*アンサイド
(ごめんなさいごめんなさい……、エレインさま、ごめんなさい!)
倒れたエレインを気遣う振りをして指輪を抜き取ったアンは、心の中でそう何度も謝罪しながら城を後にした。
事前の話通り、待ち構えていた男の馬に乗せられ、着いた先はアンの実家だ。
アンの実家は子爵で、小さいながらに屋敷を構えており使用人も雇っている。だけど、今は物音一つせず、まるで廃屋のように静まり返っていた。
恐怖と罪悪感で震える体をなんとか動かし、アンは応接間に入る。
中には、仮面をつけた男がソファに腰掛けワインを飲んでいた。
そしてその奥には、アンの父と母、まだ幼い弟が体を縄で縛られた状態で床に倒れているのが視界に入る。
父の顔には殴られた跡があり、痛々しくて見ていられない。
数日前、母が病で倒れ、先が短いかもしれないから早く帰ってこい、という旨の手紙が届き、アンはエレインの許可を得て休暇をもらった。
しかし、それは嘘の手紙で、家に帰るとこの仮面の男が家族を拘束して待ち構えていたのだ。
そして男は、アンに、家族を助けたければ、エレインに薬を飲ませていつも身に着けている指輪を取ってこいと命じた。
「薬は飲ませたんだろうな」
仮面の男の声が室内に重く響く。
「飲ませて、指輪も持ってきたわ。だから、家族を解放して」
「その女はどうなった」
「飲んだ後、倒れてひどく苦しんでた……、私は指輪を持って逃げたから、そのあとはどうなったかわからないわ」
それを聞いて、男はくつくつと喉を鳴らして笑う。
「まぁ、聞くまでもないか。アレは一口でも口にすれば一巻の終わりだからな」
「――ッ! だ、騙したのね! 気を失うだけだって……! だから、だから、私……、そ、そんな……、じゃぁ、エレインさまは……」
その場に頽れたアンの目から、涙が止めどなく零れていく。
「はっ、もうとっくにあの世行きだろうな」
(そんな……)
衝撃の事実に、アンは言葉を失った。
「ま、これでお前は人殺しになったわけだ。しかも王宮でなんて、俺が始末しなくたって王子さまが首を刎ねてくれるだろうなぁ。ハハハハハ」
男は一しきり笑った後、アンの手から指輪を奪い取り、部屋から出ていった。
(ごめんなさいごめんなさい……、エレインさま、ごめんなさい!)
倒れたエレインを気遣う振りをして指輪を抜き取ったアンは、心の中でそう何度も謝罪しながら城を後にした。
事前の話通り、待ち構えていた男の馬に乗せられ、着いた先はアンの実家だ。
アンの実家は子爵で、小さいながらに屋敷を構えており使用人も雇っている。だけど、今は物音一つせず、まるで廃屋のように静まり返っていた。
恐怖と罪悪感で震える体をなんとか動かし、アンは応接間に入る。
中には、仮面をつけた男がソファに腰掛けワインを飲んでいた。
そしてその奥には、アンの父と母、まだ幼い弟が体を縄で縛られた状態で床に倒れているのが視界に入る。
父の顔には殴られた跡があり、痛々しくて見ていられない。
数日前、母が病で倒れ、先が短いかもしれないから早く帰ってこい、という旨の手紙が届き、アンはエレインの許可を得て休暇をもらった。
しかし、それは嘘の手紙で、家に帰るとこの仮面の男が家族を拘束して待ち構えていたのだ。
そして男は、アンに、家族を助けたければ、エレインに薬を飲ませていつも身に着けている指輪を取ってこいと命じた。
「薬は飲ませたんだろうな」
仮面の男の声が室内に重く響く。
「飲ませて、指輪も持ってきたわ。だから、家族を解放して」
「その女はどうなった」
「飲んだ後、倒れてひどく苦しんでた……、私は指輪を持って逃げたから、そのあとはどうなったかわからないわ」
それを聞いて、男はくつくつと喉を鳴らして笑う。
「まぁ、聞くまでもないか。アレは一口でも口にすれば一巻の終わりだからな」
「――ッ! だ、騙したのね! 気を失うだけだって……! だから、だから、私……、そ、そんな……、じゃぁ、エレインさまは……」
その場に頽れたアンの目から、涙が止めどなく零れていく。
「はっ、もうとっくにあの世行きだろうな」
(そんな……)
衝撃の事実に、アンは言葉を失った。
「ま、これでお前は人殺しになったわけだ。しかも王宮でなんて、俺が始末しなくたって王子さまが首を刎ねてくれるだろうなぁ。ハハハハハ」
男は一しきり笑った後、アンの手から指輪を奪い取り、部屋から出ていった。



