午前三時五十五分。
 暗い大学の廊下は、濡れた貝殻を口の中で転がしたときみたいな冷たさを孕んでいた。
 工房の扉を引くと、空気が一段重くなる。ガラス炉の腹の奥で、ほとんど聴こえない呼吸みたいな低い唸りが、床から靴底へ、骨へ、そして鼓膜の裏へ移ってきた。

 自動点火設定を昨夜、技官と確認した。停電復帰から一定時間の安全点検を経て、午前三時五十分にバーナーへ微圧、五十五分に点火。
 ――火は理屈で扱える。
 理屈は手綱だ。けれど、馬の機嫌は理屈だけではどうにもならない。

 「カツン」と、金属が軽く接吻するみたいな音がして、続けて“空気”が切り替わる。
 ペダルを踏んだわけでもないのに、工房の奥で“ボウ”と火が起きた。
 見なくていいのに、身体が勝手に炉の温度計へ動く。
 目盛りの赤い針は、規定の少し下で震えている。
 今のところ、大丈夫。
 理性が言う。
 膝の裏は、別の言葉を話している。

 ――ゴウッ。

 音の残像は、人の顔より忠実だ。
 半年前の事故の火の声は、いまだに俺の内側に巣を持っている。寝ていても、起きていても、気まぐれに鳴く。合図もなく。
 昨夜、暴風雨のなかで拾った“呼吸”は、すぐにはそれを追い出してはくれない。けれど、薄い膜一枚ぶん、距離を作ってくれている。
 その膜の向こう側から、俺は温度計を覗いた。

 ドアが、気が抜けたみたいに軋んだ。
 まだ冷たい夜気をくぐらせた影が、一歩だけ工房に入ってくる。
「よ。早起き」
 佐伯だった。
 寝癖を帽子で抑えたみたいな頭をして、口角の片方だけで笑っている。
 彼は俺の同級生で、もともとは同じ班のリーダー候補だった。事故の前も後も、俺をよく見ている。見過ぎるくらい。
 「バス、始発まだだろ」と言うと、「自転車」と短く返ってきた。頬に乾いた塩の粉がついている。
「台風、やっと過ぎたし。で、炎上は、まだ過ぎないわけ?」
 炎上。
 あの、SNSの流出の件。
 工房の隅で、昨夜描き直したスケッチは、未だに紙の端が波打っている。
 呼吸を、もうひとつ。

「俺は騒いでない」
「へえ」
 佐伯は炉から目を逸らし、俺へ視線を置いた。目元の影が、最低限の照明で長く伸びる。
「“盗用だ”って騒ぐ暇があるなら、出し惜しみやめなよ」
 出し惜しみ。
 口の中で、ひどくまずい味がした。古いコインを噛んだみたいな、舌の奥に嫌な金属の匂いが残る味。
「何を」
「全部。核心。火の前に立たないのも、どうせ“怪我のせいで”って言えば済むしさ。言い訳する前に、出せるもん、出しなよ。お前、出さないの得意だよな。安全地帯から指示するの、上手だし」
 俺の指先が、勝手に冷えた。
 言葉の正確さは、いつも彼の武器だ。誇張しない。相手の痛むところにピンを打っていく。
 殴るべきかもしれない。
 でも、殴っても、火は消えない。

 「蓮」
 工房の奥から、樹が来た。
 いつもの歩幅。いつもの体重移動。ほんの少しだけ、眠気の混じった声。
 俺の身体は、彼の音を“北”として揃う。
 佐伯は樹を見ると、肩を小さくすくめた。「ああ、海の。……お幸せに」
 揶揄は軽い。軽いほど、深い場所に沈む。
「幸せかどうかは、まだ保留」
 樹は淡々と返した。目だけが笑っていない。
「でも、今は仕事。君は?」
「見物」
「見物料、払ってください。ここ、そういう場所じゃない」
 それを言える樹が、少し羨ましかった。

 佐伯は肩をすくめ直し、壁際に寄った。帰らないつもりだ。
 このままでは、俺は彼のために火に近づく。
 それは違う。
 俺のために近づくなら、まだいい。
 火は、誰かを見返すために抱えるものじゃない。

 喉の奥で、カチ、と潮時計の針の幻が鳴った。
 俺は、樹にだけ届く声量で、言った。
「クラゲの“呼吸”、厚みのリズムで出す。縁と中心の“遅延”を、素材そのものの膨張率じゃなくて、加工後の厚みのばらつきで作る。LEDの波形は誘い水。透明度は光学的に均一に見えるけど、内側の厚みは意図的に不均一。呼吸の位相をずらす」
 樹の目の色が、ほんの少し、深くなる。
 気圧が下がる前の海の色だ。
 彼は、俺の手の甲に指を落とした。
 こん、こん。
 頷きの代わりに、合図。
「“今の君”の案内なら、火も怖がらない」
 低く、まっすぐに言う。
 “今の君”。
 過去じゃない。誰かの目を気にする前でもない。
 今の俺は、火の前に立たない。立てない。
 でも、耳でいられる。

 「……じゃ、監督する」
 俺は、結局、工具を握り直した。
 工具は、嘘をつかない。握り方で、迷いが出る。
 佐伯が壁際で腕を組み、口の端を上げる。
 樹は炉の側面の覗き窓の前に立ち、温度計を俺の方向へ少し斜めに振る。
 俺は、温度ではなく、音を聞く。
 窯の腹に、火が道を作る。
 “ゴウ”と“ゴー”の間。
 燃焼と鼓動の合間の、平らなところ。

「圧は、そのまま。空気を、少し。ノズル、十度。火の縁で触るだけ。――止めて、置く。熱を置く。割るなよ」
 緒方がいれば言えた台詞を、俺は樹へ投げる。
 樹は素直に従い、炉口の奥で火の色を見て、ゆっくり頷いた。
「今、中心、遅れてる」
「遅れてるうちに縁を逃がす。逃がし方は、昨夜の三番。ほんの少しだけ、厚みを、外へ」
「了解」
 制作の音が、工房の壁を柔らかく押す。
 佐伯の存在は、壁の外へ遠のいた。
 俺の視界は、火の音に合うところで、ようやく広がった。

 四時を、潮時計が告げる。
 カチ。
 その瞬間だった。

「蓮」
 樹が、炉から視線を離さずに言った。
「手、借りて?」
 その“借りて”の言い方が、いつもの彼と違っていた。
 自分でなんとかできるけれど、君の手があったほうが、いい。
 そういう、余白を残した響き。

「どこ」
「左、シェードの押さえ。俺の指だと、厚みが読むより先に、皮膚が熱に負ける。距離、君のほうが、正確に測れる」
 救われる側と、救う側。
 そんな線は、本当は最初から曖昧だった。けれど今、はっきりと入れ替わる音がした。
 俺は、炉に近づかない。
 でも、距離は取らない。
 炉の手前、火の縁が頬に呼吸を投げかける場所で、金属の押さえを握る。

 熱は皮膚の表面を舐める。
 怖い。
 怖いけれど、恐怖が“過去の声”へ流れていくのがわかる。
 “今の音”に、恐怖は居場所を失う。
「三秒」
 俺が言う。
 樹が頷く。
「二……一」
 押さえを抜き、樹が火を跳ねさせる。
 縁が、呼吸する。
 中心が、遅れてついてくる。
 厚みが、さざ波みたいに整列した。
 佐伯が壁際で、小さく息を呑む音がした。

 焦げの匂いはしない。
 膝は震えていない。
 俺は、押さえから指を離し、手の甲に、自分で合図を落とした。
 こん、こん。
 樹が、火の向こう側で笑う。
 同じリズムが、返ってくる。

 そのまま一連の作業を終えたとき、外の空は、まだ黒と青の境目を迷っていた。
 工房の窓は、台風の養生テープで格子模様に縛られ、夜明けの最初の一線を、少しだけ欠けさせた。
 それが良かった。
 世界のほうが少し欠けて見えるとき、自分の欠けも、許せる。

「……ふう」
 樹が息を吐く。
 汗が顎の先に溜まり、ぽたりとエプロンに落ちた。
 俺は押さえを布で包み、工具台に戻した。
 佐伯が、壁から離れる。
「――出し惜しみ、やめた?」
「やめたよ。君にじゃない。火に対して」
 佐伯は口の端の笑みを、陰に隠した。
「……まあ、勝手にすれば」
 そう言って、踵を返した。
 ドアが閉まる音は、拍子抜けするほど軽かった。

 工房に残るのは、火の音と、俺たちの呼吸だけ。
 樹は、額の汗を拭いながら、俺を見た。
「ありがとう。助かった」
「どういたしまして」
 言いながら、胸の奥に、初めての質量が落ちた。
 “助けた”という事実の重み。
 頼られたという現実の匂い。
 それは、潮の匂いと似ていた。少しだけ鉄っぽくて、でも、甘さが混ざる。

 五時。
 夜と朝の境目は、潮目に似ている。
 引き潮と満ち潮の縁で、砂が微かに鳴る。
 工房の床も、鳴った。

「もう一本、行ける?」
 樹が問う。
「行ける」
「火、怖い?」
「怖い」
 俺が即答すると、樹は嬉しそうに笑った。
「正常」
「うるさい」
 合図。
 こん、こん。
 返事。
 こん、こん。

 次の一本は、失敗した。
 厚みの位相がずれすぎた。
 縁が先に“息切れ”を起こした。
 俺たちは互いに笑って、原因を分解した。
 失敗は、失敗のままではいられない。
 名前を付ければ、現象になる。現象になれば、次に置く光の位置が見える。

 六時過ぎ、工房の窓へ、やっと薄い桃色が滲んだ。
 昨夜の非常灯の緑が、もう要らない。
 バーナーの炎が青い。
 火の音が低い。
 俺の耳が、低い音を安心と認識することを、身体が覚え始めている。
 脳ではなく、骨が先に覚えることがある。

 樹が、潮時計の蓋を開けた。
 カチ。
 「Aug.20ではないけど」
 「針は、同じ音」
「うん」
 樹は時計を掌で転がし、俺に見せる。「祖父は、朝の針音を、いつも“まっすぐ”って言った。昼のは“忙しい”。夜のは“丸い”。今のは、どう?」
「“端っこが眠い”」
 自分でも訳のわからないことを言った。
 樹は、少しだけ考えてから、頷いた。
「眠い端っこ、嫌いじゃない」

 七時。
 実習班の学生がぽつぽつと工房を覗き、昨夜からの“缶詰組”が戻ってきた。
 緒方が「おはよう」と言って作業台に鞄を置き、柏木が朝食のパンを袋から出し、「あ、クリームが入ってる」と残念そうに言った。
 真帆は袖口を繕ってきた。
 糸は新しく、焦げ跡は、やはりなかった。
「昨日の、覚えてる?」
 俺が訊くと、真帆は深呼吸して頷いた。
「怖くなったら、下がる。下がれないときは、合図」
 彼女は、自分の手の甲を、こん、こん、と叩いた。
 俺は返す。
 こん、こん。

 樹は、俺のところへ歩み寄り、わざといつもより半歩近い距離で立った。
 俺の足が、勝手に角度を直す。
「今日、午後、研究棟の大型水槽で、クラゲのライブ撮影をするんだ。……来る?」
 誘いは、仕事の形をしている。
 俺の心臓は、仕事の速さより早く鳴る。
「行く。行きたい」
「じゃあ、その前に、もう一本」
 樹は笑い、手の甲に指を落とした。
 こん、こん。
 朝の光の中の合図は、夜の合図より軽い。
 でも、意味は、重い。
 俺は返した。
 こん、こん。



 午前十時。
 工房の空気は、パンの匂いと、薄いガラス粉の匂いと、昨夜の残り香が混ざって、新しい日常の匂いになっていた。
 昨夜の試作一号は、やはり出来すぎていた。
 昼の光の下では、呼吸が少し大げさに見える。
 室内の色温度と、海の光のズレ。
 展示のときには、そのズレを説明する言葉が必要になる。
 言葉は、光を傷つけずに近づける“柄”だ。
 柄が長すぎても、短すぎても、火傷する。

「昼、研究棟行こう。――その前に」
 樹が、工具棚から何かを取り出す。
 透明の小さなケースだった。
 中には、細く切られた透明の板状のものが数本、丁寧に包まれている。
「波長変換板。蛍光体。海の“青”に寄せる。君の厚みのリズムと、俺の波長。……合わせれば、呼吸、もう一段階、海に行ける」
 波長変換板。
 海洋学科の、樹の研究室で開発中の片鱗。
 俺は、ほとんど反射で笑ってしまった。
「出し惜しみ、やめたの、君じゃん」
 樹は肩をすくめた。
「今の君が手綱持ってるなら、出しても転ばない」
 合図。
 こん、こん。
 返事。
 こん、こん。

 配線の小片が、光の端を少しだけ引っかける。
 重ねた透明が、光の深さを変える。
 厚みの呼吸と、波長の呼吸が、無理なく握手する。
 佐伯の言葉は、もうどこにも効かない。

 昼前に一旦工房を出ると、校舎の壁が風に打たれて乾いた音を立てた。
 台風の後の空は、洗い立ての白いシャツみたいな色をしている。
 潮の匂いは薄い。
 でも、風の味が、少しだけ甘い。
 俺と樹は、研究棟へ向かって歩いた。
 彼は相貌失認ぎみだ。人混みでは、時々、俺の足音を探す。
 だから、俺はわざと少しだけ踵から着地する。
 コツ、コツ。
 合図みたいな足音。
 彼の歩幅が、無言で合う。

「昨日、君が言った“北”の話、嬉しかった」
 歩きながら俺が言うと、樹は少しだけ目を細めた。
「北は、君の声。だから、今日みたいに“手、借りて”って言えた。方角があると、助けを求める距離が測れる。距離が測れないと、助けを求める前に、溺れる」
「溺れるのは、海だけ?」
「火も、溺れるよ。空気の中で、ね」
 彼は冗談めかして笑い、すぐ真顔に戻った。
「昨夜、君が押さえを持ってくれたとき、俺、安心した。俺の目は燃えるけど、君の耳は燃えない。燃えない耳が火に近いことが、こんなに頼もしいって、目から鱗だった」

 研究棟の自動ドアが開く。
 塩の匂いが薄まり、消毒液と金属の匂いが濃くなる。
 大型水槽の前は、いつも薄暗い。
 クラゲが、昼でも夜でもない光の中、一定のスピードでパルスを打つ。
 樹がタブレットを起動し、カメラと照明の角度を調整する。
 俺は、その横で波長変換板の角度を、ガラス職人の癖で、指先の滑りで探った。
 クラゲの呼吸は正直だ。
 光の角度が、大げさに振れると、呼吸は細る。
 角度が、合うと、傘の縁に、蜂蜜みたいな色が一瞬だけさす。
 それはすぐに、海の青に溶ける。
 溶けた“甘さ”は、しかし消えずに、記憶に残る。
 昨夜の工房の蜂蜜の匂いと似ている。
 記憶の中の匂いは、消臭剤では消えない。

 撮影を終えたあと、樹がふいに言った。
「蓮。……今夜、時間ある?」
 聞き方が、微妙に角度を持っている。
 俺は笑って、わざと、とぼけた。
「仕事?」
「仕事。――と、もう少し」
 彼は真っ直ぐ俺を見た。
 目の色は、海の深いところの温度。
 冷たいけれど、冷たいから、安心できる。
「“合図”を、もう一個、増やしたい」
「もう一個?」
「うん。“おやすみ”の合図。……いい?」
 胸の奥で、潮時計の針が、いつもより少しだけ大きく鳴った気がした。
 カチ。
「いい。俺からも、ひとつ。――“おはよう”の合図も、増やしたい」
 樹は目尻を下げた。
「じゃあ、まず“おやすみ”。今夜、午前四時」
「午前四時?」
「自動点火の前。火が“まだ寝てる”時間。……工房で、二回。こん、こん」
 彼は、俺の手の甲を、軽く叩いた。
 合図。
 こん、こん。
 俺は、返した。
 こん、こん。
 “午前四時の合図”。
 名前が付くと、不思議と、心臓の速度が落ち着いた。



 ――午前三時五十八分。
 昨夜と同じ工房。
 昨夜より、温度の記憶が少ない。
 俺は、炉から離れた位置で、工具を点検し、押さえの布を新しいものに替えた。
 樹は温度計を見て、俺へ角度を傾ける。
 佐伯はいない。
 代わりに、昨夜の自分がいない。
 それだけで、空気が違う。

 三時五十九分。
 樹が、俺の前に来る。
 手の甲に、目を落とす。
「……いい?」
「いい」
 彼は、二本の指で、俺の手の甲を、静かに叩いた。
 こん、こん。
 “おやすみ”。
 針の音と、火の前の静けさと、俺の中の蜂蜜が、同時に薄くなる。
 代わりに、潮の音が入ってくる。
 俺は、同じように返した。
 こん、こん。
 “おやすみ”。
 樹は微笑み、炉へ向かう。
 自動点火は、やはり五十五分。
 火は起きる。
 起きた火は、昨夜より機嫌が良い。
 俺は“耳”で、火と挨拶をする。
 “おはよう”。
 合図。
 こん、こん。
 返事。
 こん、こん。

 “午前四時の合図”は、俺たちの間に、小さな部屋みたいなものを作った。
 そこでは、火も海も、まだ目をこすっている。
 人も、強がりを置いていられる。
 救う側も、救われる側も、名前を脱いで横になれる。

 この先、学祭がある。
 盗用の噂は、完全には消えない。
 佐伯はまた何か言うかもしれない。
 炉は、嫌な音をだす日もあるだろう。
 波長変換板と厚みの呼吸の折り合いだって、簡単ではない。
 それでも、午前四時に二回、こん、こん――と叩けば、そこで一度だけ、世界に名前が貼り直される。
 “今の君”の名前が。
 “今の俺”の名前が。

 俺は樹の背中を見て、少しだけ笑った。
 彼の背中は、海ではなく、火の前でも、迷わず立つ。
 俺の耳は、その背中を、音で見守る。
 押さえを握る指は、もう震えていない。
 怖いままで、震えない。
 それを、人は多分“慣れ”とは呼ばない。
 “合図”と呼ぶ。
 名前があるものは、忘れにくい。

 午前四時五分。
 工房の窓の格子模様から、朝の色がさらに濃くなる。
 火は今日も、機嫌よくわがままだ。
 俺は、今日も、機嫌よく怖がる。
 合図。
 こん、こん。
 返事。
 こん、こん。

 潮時計の針は、相変わらず一定だ。
 “Aug.20”ではない日付けの上でも、針は迷わない。
 俺たちも、迷わないふりをするのではなく、迷い方を練習する。
 午前四時に。
 合図を、二回。
 こん、こん。
 ――“おやすみ”。そして“おはよう”。
 火の前で、海の前で。
 手の甲に、小さな光が二度、触れて、消えた。