(えぇ……否定しないの?)
 戸惑いながらも、エレインは品物に目をやる。
 そこには、木で作られた工芸品が並んでいる。
「わ、すごい。綺麗……」
「そうだろう、南のリンデル地方の工芸品でね、磨いた貝殻を埋め込んだ螺鈿細工ってやつさ。まぁちょーっと値は張るけど、職人が一つひとつ丹精込めて作った一級品だよ」
 青や白、紫など角度によって色が変わって見える、宝石ともまた違った趣のあるそれに、エレインの目が釘付けになる。
 その間、店主はテオに向かって「坊やはくまさん買ってもらったんだねぇ、可愛いじゃないか」と陽気に話しかけてくれていた。
(色んな色が入っていて、花束みたい……)
 普段、宝飾品に無縁の彼女でもその輝きに魅入られた。
 ほぼ無意識に、その中からオーバル型のバレッタを手に取る。黒地に螺鈿で花を(かたど)った髪留めだ。
「綺麗だね」
「はい、とても」
(ほしいけど……今日は手持ちがないわ)
 縁がなかったのだ、と名残惜しくもそれを元に戻す。
 すると、アランがそれを手に取った。
「これを貰おう」
「まいど!」
(え? 殿下が? どなたかに差し上げるのかしら?)
 と、不思議に思っていると、「ちょっと動かないでね」と後ろに回り込んでエレインの髪に触れた。
 パチンと金属が嵌る音がして頭に手をやれば、そこにはバレッタが留められている。
「うん、よく似合ってる。なぁ、テオ」
「ん!」
「えっ、え、あ、で、でん……」
 殿下と言いそうになり口をつぐむ。
「あ、ありがとうございます。あの、後で代金を……」
 こそこそとアランに聞こえる程度の声で言うも、街の喧騒に遮られて「ん? なに?」と届かない。
「揃いでご主人もどうだい? 可愛い奥さんに選んでもらったらいいじゃないか」
「そうだね、せっかくだし。エレイン、俺に似合いそうなものを選んでくれる?」
「えっ……、わ、私が選ぶんですか?」
「きみに選んでほしいんだよ」
 エレインが戸惑っている内に、話がどんどん進んでいき、止める隙もない。
「照れちゃって、可愛い奥さんだねぇ」
「そう、俺の妻は謙虚で可愛いんだ」
「まー! 惚気ちゃって!」
(うぅ、やめて……。絶対私の反応で楽しんでいるんだから……)
 悪乗りにも程がある。
 と、アランに恨めしい気持ちで一杯になるも、エレインは真剣に品物を眺めていった。
 その中の一つ、ラペルピンに目が留まる。
(これ……殿下の瞳の色に似ていて綺麗……)
 王族の彼が身に着けるにはいささか安価ではあるが、黒と青のシックなそれはきっと落ち着いた彼によく似合うだろう、とエレインはそれに決めた。
「これはいかがでしょうか?」
「うん、いいね。気に入ったよ、ありがとうエレイン」
「まいどありー!」
 ラペルピンは包んでもらい、会計を済ませて露店を後にする。
 アランはとても上機嫌だった。
「すみません、立て替えていただいてしまって。帰ってからちゃんと代金をお支払いしますので」
 店から離れたところを見計らい、エレインが恐縮しながら言う。
 エレインは、自分が物欲しげにしたために、アランが立て替えてくれたのだと勘違いしていた。
「違うよ、エレイン。それは俺からきみへのプレゼントだよ」
 どうしたらそんな考えになるのか、とアランは驚いた表情でこちらを見る。
「そ、そんな、頂く道理がございません」
「道理もなにも、俺がきみに贈りたいと思ったからそうしただけだ。それとも、俺からのプレゼントは受け取りたくない?」
 しゅんと眉尻をさげて落ち込んだような顔をされ、エレインはぎょっとする。
「そんなわけ! とても嬉しいです!」
「ならなにも問題はないね」
(もう……ずるいんだから……)
 けろっと元通りご機嫌になったアランを見て、エレインはそれ以上なにも言えなかった。