葉乃がさぶを抱っこしたまま、種明かしを始める。

「美花のサークルの3、4年生が事実上引退してから、美花が寂しそうにしているのをずっと気にしていたの。寂しそうに寂しそうに、『何で琴を弾いているんだっけ?』みたいな顔をして」


「何でそんなことを知っているの……?」


「だって、この部室の前が私とサブレの散歩コースだもん。サブレは私の住んでいる学生寮によく遊びに来る猫なの。それでたまに一緒に歩いているんだけれど、その時に外から美花の寂しそうな顔が見えていたんだ。だから伝えたかったの。『美花の琴の音を聴いている人がいるよ』って。たとえ聴いていなくても、『応援している人はいるよ』って。だから私が知る限り、美花の琴を聴いている人や応援している人のところを回らせた」




 大学の寮から来ているから、さぶは雨の日でも濡れていなかったんだ。
 それにメモ帳が指示した場所は、佐々木先生のいる場所、食堂のおばちゃんがいる場所……そして、葉乃がいる場所。




「一応、食堂のおばちゃんにも佐々木先生にも軽く事情を説明してお願いしたんだけど、おばちゃんが上手く一日目に美花と会えなかったって言うから今日もう一回食堂を指示場所にしたの」





 葉乃が私の前まで歩いてくる。





「はい、これ最後のメモ用紙。美花には私の字がバレているから、わざわざ別の字が綺麗な友達に頼んだんだからね!」





 最後のメモには……






『私のことを撫でて下さい ヒント:顔周りを撫でると喜びます』






「最後の『美花の琴を応援している人』は『サブレ』。いつも散歩の時にこの場所らへんで止めるから大変なんだよ? よっぽど美花の琴の音が気に入っているみたい」






 今度は喉の奥じゃなくて、目の奥が熱くなって、涙がポロポロと溢れた。葉乃が言葉を続ける。



「美花の琴の音も、美花自身も大好きだよ。ずっと応援してるから!」



 葉乃の言葉にまた涙が溢れてくる。



「葉乃って最高の親友だよね」



 泣きながら嗚咽まじりに……それでいていつものように笑いながら、何とかそう言い放つと、葉乃が「当たり前でしょ!」と笑っている。

「まぁ、美花は『サブレ』のこと『さぶ』って呼べば良いんじゃない? どっちも返事しそうだし」

 葉乃の言葉を聞いて、私はさぶに問いかける。



「これからも『さぶ』って呼んで良いの?」


「にゃあ!!!」



 元気にさぶはそう返事した。
 だから、もう大丈夫。

 昨日と違って今日は快晴。太陽の眩しい光の下、また私は元気を出す。



 さぶの頭を撫でながら。



fin.