用済みだと捨てたのはあなたです、どうかおかまいなく~隣国で王子たちに愛されて幸せです~


 後回しにしてしまった教会へ向かい、孤児たちに文字の読み書きや計算を教えたエレインが礼拝堂に向かうと、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。
 その中にハーブという単語を聞き取ったエレインは、そっと中の様子を伺った。
「困ります。何度も申し上げているように、今はハーブのブレンドは行っていないのです。お力になれず申し訳ございませんが、お引き取りください」
「では、いつならしていただけますか? しばらくはこちらに滞在しておりますので、どうか」
 申し訳なさげに頭を下げる神父に、長身の男性が低姿勢で頼み込む姿があった。後ろ姿しか見えないが、とても質のよいコートを着ているところを見ると、貴族だろう。
 エレインは話しを聞きながら二人の元へと近づいていく。
「それが、フォントネル産ハーブは今品切れ状態が続いていまして入荷目途が立っていないのが現状なのです」
「そんな……。お願いします、まだ幼い家族が苦しんでるんです……どうにかならないでしょうか……」
「そう言われましても……あっ」
 神父がすぐ近くに来たエレインに気づきハッとする。それにつられて貴族男性もこちらを振り返った。
 エレインは男性を見上げる。
 どこまでも続く夏空のように澄み渡る碧眼が、エレインの姿を捉え、ほんの一瞬だけ驚きの色が滲んだ。
 宝石を埋め込んだような瞳を縁取るまつ毛は長く、上品な弧を描いて頬に影を落としている。凛々しい眉に洗練された頬のラインと鼻梁、どこを取ってもケチのつけようがない美男子だ。
 よく手入れされた艶やかな黒髪はセンターで分けられ、晒された額は理知的な印象をエレインに与えた。
 さらに、エレインは彼の周囲に視線を巡らせ、見えた光景に微かに目を瞠る。
(この人……何者なのかしら……)
「あの……」
「あ、申し訳ございません。お話しを中断する無礼をお許しください。ほかの方のご迷惑になるので、場所を変えてお話を聞かせていただけますか? 神父さま、調合室をお借りしても?」
「それは構いませんが、誰か人を付けましょう」
「いえ、その必要はありません」
「ですが……」
 素性の知れない、しかも男性と二人きりになるのを心配してくれているのだろうが、エレインはそれを丁寧に断って男性を調合室へと案内した。

 調合室は、礼拝堂の奥にある小部屋を改修して作ったハーブのブレンド専用部屋だ。
 ここでは、毎週土曜日に体調不良を訴える民の、一人ひとりに合わせたブレンドを行っていた。ただ、先ほど神父が言っていたように、需要に供給が追いついておらず、今は以前から継続的に利用していいる症状の重い人でかつ薬を買えない貧しい人にだけ提供しているため、こうして新規のしかも見るからに裕福そうな人からの依頼はすべて断っていた。
「では、ハーブを必要とされている方の性別、年齢、身長、体重、困っている症状についてお聞かせください」
 前置きもなくそう聞かれ、男性は目を丸くした。