「指輪が見つかった」
 数日ぶりに姿を見せたアランが、開口一番にそう言う。
「きみの妹のシェリーが身に着けていると報告を受けた」
 それはつまり、エレインを殺そうとした首謀者がシェリーだった、ということ。だとすれば、おそらく義母も共犯だろう。
 なんと言葉をかけたら良いか……と心痛な面持ちのアランに、エレインは微笑みかける。
「私の家族は物心ついた頃から今までずっと母一人でした。父たちのことを家族だと思ったことは一度もありません」
(病で弱っていく母に、ろくな治療も受けさせてくれなかったあの人たちを、私は家族なんて認めない)
 みるみる痩せて食べものも喉を通らない母に、ハーブウォーターをしみ込ませたガーゼで必死に水を飲ませていた辛い日々が鮮明に思い出され、喉の奥がぐっと詰まった。
 どんなに父に縋っても、ちゃんとした医者を呼んでくれなかった。
 父が家を留守がちにしていたのは、義母とシェリーに会いに行っていたから。
 言葉にしなくても、母が病で弱って死ぬのを心待ちにしていたようなものだ。
(母は、あの人たちに殺されたようなものだもの)
 言いなりになってハーブを作っていたのは、それでも自分を捨てずに衣食住を提供してくれたことに恩を感じていたから。
(だけど……、離れてもなお私を殺そうとした挙句、周りの人にまで危険にさらすなんて許せない)
「そうか……。シェリーは指輪の力に気づいたらしく、再び王太子と共にハーブを作っているようだ」
「え、契約者じゃなくても力が使えるのですか?」
「そうらしい。しかも最悪なことに、使用者の使い方次第では、人や自然に害を及ぼすこともできるとも記載があった」
「それは……、人を傷つけたりできるということでしょうか」
「その昔、ヴィタ国では死に至った出来事があったらしい」
「……っ」
(もし、そのことにシェリーが気付いたら……)
 彼女は、ただでさえ自分本位で、いつだって相手よりも優位でなければ気が済まない性格で、エレインを排除しようとした前科もある。
 そして彼女は、これから王太子妃になるのだ。
 きっとさまざまな困難が待ち受けていることだろう。障壁を排除するために力を悪用したら、多くの人が犠牲になるかもしれない。
 恐ろしい可能性に手足から温度が失われ、寒気に体が震えた。
「だから、どうにかして指輪を取り戻そうと思う」
「もちろんです、私にも協力させてください!」
(これ以上あの子の好きにはさせないわ……!)
 エレインはそう心に決めた。