王室と共同での事業拡大が進んだことで、ハーブの生産に追われる日々を過ごしながらエレインの毎日はあっという間に過ぎていった。
 教会での活動や孤児への指導、妃教育も欠かさず行っているため、多忙を極めたエレインははた目に見てもやつれていくのがわかるほど。教会や子どもたちから心配されつつも、エレインは精霊に癒してもらいながら一日一日をこなしていた。
 ダミアンとのお茶会から三週間。今日は、ダミアンの誕生日パーティーが開かれる。準備があるからと先週のお茶会はなしになったのはよかったが、パーティーの方が気が重い。
 エレインは今、自室でニコルにドレスを着せてもらっている最中だった。
「それにしても、王室の趣味ってわからないですね……」
 ニコルがドレスを見て控えめに悪口を言う。
 それにはエレインも完全に同意するしかなかった。
 くすんだような緑一色のドレスは地味で、どう見ても未婚の令嬢が着るようなデザインではなかったからだ。
「殿下はいつも白とか青とか明るい服を着られてましたよねぇ。今日はお誕生日なのにこんなに暗い色味で揃えるなんて意外でした」
「そうね」
 ドレスは、婚約者のダミアンと色を揃えたもので、王室が用意したものだ。ダミアンが『私が地味なお前に似合うものを選んでやった』と言っていたから、きっとこれがダミアンの思うエレインに「似合うもの」なのだろう。
(ドレスなんかどうでもいいわ。それより、時間が足りない。足りなさすぎる。勉強の時間も取れないし、ブレンドの練習だってもっとしなきゃなのに……)
 ハーブの生産目途が立った今、王室からは新しいブレンドのハーブティやもっと美容効果の高い化粧水などの製作を急かされている。
 だけどエレインは、そんなものよりも、もっと医療の助けになるものに力を入れたい。
(本当に困ってるのは国民なのだから)
「はぁ……、パーティーなんかに出ている場合じゃないのだけれど」
「エレインさま」
 本音をこぼせば、すぐさまぴしゃりとどすの利いた声が飛んできてエレインは肩をすくめた。
「――さぁさぁ、最後にお顔を整えますから前を向いててください」
 エレインは鏡の前の自分を見た。ブラウンの髪にブラウンの瞳は、珍しくもなんともない地味な色。
 さらに頬はやつれて色艶を失い、目の下には隈ができている。
 お世辞にも綺麗とは言えない自分を、必死に着飾るニコルになんだか申し訳なくなってくる。
 確かに、こんな自分にはくすんだ緑がお似合いね、とエレインは自嘲した。
「もういいわ、ニコル。これ以上厚塗りしたら幽霊と間違えられそう」
「そんな、せめて隈だけでも!」
「もう少しで王宮から迎えの馬車が到着する頃だから急ぎましょう。今度遅刻したら大変だわ」
 身支度を早々に切り上げて二人は王宮へ向かった。