑しいの。絶対に許すものですか。絶対に、絶対に……奪わせやしない」「珠紀、肝に銘じなさい。あの母娘はあなたの敵なのよ」
珠紀「……はい、かあしゃま」
珠紀、母の腕の温もりに頬を寄せ、目をつむる。
珠紀M「伝わるこの憎悪を、嫉妬を、嫌悪を」「忘れてはいけないと思った」「愛するお母様、どうか苦しまないで」
〇場面転換
喪服姿の珠紀(6歳ぐらい)。
母の葬儀中、涙無く立ち尽くしている。
参列者「心を患っていたそうよ」
参列者「無理もない。正妻として伴侶の契りを交わしたというのに、妾にその娘まで迎えたとなっちゃなぁ……」
珠紀(……お母様を、苦しめたのは、だれ?)
珠紀(だれのせいで、死んでしまった?)
珠紀、周囲の言葉に目もくれず葬儀に参加していた華瑠とその母親に目を向ける。乾いた目が憎悪に歪む。
珠紀M「――あの母娘が、私から大切な人を奪った」
〇場面転換
母親を亡くして以降、華瑠を虐げる珠紀。
そのうち華瑠母も病に伏して亡くなる。珠紀の虐げはエスカレート。
珠紀「妾腹の子とはいえ、風間の姓を持ちながら特異力が扱えないんですって?」「ならあんたは、なんのためにここにいるの?」「この、穀潰しの無能!」
華瑠「うっ」
倒れた華瑠を踏みつける珠紀。風の特異力で華瑠の肌に傷をつける。遠目にそれを見ていた父親・徳紀が近寄る。
徳紀「珠紀」
珠紀「はい、お父様」
華瑠「……!」
仲裁にきてくれた、と期待した眼差しを父親に向ける華瑠。
徳紀、虫を見るような目で華瑠を一瞥。
徳紀「こんな無能に特異力と時間を割くのはよせ」
徳紀、冷たい言葉を残し去っていく。
絶望に染る華瑠の顔。
勝ち誇った様子の珠紀。
珠紀「残念。お父様はあんたのことなんてどうでもいいの」
華瑠「……」
珠紀「なあにその未練がましい目つき。あんたみたいな無能が愛されるわけないじゃない」
愛に執着する珠紀。母親の愛を失い、父親に縋って気に入られることで心の穴を埋めようとしている。
〇場面転換
ここから回想終わりまでダイジェスト形式で描写。
珠紀18歳。華瑠19歳。
徳紀の部屋に呼ばれ、並んで座っている。
美しく着飾った珠紀。ボロボロの古着の華瑠。
徳紀「珠紀、お前に縁談状がきている。水多月(みたづき)家の長男、実弦(みつる)殿だ」
珠紀「実弦様が……!」※ぱっと明るい表情
徳紀「まずは婚約期間を設けてという話だが……ああ、そうだ」
徳紀、視線を華瑠に向ける。
徳紀「お前にも縁談だ、華瑠」
華瑠「えっ……」
徳紀「婚約期間はない。この話が終わり次第支度を済ませすぐに向かえ」「お前が嫁ぐのは、貴宝院家の若当主だ」
珠紀「妻殺しで有名な、あの?」
華瑠「そ、そんな……」
震える華瑠を横目に、ざまあみろとほくそ笑む珠紀。
その後、少ない荷物を持って風間家を去る華瑠の背中を笑いながら見送る珠紀。
珠紀M「すべてが順調だった」「邪魔者はいなくなって、好きな人に愛される」「私を待つのは、そんな輝かしい未来だけ」
「――その、はずだった」
〇場面転換
貴宝院家に乗り込み黒炎に焼かれて死んだ珠紀の描写。
その後、黄泉の世で"狭間のモノ"に追われる。地獄絵図。
珠紀M「気づいたときには"狭間のモノ"が蔓延る場所にいた」「ここは恐らく黄泉の世」「ああ、私は死んだのね」
珠紀、長い時間の中で自身の罪を深く認識する。
珠紀M「どれだけさ迷ったかは分からない」「でもひとつだけ確かなのは」「――私は、取り返しのつかない過ちを犯した」「死んでから後悔したって、もう遅いのに」
逃げ惑う珠紀。足元の赤い河がカラフルな花畑へと変わり始める。
?「――」
珠紀、背を優しく押される。
急いで振り向こうと動く。視界の端を捉えたのは、花びらだけ。※未来の縁が黄泉の世をさまよっていた珠紀を現世(死に戻った直後の世界)に送り届けている。物語終盤で判明予定。(回想終わり)
〇天都・天室庭園(昼)
珠紀「……ん」
珠紀、眩しそうに目を覚ます。
使用人「お嬢様、珠紀お嬢様!?」
肩を揺すられる珠紀。ぼんやり口を動かす。
珠紀「私、なにを……ここは、どこ?」
使用人「た、珠紀様……やはりどこか頭を打たれたのですね!?」
珠紀(頭が痛い……私、"狭間のモノ"にずっと追われていて、それで……)
倒れ込んでいた珠紀はゆっくりと体を起こす。
珠紀の様子を窺う周囲の人々。
使用人「た、珠紀お嬢様? どうして泣いて……」
珠紀「え……」
指摘を受け、頬に触れる。言いようのない恋しさと名残惜しさが珠紀の心に居座っている。
珠紀、自分の体に目を向ける。
珠紀(……私、黒い炎に焼かれて、死んだはずなのに。どうして、生きているの?)
その時、目の前に桜模様の着物の女が目に入る。
艶やかな黒髪、陶器のような白肌と血色の良い頬。ほんのり染まった薄紅の唇。美しい姿の華瑠が立っている。
珠紀「お、姉……様……?」
華瑠「……!」
お姉様と呼ばれたことに瞠目する華瑠。



