用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて幸せです~

 これからどんな話をされるのか、言いようのない不安が胸の奥でうごめく。
「それもあって、精霊が見える確証が得られない内は、きみにこの話はできなくて……。半ば強制的に言わせることになってしまって申し訳ない」
「い、いえ、そんな謝らないでください。このことを殿下に打ち明けようと決めたのは、私自身の決断です。それに、殿下が私のことを考えてくださっていることは理解しているつもりです」
 気にさせまいと、努めて明るく言えば、アランは強張らせていた顔をほっと緩めた。
「ありがとう。それで、早速本題に移るけど、――ヴィタ国を知っている?」
「いえ、初めて聞きました」
「我が国の北方の領土に昔あった国なんだけど、『精霊の棲む国』と呼ばれていたんだ――」
 アランは昔話をするかのように淡々と話し始めた。
 数百年前、ヴィタ国は山深くて冬は雪が積もるほど寒い気候にありながらも、自然に恵まれて栄えていた小国だった。
 ヴィタ国の王族は、女系で代々女王が国を治めていたという。
 そしてその王族は精霊のいとし子とされ、特殊な能力により国に繁栄をもたらしていたのだが、その力に目を付けた隣国のフラネシア国が突如軍を率いてヴィタ国に攻め入ってきた。
 当時、ヴィタ国と同盟関係にあったカムリセラ国がそれを知り駆け付け、フラネシア国を制圧してヴィタ国を奪還するも、時すでに遅し。
 捕虜になることと力の悪用を恐れたヴィタ国の王族たちは、皆自害した後だったという。
「そんな……」
 あまりに凄惨な出来事に、エレインは言葉を失った。
「ヴィタ国は失われてしまったけれど、我が国の先祖はヴィタ国に起こった悲劇を忘れまいと、ヴィタ国の蔵書などを保管していたんだ。その中の一つが、これでね――」
 テーブルの上に置かれたそれを、アランは慎重な手つきでページをめくると、エレインの方へと差し出した。
 古い羊皮紙は、少し触れたら崩れてしまいそうな危うさがあり、手に取る勇気のなかったエレインは身を乗り出して文字を覗き込む。
 そこに書かれていた文字よりも先に、描かれていた絵に目が奪われた。
「これ……」
(私の持ってる指輪に似てる……)
 幅の広いリングとベゼル(台座)はどこにでもあるシグネットリングのそれだが、エレインの指輪はリングのところに植物の葉をモチーフにした彫刻がされているのが特徴だった。
「きみの指輪と似ているだろ」
「でも、これはベゼルに刻印があります。私のは無地です」
 もともと署名のための指輪なのに、エレインの指輪には刻印がなかった。かなり古いものらしく、時間の経過で削れてしまったのだろうと、特に気にもしていなかったが。
「そうだね。でも、この彫刻は、ヴィタ国の象徴でもあったフランキンセンスを模したものらしい」
「フランキンセンスの……」
 身近な存在が話に出てきて、エレインは戸惑う。
 指輪もフランキンセンスも、母から譲り受けたものだ。
 それが、名前も聞いたことのない亡国と自分と一体全体なんの関係があるというのか。
 全く持ってわからないことだらけで、それ以上言葉が出てこなかった。
「この本には、王家の血を引くものにしか精霊は見えず、力も使えないと書いてあった」
「……」
(え……?)