リゼット率いるデルマス商会に商品を卸すため、エレインは準備を着々と進めていた。リゼットとの話し合いにより、更地からハーブを育てるのでは時間がかかるため、王都からほど近いハーブ園を買い取り、エレインが管理することになった。
 足りないハーブも苗を買って植えていき、できる限り短期間での出荷を目指す。
 育成の管理はもともとの農夫に頼み、エレインは人知れず力を使うだけ。
 いくら肥沃な土地だとは言え、広大なハーブ園で成長速度も上げるとなるとかなりの体力を消耗してしまう。
 毎日のようにハーブ園に通い力を使い、往復の馬車の中で横になり泥のように眠り、少しでも体力回復に務めた。しかし、それとは別に王宮ではこれまでの平常業務をこなす忙しい日々を送っているため、エレインの疲れは日に日に増す一方だった。
「ニコル、もう少し隈を隠せないかしら。血色ももう少し明るくしてほしいのだけど」
 化粧台の前、ニコルに化粧をしてもらいながら、そう願い出るも「無理です」と一刀両断されてしまう。
 鏡の中のエレインは、隈に加えて顔色も悪くとてもひどい顔をしていた。
 寝ていないわけではないのだが、体力の消耗が激しく食欲もわかないため体重も減る一方だ。
 ニコルから、「もっと食べてください」「早く寝てください」と言われて渋々、といったところ。
「これ以上厚塗りしたら、テオドールさまにおばけー!って泣かれますよ」
「ひ、ひどい」
「事実を申しているまでです」
「もっとひどい」
 無理はしないと約束したにも関わらず、日々は目の回るような忙しさで、力を使い過ぎてかつてない疲労感に襲われていた。
(ふわふわさんたちの力でも疲れが取れなくなってきてる)
 毎晩、精霊たちがエレインを癒してくれていたが、そもそもエレインの中のエネルギーが枯渇している状態では、なす術がないようだった。
(殿下に会わなければいいのだけれど……)
 ――というエレインの密かな願いは、あっけなく散ることになる。
 午前中にハーブ園から戻ると、アランの従者のセルジュがエレインを呼びに来た。
 アランの執務室に入ると、アランが立ち上がって迎え入れてくれる。
「あぁ、エレイン、忙しいのに呼び出してすまない」
 ソファを進められて腰かけると、早々にアランが話を切り出した。
「市場で見つけたヘルナミス国の『若返りの水』だけれど、エレインが心配した通り、品質が悪く、肌が荒れた、気分が悪くなったという苦情が数多く出ていた」
「そうですか」
「だから、輸入を禁止するよう通達を出しておいたよ」
「お手数をおかけします」
 エレインが謝罪すると、アランが笑いをこぼす。
「きみの過失ではないよ」
「ですが……」
 ハーブの質が落ちたのは間違いなくエレインがいなくなったためなので、少なからず責任を感じていた。まさか隣国にまで販路を広げてくるとは思ってもいなかった。