「王太子殿下、王太子妃殿下、この度はご結婚まことにおめでとうございます」
二人の前に立ち、アランが祝いの言葉を述べた。
先日、カムリセラ国でアランに門前払いを食らったダミアンは、苦虫を嚙み潰したような顔になるも、すぐに皮肉たっぷりの笑みを浮かべる。
「これは、カムリセラ国の王子殿下。遠いところ痛み入る」
「こちらこそ、このような素敵な披露宴にお招きくださり光栄でございます。王太子妃殿下におかれましても、誠におめでとうございます。聖女が舞い降りたとお噂はかねがね」
「まぁ、素敵な殿方に褒められたらわたくし照れてしまいます」
口元に手を添えて、恥じ入る素振りを見せるシェリー。その手も手袋の上からでも骨ばっているのがわかり、エレインは痛まし気に目を眇める。
「シェリーはまさに聖女そのもの。あらゆる植物を育てられるんだからな。我が伴侶にふさわしい女性だ」
「このようなお祝いの場に大変恐縮なのですが、王太子妃殿下に折り入ってお願いがございます」
「図々しいぞ。この場をなんと心得る」
アランの申し出にダミアンが声を低く牽制するも、隣のシェリーが「聞くだけならいいじゃありませんか」と促した。
「その右手のシグネットリングを、本来の持ち主に返していただきたく存じます」
「――っ」
一瞬、シェリーの表情が強張ったのを二人とも見逃さない。
「一体どういうことかしら」
「その指輪は、この世に二つとない貴重な代物でして……先日本来の持ち主の元から盗まれてしまい、探していたところどういうことか王太子妃殿下にたどり着いた所存でございます」
「なにか勘違いしているのでは? この指輪はずっと前からわたくしの物よ」
「我が伴侶を盗人扱いするとはどういう了見か!」
ダミアンが声を荒げ、会場内がしんと静まり返る。周囲の人たちの視線が一斉にこちらに向いた。
「誰も王太子妃殿下が盗んだとは申しておりません。ただ、返していただけないのであれば、あの件についてここで公にするしかない、と申しているだけです」
「あの件とはなんだ」
いらだつダミアンの横で、シェリーが固まる。
「王太子妃殿下はご存じかと」
ダミアンが隣のシェリーに「そうなのか」と声を掛ける。シェリーは息を深く吐いて、首を横に振った。
「なんのことかさっぱりですわ。まるでわたくしがなにか悪事を働いたかのような言い方。無礼千万はなはだしいですわね」
「そうですか、残念です。事を荒立てるのは、こちらも本意ではございませんが……仕方ありません。――国王陛下にお願い申し上げます! これはヘルナミス国とカムリセラ国の両国家間の信用問題にも関わる事由のため、この場での発言をお許しいただけますでしょうか」
アランが声を張り上げた。
玉座に座る国王陛下は、じっとこちらを見下した後「許そう」とだけ言葉を発した。
「私は、隣国カムリセラ国の第三王子アラン・ド・キュステ ィーヌと申します。先日、我が王宮内でとある騒動が起こった際、その指輪が持ち去られました」
広間がざわつくが、アランは気にせずに、事の経緯を説明した。
指輪の行方を捜していたらシェリーにたどり着いたこと、事件を起こした犯人を捕まえたことなどを簡潔に伝え、ついに核心に触れる。
「そして、その犯人を金で雇ったのが、太子妃殿下とその母君であると犯人が自白したのです」
アランのよく通る声だけが広間に響いた。
「なんと!」
「王太子妃殿下と母君が?」
「なぜ?」
周囲からざわめきが湧く。
二人の前に立ち、アランが祝いの言葉を述べた。
先日、カムリセラ国でアランに門前払いを食らったダミアンは、苦虫を嚙み潰したような顔になるも、すぐに皮肉たっぷりの笑みを浮かべる。
「これは、カムリセラ国の王子殿下。遠いところ痛み入る」
「こちらこそ、このような素敵な披露宴にお招きくださり光栄でございます。王太子妃殿下におかれましても、誠におめでとうございます。聖女が舞い降りたとお噂はかねがね」
「まぁ、素敵な殿方に褒められたらわたくし照れてしまいます」
口元に手を添えて、恥じ入る素振りを見せるシェリー。その手も手袋の上からでも骨ばっているのがわかり、エレインは痛まし気に目を眇める。
「シェリーはまさに聖女そのもの。あらゆる植物を育てられるんだからな。我が伴侶にふさわしい女性だ」
「このようなお祝いの場に大変恐縮なのですが、王太子妃殿下に折り入ってお願いがございます」
「図々しいぞ。この場をなんと心得る」
アランの申し出にダミアンが声を低く牽制するも、隣のシェリーが「聞くだけならいいじゃありませんか」と促した。
「その右手のシグネットリングを、本来の持ち主に返していただきたく存じます」
「――っ」
一瞬、シェリーの表情が強張ったのを二人とも見逃さない。
「一体どういうことかしら」
「その指輪は、この世に二つとない貴重な代物でして……先日本来の持ち主の元から盗まれてしまい、探していたところどういうことか王太子妃殿下にたどり着いた所存でございます」
「なにか勘違いしているのでは? この指輪はずっと前からわたくしの物よ」
「我が伴侶を盗人扱いするとはどういう了見か!」
ダミアンが声を荒げ、会場内がしんと静まり返る。周囲の人たちの視線が一斉にこちらに向いた。
「誰も王太子妃殿下が盗んだとは申しておりません。ただ、返していただけないのであれば、あの件についてここで公にするしかない、と申しているだけです」
「あの件とはなんだ」
いらだつダミアンの横で、シェリーが固まる。
「王太子妃殿下はご存じかと」
ダミアンが隣のシェリーに「そうなのか」と声を掛ける。シェリーは息を深く吐いて、首を横に振った。
「なんのことかさっぱりですわ。まるでわたくしがなにか悪事を働いたかのような言い方。無礼千万はなはだしいですわね」
「そうですか、残念です。事を荒立てるのは、こちらも本意ではございませんが……仕方ありません。――国王陛下にお願い申し上げます! これはヘルナミス国とカムリセラ国の両国家間の信用問題にも関わる事由のため、この場での発言をお許しいただけますでしょうか」
アランが声を張り上げた。
玉座に座る国王陛下は、じっとこちらを見下した後「許そう」とだけ言葉を発した。
「私は、隣国カムリセラ国の第三王子アラン・ド・キュステ ィーヌと申します。先日、我が王宮内でとある騒動が起こった際、その指輪が持ち去られました」
広間がざわつくが、アランは気にせずに、事の経緯を説明した。
指輪の行方を捜していたらシェリーにたどり着いたこと、事件を起こした犯人を捕まえたことなどを簡潔に伝え、ついに核心に触れる。
「そして、その犯人を金で雇ったのが、太子妃殿下とその母君であると犯人が自白したのです」
アランのよく通る声だけが広間に響いた。
「なんと!」
「王太子妃殿下と母君が?」
「なぜ?」
周囲からざわめきが湧く。



