「俺は、エレインがヴィタ国の王族の子孫なのではないかと、考えている」
 至極真面目な顔でそんな突拍子もないことを言われ、思考が停止する。
「な、なにを……おっしゃるのですか……。そんなまさか……。そ、それに、ヴィタ国の王族は自害されたと……」
(指輪とフランキンセンスという、不確定な要素だけではなんの根拠にもならないわ)
「そう、当時、亡骸(なきがら)と家系図とを照合までして確認したと我が国の歴史書に記されていた。――だけど、後にヴィタ国の生き残った臣下の一人が我が国の王に謁見を求め、こう言ったらしい」
『どうか王女さまを探してください。王女さまはお腹にお子を身ごもっておいででした。それゆえ自害させるのはあまりにも酷だと、女王さまがご慈悲を……。そしてフラネシア国が攻め入ってくる前に身重の体で国を出たのです。城に残っていた亡骸は、身代わりを買って出た王女さまの乳姉妹の侍女だったのです』
 周囲の王族や臣下は、女王にも逃げるよう進言するも、国民を残して一人生き残るなどできないと自害を選んだ。
 しかし、妊娠していた自身の一人娘だけは、と苦渋の思いで逃がしたのだと言う。
 それを受け、カムリセラ国は王女の捜索に兵を駆り出すも、見つけることは叶わなかったらしい。
「当時、我が国はさぞかし血眼になって探したことだろうね。なんと言っても不思議な力を持った一族の生き残りだから。だけど見つけられなかった。ヴィタ国に攻め入ってきたフラネシア国と、反対の方角にあったのはヘルナミス国だ。王女逃げたのがヘルナミス国だと考えると、辻褄が合うと思わないか」
 ヘルナミス国に逃げた王女が生き残り、巡り巡って貴族となった。そしてその子孫がエレインだと、アランはそう言いたいのだ。
「それともう一つ、ヴィタ国の王族は皆、七色の瞳を持っていたとも書かれているんだ」
「七色……」
「そう、アンバーの瞳とも呼ばれていて、光の加減で色が変わって見える不思議な目だと書かれている。エレインの瞳も特徴こそ色濃くはないけれど、間違いなくアンバーの瞳なんだよ」
(そ、そんなこと、言われても……)
 軽々しく同意できる内容の話ではないし、確固たる証拠だってないのだ。
 言葉に詰まっていると、アランは空気を緩めるようにソファに寄りかかった。
「――とまぁ、きみが王族の生き残りかどうかはさておき。俺が本当に話したいのはここからだ」
 そのページの右下を読んでみて、と促され、エレインは再度目を落とす。
 そこには、精霊と指輪について興味深いことが記されていた。
「指輪によって精霊と契約を結べば、体力の消費を最小限に抑えて力を使うことができる……」
(そうなれば、今よりもっと力を使える……)
 もっと多くのハーブを短期間で作れれば、より多くの人の力になれる。
 瞬時に浮かんできた可能性にパッと顔を上げれば、アランと視線が交わった。
 そして、
「試してみる価値があると思わないかい」と、彼はその端正な顔に不敵な笑みを浮かべて見せた。