それから数日後、エレインは医師の診察を受け、部屋から出ることが許された。
 ――ただし、力は使わないこと。
 というアランからの言い付けを守って、今日も一日テオと穏やかに過ごしているが、頭の中は精霊の話で持ち切りだった。
 精霊の棲む国、亡国ヴィタ国。
 そして王族だけが使える精霊の力。
(逃がされた王女さまが、私のご先祖さま?)
 考えても仕方のないことだが、考えずにはいられない。
(仮にそうだとして……、この指輪が本物なら、精霊と契約ができるかもしれない……)
 それは、力の使い過ぎで倒れてしまった今のエレインにとって、とても魅力的な話だ。
 契約のやり方については『指輪を以て精霊の(ゆる)しを得よ』としか記載がなく、二人とも首をひねるばかりだった。
(契約方法がわかっても、私が契約できるとも限らないし……)
 あまり期待はしない方がいいかもしれない、とエレインは胸に留め置く。
 しかし、それよりなにより、こんな大切な機密事項をアランが話してくれたことの方が、エレインにとっては嬉しかった。
(信頼してもらえてるってことよね……)
 力が使えなければ、ハーブを作れなければ自分には価値がなく、ここにはいられないと思っていたエレインに、価値はそれだけじゃない、と言ってくれたアラン。
 どこまでも優しい彼に、エレインがどれほど癒され救われているか、きっとアランは知らない。
 十分すぎるほど、たくさんの気持ちをもらった。
(そう、もう十分よ……)
 例え契約できなくとも、アランをはじめ、この国とエレインがお世話になった人たちのために、精霊の力を使っていく意志は変わらない。
 改めて自分のすべきことを認識し、エレインはそのとき(・・・・)を迎える覚悟を決めた。