その後も市場を歩いて周り、お菓子や食べ物を買ったり食べたりして露店を見て回り、楽しいひとときを過ごしていた。
しかし、テオが目を擦って眠たそうにしているのを見て、そろそろ帰ろうかとなったときだった。
「寄ってらっしゃいなー! 今日は珍しい物が入ってるよ! なんと隣国ヘルナミス国王室御用達の若返りの水だい!」
ヘルナミス国という言葉に、エレインたちの歩が止まる。そこは他の人だかりができており、露店よりも人気のようだ。
二人は顔を見合わせると、頷いて声の主の露店へと向かった。
「店主、若返りの水とはまた魅力的だね」
人がはけたところを狙ってアランが訊ねると、店主は揚々と商品について説明しはじめた。
「なんでも、ヘルナミス国の王太子殿下が、婚約者のために作った逸品でしてね。これを毎日塗れば、シミや皺が薄くなって若返るんだと! 製造販売元もヘルナミス国王室だから品質は保障されたも同然さ!」
その話に、エレインは目を見開く。
(王太子殿下が? ハーブの知識もないのに?)
あれほど「草なんか」と興味も示さなかったダミアンが、とエレインは信じられなかった。
「香りを試させて頂けますか?」
「もちろんさ!」
店主が瓶の蓋を開けてこちらへ向けてくれるので、エレインは顔を近づける。
すると、強烈な香りが鼻を刺し、思わず顔をしかめそうになった。
(ハーブを手あたり次第混ぜてあるだけだわ……。角の立ったツンとする香りは質の悪いハーブを使っているか、抽出方法に問題がありそう。それに、オイルの酸化した匂いもする……。こんなのを肌に塗ったら瞬く間に荒れてしまいそう)
「どうだい、華やかな香りだろう。上質なハーブがふんだんに使われているんだとよ!」
店主は自慢げに声をあげる。
「でも、そんなに質のよいものが、どうしてこんなに安価で売られているのですか?」
(輸送費だって関税だってかかるはずなのに……。それに王太子殿下がこんな安い値段で売るはずがないと思うのだけど)
エレインが売値を相談すると、必ず「そんな安い値段じゃ話しにならん」と倍以上の価格を言ってきたくらいだった。
「それはもう、王太子殿下の深ーい懐の成せる技なのさ! この素晴らしいハーブ水をたくさんの人に使ってほしいとね!」
「そう、ですか……」
エレインはどうしたものかと頭をひねった。
(これが市場に出回るのを黙って見ているのも気分が悪いし、かと言って店主に指摘したところで信じて貰えないだろうし……。困ったわ)
「品物はここにあるだけで全部か?」
「あぁ、どんどん売れていったからね! 残りはこれだけさ」
「そうか、なら全部頂こう」
(えっ)
「おぉ! ありがとうございます旦那!」
驚いてアランを見上げると、彼はエレインを見て頷くだけだった。
包んでもらった商品を、アランは少し離れたところに居た護衛の一人に渡して二言三言話した後に戻ってくる。
「あの、よろしかったのですか、あんなにたくさん……」
「ひっかかるところがあったんだろう?」
「はい……あまりにも質が悪く、使うと健康被害が出そうでどうしたものかと……」
周りを漂っていた精霊たちが、瞬時にどこかへ散っていってしまったので、エレインの勘違いではないだろう。
「そうか。俺も少し気になったから、出所を調べるように指示してきた」
「ありがとうございます」
「さ、帰ろう。テオが寝てしまった」
そう言われて顔を上げると、アランの肩に顔をこてんと乗せて眠る可愛いらしいテオの姿があった。
しかし、テオが目を擦って眠たそうにしているのを見て、そろそろ帰ろうかとなったときだった。
「寄ってらっしゃいなー! 今日は珍しい物が入ってるよ! なんと隣国ヘルナミス国王室御用達の若返りの水だい!」
ヘルナミス国という言葉に、エレインたちの歩が止まる。そこは他の人だかりができており、露店よりも人気のようだ。
二人は顔を見合わせると、頷いて声の主の露店へと向かった。
「店主、若返りの水とはまた魅力的だね」
人がはけたところを狙ってアランが訊ねると、店主は揚々と商品について説明しはじめた。
「なんでも、ヘルナミス国の王太子殿下が、婚約者のために作った逸品でしてね。これを毎日塗れば、シミや皺が薄くなって若返るんだと! 製造販売元もヘルナミス国王室だから品質は保障されたも同然さ!」
その話に、エレインは目を見開く。
(王太子殿下が? ハーブの知識もないのに?)
あれほど「草なんか」と興味も示さなかったダミアンが、とエレインは信じられなかった。
「香りを試させて頂けますか?」
「もちろんさ!」
店主が瓶の蓋を開けてこちらへ向けてくれるので、エレインは顔を近づける。
すると、強烈な香りが鼻を刺し、思わず顔をしかめそうになった。
(ハーブを手あたり次第混ぜてあるだけだわ……。角の立ったツンとする香りは質の悪いハーブを使っているか、抽出方法に問題がありそう。それに、オイルの酸化した匂いもする……。こんなのを肌に塗ったら瞬く間に荒れてしまいそう)
「どうだい、華やかな香りだろう。上質なハーブがふんだんに使われているんだとよ!」
店主は自慢げに声をあげる。
「でも、そんなに質のよいものが、どうしてこんなに安価で売られているのですか?」
(輸送費だって関税だってかかるはずなのに……。それに王太子殿下がこんな安い値段で売るはずがないと思うのだけど)
エレインが売値を相談すると、必ず「そんな安い値段じゃ話しにならん」と倍以上の価格を言ってきたくらいだった。
「それはもう、王太子殿下の深ーい懐の成せる技なのさ! この素晴らしいハーブ水をたくさんの人に使ってほしいとね!」
「そう、ですか……」
エレインはどうしたものかと頭をひねった。
(これが市場に出回るのを黙って見ているのも気分が悪いし、かと言って店主に指摘したところで信じて貰えないだろうし……。困ったわ)
「品物はここにあるだけで全部か?」
「あぁ、どんどん売れていったからね! 残りはこれだけさ」
「そうか、なら全部頂こう」
(えっ)
「おぉ! ありがとうございます旦那!」
驚いてアランを見上げると、彼はエレインを見て頷くだけだった。
包んでもらった商品を、アランは少し離れたところに居た護衛の一人に渡して二言三言話した後に戻ってくる。
「あの、よろしかったのですか、あんなにたくさん……」
「ひっかかるところがあったんだろう?」
「はい……あまりにも質が悪く、使うと健康被害が出そうでどうしたものかと……」
周りを漂っていた精霊たちが、瞬時にどこかへ散っていってしまったので、エレインの勘違いではないだろう。
「そうか。俺も少し気になったから、出所を調べるように指示してきた」
「ありがとうございます」
「さ、帰ろう。テオが寝てしまった」
そう言われて顔を上げると、アランの肩に顔をこてんと乗せて眠る可愛いらしいテオの姿があった。



