「そんな! その犯人の嘘に決まっているではありませんか! ねぇ、ダミアンさま、どこの馬の骨ともわからない者の言うことなど、信じるに値しませんわ」
「その通りだな、話にならん」
「もちろん、私も犯人の言葉だけで信じたわけではありません。こちらを御覧ください」
アランの合図で、側に控えていたセルジュがそれらを手に前に出る。
そして国王陛下へと手渡した。
国王陛下は、それらを検めると、深く息を吐いてダミアンとシェリーを見やる。
「これに心当たりは」
ベルベット生地の袋からシャラシャラという金属音と共に姿を見せたのは、ピンク色に輝く見事なダイヤのネックレス。
「それは……俺がシェリーにあげた……」と驚くダミアン。
そう、それはダミアンがシェリーに贈った珍しいピンクダイヤのネックレスだった。意匠をこらしたデザインと石の透明度や大きさは二つとない逸品だとわかる。
「そうか。こちらには、王太子妃とその母が犯人との間で交わした署名入りの契約書だ……」
「どういうことだ、シェリー」
「ぬ、盗まれたのです! ダミアンさまには申し訳なくて黙っていたのですが、先日屋敷が強盗に遭ったのです! それに署名なんていくらでも偽装できるでしょう? その犯人が、デタラメを言っているのよ! だ、だいたいっ、王太子妃の私が、エレインみたいな取るに足らない女を殺す理由がどこにあるっていうのよ! あんな女、生きてようが死んでようがどうだっていいわ!」
「……」
シェリーの言葉に、広間が静寂に覆われた。
誰も言葉を発しないことに違和感を覚えたシェリーが、ダミアンを振り向く。見開かれた彼の目には、驚愕や蔑み、恐怖などさまざまな感情が混ざりあっていた。
「だ、ダミアン、さま……?」
「――王太子妃殿下のおっしゃる通り! 我が王宮内で起きた騒動は、客人であるエレイン・フォントネル嬢の殺害未遂事件でございます。箝口令を敷いていたにもかかわらず、なぜ隣国の王太子妃殿下がご存じなのでしょうか――?」
アランの大仰な言葉に広間がどよめき、シェリーは自身の失言に気付く。
「シェリー……お前、まさか、本当にエレインを」
「あ……、わ、私は……あ……あぁ……」
反論の余地がなくなり、シェリーはその場に膝から崩れ落ちた。
それを自認と捉えた陛下が、警備に指示を出すと護衛騎士がシェリーを囲う。両腕を掴まれて立たされた彼女は、項垂れていて表情は伺えない。シェリーの近くにいた母マチルダも同様に騎士に捉えられていた。父のジャンも、同行を促されている。
「さ、歩け」
半ば引きずられるようにして連れられていく彼らを目にして、エレインはようやくすべてが終わったのだ、と息を吐いた。
(あとは指輪を返してもらうだけだわ……)
足に力を入れて踏ん張っていなければ、今にもこの場にへたり込んでしまいそうだ。
「して、アラン王子よ、エレインは無事なのだろうか」
陛下に訊かれたアランがこちらを見て頷く。それを確認して、エレインは顔のヴェールを後ろに流し、素顔を晒した。
「お久しぶりでございます、国王陛下」
「その通りだな、話にならん」
「もちろん、私も犯人の言葉だけで信じたわけではありません。こちらを御覧ください」
アランの合図で、側に控えていたセルジュがそれらを手に前に出る。
そして国王陛下へと手渡した。
国王陛下は、それらを検めると、深く息を吐いてダミアンとシェリーを見やる。
「これに心当たりは」
ベルベット生地の袋からシャラシャラという金属音と共に姿を見せたのは、ピンク色に輝く見事なダイヤのネックレス。
「それは……俺がシェリーにあげた……」と驚くダミアン。
そう、それはダミアンがシェリーに贈った珍しいピンクダイヤのネックレスだった。意匠をこらしたデザインと石の透明度や大きさは二つとない逸品だとわかる。
「そうか。こちらには、王太子妃とその母が犯人との間で交わした署名入りの契約書だ……」
「どういうことだ、シェリー」
「ぬ、盗まれたのです! ダミアンさまには申し訳なくて黙っていたのですが、先日屋敷が強盗に遭ったのです! それに署名なんていくらでも偽装できるでしょう? その犯人が、デタラメを言っているのよ! だ、だいたいっ、王太子妃の私が、エレインみたいな取るに足らない女を殺す理由がどこにあるっていうのよ! あんな女、生きてようが死んでようがどうだっていいわ!」
「……」
シェリーの言葉に、広間が静寂に覆われた。
誰も言葉を発しないことに違和感を覚えたシェリーが、ダミアンを振り向く。見開かれた彼の目には、驚愕や蔑み、恐怖などさまざまな感情が混ざりあっていた。
「だ、ダミアン、さま……?」
「――王太子妃殿下のおっしゃる通り! 我が王宮内で起きた騒動は、客人であるエレイン・フォントネル嬢の殺害未遂事件でございます。箝口令を敷いていたにもかかわらず、なぜ隣国の王太子妃殿下がご存じなのでしょうか――?」
アランの大仰な言葉に広間がどよめき、シェリーは自身の失言に気付く。
「シェリー……お前、まさか、本当にエレインを」
「あ……、わ、私は……あ……あぁ……」
反論の余地がなくなり、シェリーはその場に膝から崩れ落ちた。
それを自認と捉えた陛下が、警備に指示を出すと護衛騎士がシェリーを囲う。両腕を掴まれて立たされた彼女は、項垂れていて表情は伺えない。シェリーの近くにいた母マチルダも同様に騎士に捉えられていた。父のジャンも、同行を促されている。
「さ、歩け」
半ば引きずられるようにして連れられていく彼らを目にして、エレインはようやくすべてが終わったのだ、と息を吐いた。
(あとは指輪を返してもらうだけだわ……)
足に力を入れて踏ん張っていなければ、今にもこの場にへたり込んでしまいそうだ。
「して、アラン王子よ、エレインは無事なのだろうか」
陛下に訊かれたアランがこちらを見て頷く。それを確認して、エレインは顔のヴェールを後ろに流し、素顔を晒した。
「お久しぶりでございます、国王陛下」



