*王太子サイド

 見渡す限り見事に咲き誇るハーブ畑を目下に、王太子ダミアンは満足げな笑みを顔に浮かべていた。
 ハーブが枯れ、エレインにも無下にされてしまい、もう終わりだと諦めたとき、希望の光が現れた。
 シェリーが不思議な力を手に入れたのだ。
 ありとあらゆる植物の成長を促す力を。
 嬉々としてそう告げてきたときは、なにを馬鹿なことを、と思ったが、種を撒いただけの荒地が、シェリーが手をかざしただけで一瞬でハーブ畑へと様変わりしたの力を目の当たりにして歓喜に打ち震えた。
 すでに再会したハーブ事業は、再び評判を取り戻し、一月も経たぬうちに貴族たちから引く手あまただった。
 多額の赤字を挽回できるどころか、大幅な利益を出して反王太子派たちの息の根を止められるだろう。
「ダミアンさま!」
 指定した畑を満開にしたシェリーが、ダミアンの元に戻ってきた。
 息を切らして、顔には若干の疲労が滲んでいる。
 この力を使うと体力を消耗するらしいが、少し休めば元気になると言っているので問題はないだろう。
「ありがとうシェリー。本当に素晴らしい力だ!」
 肩を抱き寄せて髪に口づける。
「あの女よりも優れた力を手に入れるとは、さすが俺が見込んだ婚約者。シェリーこそ王太子妃にふさわしい女性だ!」
 ハーブが育っていたのがエレインの力によるものだと知ったときは、気づかず婚約破棄してしまったことを後悔したが……。
(これでもう、あの女は正真正銘の用済みだな)
 自分に恥をかかせた、エレインと王子のアランとの出来事を思い出す度に腸が煮えくり返る思いがしたが、今はそんなことはもうどうでもよくなるほどにダミアンの心は清々しい。
 シェリーの力があれば、隣国の市場すら席捲できる日もそう遠くないとダミアンは踏んでいる。
(そうなれば、あの王子にだって一泡吹かせられる)
「ふふふ、ダミアンさまのお役に立てて嬉しいですわ」
(妃教育も鳴かず飛ばずで、愛想を振りまくしか特技がないと思っていたが、こうも使えるとは思わなかったな)
 ダミアンは、自分の運の強さに笑いが止まらない。
「あぁ、なんて健気なんだシェリー。まさに聖女の降臨だと父上もお喜びになっていたぞ。結婚式ももうすぐだ。きみと夫婦になれる日が待ち遠しいな」
「私もです」
 腕の中で頬を赤らめるシェリーを、愛おし気に強く抱きしめた。