天気のよい昼下がり、ベッドに横になるエレインにブランケットを掛け、甲斐甲斐しくお世話をするテオの姿があった。
「寒くなぁい? おねつは?」
 ベッドに両手で頬杖をついてテオがそう訊ねてくる。
 一直線に揃えられた前髪の下から覗く、曇りなき瞳に至近距離で見つめられて、エレインは悶絶しそうになった。
 ずっと赤ちゃん語しか発せず、ハイハイしかできなかったテオが、こうして自分の世話を焼いているなんて、と感動すら覚える。
「大丈夫です。ありがとうございます、テオさま。エレインはすっかり元気なので寝ていなくてもいいんですよ」
 エレインが倒れたあの日から、丸二日が経過していた。
 倒れた日と次の日一日ずっと寝て過ごしたら、体は驚くほど軽くなった。食欲も戻り、今日はずっと調子が良いのだが、
「だめ。エレイン寝てなきゃだめってアラン言ってた。ぼくはエレインのおいしゃしゃん」
(はぁ、なんて可愛いお医者さんでしょうね)
 と、こんな調子でテオのお医者さんごっこの相手をして癒されながら一日が過ぎていく。
 ハーブのことも気がかりだが、契約主であるアランに働くなと言われてしまえば、従う他なかった。
「テオ先生、エレインは少しお腹が減ったので、一緒におやつにしませんか?」
 そう提案すると、テオはぱあっと顔を輝かせ、名案だとばかりに頷いてニコルと部屋を出ていった。
 その一生懸命な姿を見送って、エレインは息を吐く。
 可愛いテオと一緒に過ごす時間はとても癒されるが、エレインの胸の内は今穏やかではなかった。
 ――エレイン、きみには精霊が見えているね。
 アランに言われた言葉は、エレインの日常をひっくり返すほどの衝撃を持っていた。
(まさか、殿下がご存じだったなんて……)
 エレインは、これまで精霊が見えることも、力のことも、母以外の人に話したことはなく、それを他人から指摘されるようなことは一度もなかった。
 もちろん、そのような人に出会ったこともなければ話を聞いたこともない。
 それなのに、アランは見事言い当ててみせたのだ。
 エレインは心底驚き、絶句した。
 それはもう肯定しているのとほぼ同じだったのに、アランはその後『無理に言わせるつもりはないんだ。どうしたいかよく考えて、結論が出たらその答えを聞かせて』とエレインに猶予を与えてくれた。
 さらにアランはこうも言った。
『その内容によっては、俺の知っていることもすべて包み隠さずきみに共有しようと思う。エレインの力になれるかどうかはわからないけど』
「殿下の知っていること……」
 それはきっと、精霊とこの力に関することだろう。
(知りたいけど……、怖い……)
 一体どんな話しなのだろうか。