*家族サイド

 エレインの婚約破棄騒動から早数日。
 ヘルナミス国では、王太子のダミアンとシェリーの婚約が正式に交わされ、数か月後に結婚式を挙げることがすでに決まっていた。
 あの騒動の日から忽然と姿を消したエレインについて、一体どこに行ったのだろうかと噂になったのはほんの二、三日で、一週間以上経った今では口にする人もいなくなった。
(邪魔者はいなくなったし、ダミアンさまと婚約もできたし、全部が完璧だわ)
 来週からはエレインも受けていた妃教育が始まるが、適当に流しておけばいいだろうとシェリーは考えている。
「これとこれでしょう。それから、そのルビーと……パールのネックレスも頂くわ」
 今日は、宝飾品を新調するべく、屋敷に宝石商を呼びつけていた。
 気に入ったアクセサリーを、片っ端から指さしていく。
 宝石商は、王太子の婚約者の家に呼ばれ、ここぞとばかりに大ぶりな宝石のついた宝飾品ばかりを持ってきていた。
「さすが、王太子妃となるお方は見る目が違いますなぁ!」
「ふふん」
 明らかなおべっかだと気付いていないのか、シェリーは得意げに胸を張る。
「そうだろう、私の自慢の娘で王太子妃だからな!」
 同席していた父のジャンと母のマチルダも鼻高々だ。
「ちなみにですが、お支払いの方は……」
「ちゃんと用意しているに決まってるだろう。そう急かすでない」
 テーブルの上に置かれたまん丸とした革袋に、宝石商の目が光る。
「王太子妃殿下に相応しい宝石を持ってまいりましたよ」
「見せてちょうだい」
(王太子妃殿下ですって! 気分は最高ね!)

「ねぇ、あなた、こんなにたくさん大丈夫ですの? いくらなんでも買い過ぎでは?」
 宝石商が上機嫌で帰るのを見送った後、マチルダが心配そうに言った。
 それというのも、エレインのハーブ事業が始まる前の侯爵家は決して領地経営が上手くいっているとは言い難く、事業から一年と少ししか経ってない現在も資金が潤沢とは言えないから。
 さっきも、この一年で溜まった貯金の半分近い額を宝石商に支払っている。
 にもかかわらず、ジャンは「大丈夫だ」と言い切る。
「また草が売れれば金ががっぽり入ってくるし、シェリーは王太子妃殿下になるんだからな」
(この前の出荷分はエレインのせいでろくな利益にならなかったが、これからは全部貴族向けに売れる)
 これまで教会に卸していたのは、慈善活動をした方が貴族としての評価が上がる、というエレインの口車に乗せられてやっていたに過ぎない。
 王室に認められ、娘が王族に嫁ぐことが決まった今、慈善活動などやる意味がないとジャンは考えていた。
「半年後には、私は王太子妃! はぁ……なんだか夢みたい!」
「王太子殿下の心を掴んだ上に、エレインを追い払うなんて、さすが私の自慢の娘だわ」
「んふふ。あの女、どこでなにしてるのかしらね? 行く当てもなく娼館に売られてたりしてぇ!」
 屋敷にはシェリーとマチルダの高笑いが響いた。