「今回のは、我が国の貿易体制の落ち度でもある。それをこうしてきみのおかげで早期に発見できたのだから、感謝してるくらいだよ」
「そうおっしゃっていただけるなら幸いです」
 話がひと段落したところで、「それからもう一つ」とアランが一枚の便箋を差し出した。
「きみの父君からの手紙だ。申し訳ないが、中身は(あらた)めさせてもらったよ。王宮に届く手紙はすべて検閲する決まりなんだ」
「それは構いません。――今読んだ方がよろしいのでしょうか?」
(お父さまは私がここにいることをご存じだったのね)
 婚約破棄騒動から一切連絡を取っていないのに、今さらエレインの居場所を突き止めて手紙など、どういう風の吹き回しだろうか。
 エレインは嫌な予感しかしない。
「あぁ、ここで頼む」
 恐る恐る読めば、エレインの予想は見事に的中した。
 ――私の可愛い娘、エレインへ
 そんな白々しい言葉から始まった手紙には、ハーブが枯れてしまい収益が無く困っていること、シェリーの結婚の支度金に金を使ってしまったことなどが恥ずかしげもなく記され、最後にはエレインを王太子の口車に乗せられて勘当してしまったことを後悔している、一刻も早く帰ってきてハーブづくりを手伝って父を助けてほしい、という旨がつづられていた。
 読み終わったエレインは、その身勝手すぎる内容にほとほと嫌気が差し、体から力が抜けていく。
 エレインがハーブ事業に尽力していたときなど、労うどころか見向きもしなかった父が、いざ窮地に立たされた途端、手のひらを返してくるなど虫が良すぎるにも程があった。
(ため息しかでないわ……)
 エレインは怒りを通り越して呆れてしまう。
「父君とは折り合いが悪かった、と記憶しているけれど」
 読み終わったのを確認して、アランが口を開く。彼は王太子の誕生日パーティーで、エレインが父から勘当されている場面を目の当たりにしている。
「はい……、父は政略結婚だった母と私を疎んでいましたから……」
 肯定すれば、アランは眉根を寄せる。
「なのに、困った途端きみをまた呼び戻そうとするなんて、勝手にもほどがあるな」
 拳を握りしめて怒りを露わにするアランの姿を見て、冷え切っていた心の奥が温かくなる。
 アランが、自分のために怒ってくれているのだと思うと、それだけで父への怒りは湧いてこなかった。
「父には申し訳ありませんが、帰るつもりも父の手助けをするつもりもないとだけ返事を出そうと思います」
「そうだね。こういう輩にははっきり断った方がいいだろう」
「はい。お知らせいただきありがとうございました。――では、失礼いたしま」
「あ、待って」
 アランの仕事の邪魔をしてはいけないと思い、早々に退室しようと立ち上がったエレインの腕をアランが掴んだ。