三人は、目立たないようにと庶民の格好をして教会を訪れる。
(と言っても、殿下もテオドールさまも、容姿が素晴らしすぎてまったく隠せていませんけど)
街馬車を借りての移動のため、そこまで目立たずには済んだが、それでもすれ違う人達はちらちらと彼らを振り返った。
視線には慣れているのか、アランは気にも留めず堂々と歩いていく。
まだ歩こうとしないテオは、アランの腕に抱えられていた。
礼拝堂で祈りを捧げてから、近くの信徒に声を掛けると、事前に話を通していたのもありすぐに応接室に通された。
「ようこそおいでくださいました。私は神父のブランシェと申します」
「エレインと申します。今日はよろしくお願いいたします」
簡単に名乗り、早々に本題へ移る。
どのような年代や症状の患者が多いのか、どのような効果のものがあれば助かるのか、といった質問をして最近の傾向を聞き取っていった。
「ありがとうございます。有用なお話を伺えました。最後に、こちらが運営されている孤児院では、お困りごとなどはございませんか?」
「そうですね、汗疹が出ている子どもが数人、それと、寝る前に咳が止まらなくなって苦しそうな子どももおります。オイルを塗ったり、ミント水を飲ませたりしているのですがなかなか」
「それでしたら、ちょうどよいものがあります」とエレインは持参した鞄から瓶と手のひらサイズの缶を取り出す。
「汗疹にはこのラベンダーの蒸留水を塗ってあげてください。普通の水よりもあたりが柔らかいのでよく肌になじみます。それから、咳にはこちらを」
丸い缶の入れ物を開けると、乳白色のバーム状の物が詰められている。
「蜜蝋にジャーマンカモミールなど鎮静作用のハーブオイルを混ぜて固めたものです。寝る前に喉元や胸元によく塗り込んでみてください。林檎のような香りなので、子どもも嫌がらないと思います」
「おぉ、なんとありがたい。ジャーマンカモミールは一年草なので、うちの畑では育てていないのです」
(こんなに大きな教会でもハーブを選んで植えなければいけないのだから、小さなところはもっと困っているはず……)
エレインは、自身がこれから進むべき道筋が少し見えた気がした。
「しかし、エレイン殿のブレンドは驚くほど効き目がよくて、服用も少量かつ短期間で済むので大変助かっています。医学書にも載っていないブレンドばかりですが、独学で学ばれたのですか?」
神父が心底不思議そうに訊ねてくるのを、エレインは「そうですね……」と少し考える素振りをする。
(ブレンドは、ふわふわさんの気まぐれでできたものがほとんどなのよね)
エレインがブレンドしていると、まるで「これを使え」とでも言うかのようにふわふわさんが特定のハーブの周りに集まるのだ。
そして、それを使って作ったブレンドは、必ず抜群の効果を発揮する良薬となる。
「基本的な知識は全て母から教えてもらいましたが、ブレンドに関しては……、そうですね、“精霊がやってきた”とでも言いますか……。偶然の産物なのです」
そう茶目っ気に微笑んで見せるエレインに呆気に取られた神父だったが、その後「そうですか、精霊の仕業でしたか」と笑った。
(と言っても、殿下もテオドールさまも、容姿が素晴らしすぎてまったく隠せていませんけど)
街馬車を借りての移動のため、そこまで目立たずには済んだが、それでもすれ違う人達はちらちらと彼らを振り返った。
視線には慣れているのか、アランは気にも留めず堂々と歩いていく。
まだ歩こうとしないテオは、アランの腕に抱えられていた。
礼拝堂で祈りを捧げてから、近くの信徒に声を掛けると、事前に話を通していたのもありすぐに応接室に通された。
「ようこそおいでくださいました。私は神父のブランシェと申します」
「エレインと申します。今日はよろしくお願いいたします」
簡単に名乗り、早々に本題へ移る。
どのような年代や症状の患者が多いのか、どのような効果のものがあれば助かるのか、といった質問をして最近の傾向を聞き取っていった。
「ありがとうございます。有用なお話を伺えました。最後に、こちらが運営されている孤児院では、お困りごとなどはございませんか?」
「そうですね、汗疹が出ている子どもが数人、それと、寝る前に咳が止まらなくなって苦しそうな子どももおります。オイルを塗ったり、ミント水を飲ませたりしているのですがなかなか」
「それでしたら、ちょうどよいものがあります」とエレインは持参した鞄から瓶と手のひらサイズの缶を取り出す。
「汗疹にはこのラベンダーの蒸留水を塗ってあげてください。普通の水よりもあたりが柔らかいのでよく肌になじみます。それから、咳にはこちらを」
丸い缶の入れ物を開けると、乳白色のバーム状の物が詰められている。
「蜜蝋にジャーマンカモミールなど鎮静作用のハーブオイルを混ぜて固めたものです。寝る前に喉元や胸元によく塗り込んでみてください。林檎のような香りなので、子どもも嫌がらないと思います」
「おぉ、なんとありがたい。ジャーマンカモミールは一年草なので、うちの畑では育てていないのです」
(こんなに大きな教会でもハーブを選んで植えなければいけないのだから、小さなところはもっと困っているはず……)
エレインは、自身がこれから進むべき道筋が少し見えた気がした。
「しかし、エレイン殿のブレンドは驚くほど効き目がよくて、服用も少量かつ短期間で済むので大変助かっています。医学書にも載っていないブレンドばかりですが、独学で学ばれたのですか?」
神父が心底不思議そうに訊ねてくるのを、エレインは「そうですね……」と少し考える素振りをする。
(ブレンドは、ふわふわさんの気まぐれでできたものがほとんどなのよね)
エレインがブレンドしていると、まるで「これを使え」とでも言うかのようにふわふわさんが特定のハーブの周りに集まるのだ。
そして、それを使って作ったブレンドは、必ず抜群の効果を発揮する良薬となる。
「基本的な知識は全て母から教えてもらいましたが、ブレンドに関しては……、そうですね、“精霊がやってきた”とでも言いますか……。偶然の産物なのです」
そう茶目っ気に微笑んで見せるエレインに呆気に取られた神父だったが、その後「そうですか、精霊の仕業でしたか」と笑った。



