「なっ、お前、俺はヘルナミス国の王太子だ! 俺に剣を抜くとは、我が国に剣を向けたも同然だぞ!」
「相手が誰であろうと、エレインさまをお守りするよう主より仰せつかっております」
表情を変えることなく護衛が静かに答える。
「はんっ、小賢しい! 人の国からエレインを盗んでおいて、さらに邪魔をするとは! 俺を倒せるものならやってみろ!」
叫びながら、ダミアンも剣を抜いて護衛と相対する。
「お、おやめくださいっ、王太子殿下! あなた達も、下がって!」
エレインは悲鳴に近い声を上げるが、双方とも聞こえていないのか睨みあったまま動かない。
(どうしよう、こんな大事になるなんて!)
「――剣を下ろせ」
低く威圧的な声が、その場に響いた。
その声を受け、護衛は瞬時に後ずさって剣を鞘に納める。
ダミアンも構えの姿勢をやめて剣を下ろした。
いつの間にか馬車から降りていたアランは、エレインを背に隠すように前に出る。
「私の部下が失礼いたしました。彼らは私の命令通りに動いただけですので、どうかお許しいただけないでしょうか」
「はっ、この俺に剣を抜いたというのに許せとは、あまりにも虫が良すぎるんじゃないか、この国の王子殿下は」
「そうでしょうか?」
「……なにが言いたい」
ダミアンが、ギロリと鋭い視線で睨みつける。
「王太子ともあろうお方が、先ぶれもなく我が国に入った上、王室の客人に危害を加えようとした……となると、こちらも黙ってはいられないのですが、殿下にそのご覚悟はございますかな?」
「……」
そちらが許さないのなら、こちらも出るとこに出るぞ、とアランはどちらの方に分があるのかをダミアンに知らしめる。
黙りこくるダミアンに、アランは畳みかけるように口を開いた。
「王太子殿下は、エレインが酷い扱いを受けていないか、心配されてこのように遠いところまでわざわざ早馬を駆けてこられたのでしょうが、どうぞご安心ください。今の彼女の周りには、彼女を駒のようにこき使い、不要になった途端捨てるような卑劣な人間は一人としておりませんし、そのような輩がいたとしても、先ほどのように近づけないよう細心の注意を払っております。彼女は、私が責任を持って守りますので、どうぞお引き取りください」
「……っ」
ダミアンは、顔を真っ赤にさせて怒りをこらえている様子だった。
今まで一度たりとも言い返したことのないエレインは、自分の口で思いを伝えられたことと、これまで言えなかったことを代弁するかのようにアランが言ってくれたことが嬉しかった。
胸がすーっと晴れていく。
王太子殿下に恨みを抱いたことはなかったが、心無い言葉を何度も浴びせられ、自分の心は確かにすり減っていたのだと、改めて思い知らされた。
「さ、行こうか、エレイン」
抱き寄せるようにアランの手が肩に触れる。
大きくて暖かい手によって、体のこわばりがふっと緩むのが分かった。
一触即発の事態に、心身ともに緊張状態を強いられていたらしい。知らぬ間に震えていた手を、胸の前で固く握りしめた。
「――あぁ、それから、エレインは私にとって特別な存在ですから、あなたの言う用済みになる日が来ることは永遠にないので悪しからず」
エレインは、アランに促されるまま馬車へと乗り込んだ。
「相手が誰であろうと、エレインさまをお守りするよう主より仰せつかっております」
表情を変えることなく護衛が静かに答える。
「はんっ、小賢しい! 人の国からエレインを盗んでおいて、さらに邪魔をするとは! 俺を倒せるものならやってみろ!」
叫びながら、ダミアンも剣を抜いて護衛と相対する。
「お、おやめくださいっ、王太子殿下! あなた達も、下がって!」
エレインは悲鳴に近い声を上げるが、双方とも聞こえていないのか睨みあったまま動かない。
(どうしよう、こんな大事になるなんて!)
「――剣を下ろせ」
低く威圧的な声が、その場に響いた。
その声を受け、護衛は瞬時に後ずさって剣を鞘に納める。
ダミアンも構えの姿勢をやめて剣を下ろした。
いつの間にか馬車から降りていたアランは、エレインを背に隠すように前に出る。
「私の部下が失礼いたしました。彼らは私の命令通りに動いただけですので、どうかお許しいただけないでしょうか」
「はっ、この俺に剣を抜いたというのに許せとは、あまりにも虫が良すぎるんじゃないか、この国の王子殿下は」
「そうでしょうか?」
「……なにが言いたい」
ダミアンが、ギロリと鋭い視線で睨みつける。
「王太子ともあろうお方が、先ぶれもなく我が国に入った上、王室の客人に危害を加えようとした……となると、こちらも黙ってはいられないのですが、殿下にそのご覚悟はございますかな?」
「……」
そちらが許さないのなら、こちらも出るとこに出るぞ、とアランはどちらの方に分があるのかをダミアンに知らしめる。
黙りこくるダミアンに、アランは畳みかけるように口を開いた。
「王太子殿下は、エレインが酷い扱いを受けていないか、心配されてこのように遠いところまでわざわざ早馬を駆けてこられたのでしょうが、どうぞご安心ください。今の彼女の周りには、彼女を駒のようにこき使い、不要になった途端捨てるような卑劣な人間は一人としておりませんし、そのような輩がいたとしても、先ほどのように近づけないよう細心の注意を払っております。彼女は、私が責任を持って守りますので、どうぞお引き取りください」
「……っ」
ダミアンは、顔を真っ赤にさせて怒りをこらえている様子だった。
今まで一度たりとも言い返したことのないエレインは、自分の口で思いを伝えられたことと、これまで言えなかったことを代弁するかのようにアランが言ってくれたことが嬉しかった。
胸がすーっと晴れていく。
王太子殿下に恨みを抱いたことはなかったが、心無い言葉を何度も浴びせられ、自分の心は確かにすり減っていたのだと、改めて思い知らされた。
「さ、行こうか、エレイン」
抱き寄せるようにアランの手が肩に触れる。
大きくて暖かい手によって、体のこわばりがふっと緩むのが分かった。
一触即発の事態に、心身ともに緊張状態を強いられていたらしい。知らぬ間に震えていた手を、胸の前で固く握りしめた。
「――あぁ、それから、エレインは私にとって特別な存在ですから、あなたの言う用済みになる日が来ることは永遠にないので悪しからず」
エレインは、アランに促されるまま馬車へと乗り込んだ。



